IoTで変わる食シーンのいま:ロボットを活用した飲食店の兆し

  • 事業変革

IoT元年と言われた2017年からはや一年。かつての『IT』と同じように、IoTは当たり前のように生活や産業の中に溶け込み、人々の意識や生活、そして産業の在り方を変革していこうとしている。 これまで単独で完結していた家電が、今後はインターネットとつながることで、ユーザーの属性や嗜好を把握し、くらしをアップデートし続けてくれる。そんな世界が10年後には当たり前のものになっているかもしれない。 こういったIoT技術は一般家庭だけでなく、飲食業界の常識すらも変えようとしている。IoTを活用し、オーダーから調理、商品の引き渡しまでの一連のプロセスを自動化しようとする事例が出始めている。

フランスでは、スタートアップ企業が開発したピザロボットによるピザ専門店「PAZZI」がパリにオープンする予定だ。同店にはピザ職人ロボットが常駐し、目の前でピザを焼くデモンストレーションなど、ユニークな飲食体験を提供しようとしている。開発した企業はロボットを活用することで調理時間の短縮と美味しいピザを作ることができると述べている。実際に、人間では1時間に40枚程度が限界だが、3本の腕が同時に動くことで作業を効率的に行うことで1時間に120枚と、3倍もの作業効率を可能にしている。また、世界チャンピオンを3度受賞したピザ職人がレシピ開発を担当し、50万通りの組み合わせからユーザーそれぞれの好みに合ったピザをカスタマイズしてオーダーすることもできるという※1

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1.フランス/ピザ専門店「PAZZI」のピザ職人ロボット

 

また、アメリカのボストンではMITの卒業生とミシュランのシェフがコラボレーションを行い、世界初のロボットキッチン完備を謳うレストラン「Spyce」を昨年にオープンしている。スマートフォンアプリや機体に設置されたタッチスクリーンを通じて料理が注文されると、自動的に適正量がクッキングポッドに移動され、材料を混ぜたり熱を加えながら5分以内に調理されて提供される。

調理できるメニューはまだ5つ程度だが、チャーハンやパスタ、カレーなど、食材を一度で炒めるとこで完成される種類の料理はいずれも調理が可能だという※2

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2.アメリカ/レストラン「Spyce」の世界初のロボットキッチン

 

そして、日本においてもロボットが好みに合わせてコーヒーを入れてくれる「ROBOTS.COFFEE」が昨年末、東京にオープンしている。専用のスマホアプリで好みのコーヒーをカスタマイズしてオーダーし、ロボットがプロのバリスタのハンドドリップを再現してコーヒーを抽出する。

ハンドドリップによるコーヒーの抽出は、熟練のバリスタの技術が必要で、安定して多くの人に提供することはこれまで難しいとされてきた。その様な中でロボットを活用し、熟練のバリスタが長年かけて培ったハンドドリップの技術を再現し、普段では手軽に味わえない「本当に美味しいコーヒー」をより身近に安定的に提供することを可能にしている。

開発者の柴田氏は「元々喫茶店文化がある名古屋で育ってきたが、いつも自分が美味しいと思っている店でも、混雑時には美味しくないときがあるなど、もやもやしていた。そんな中、カモガワ珈琲というコーヒー店で「ハンドドリップは品質を保つのに熟練の技術や集中力を要するが、一方で同じ豆でも挽き方やドリップの仕方などで様々な味わいが出せる」ということを教わり、自分が本当に美味しいと思うコーヒーを常に再現できる機械が作れたら面白いんじゃないかと思った」と語る。

同店は完全な無人店舗ではなく、紙やドリッパーのセットといった下準備やお客様へのコーヒーの提供は人間のスタッフが行い、注文の受付や職人の技術が必要されるドリップをロボットが行う、といった人間とロボットの「協業店舗」ではあるが、目の前でロボットがプロのバリスタのハンドドリップを再現し、美味しいコーヒーが提供されるという新しい体験と共に「自分だけのコーヒー」を飲むことができる※3

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3.日本/コーヒースタンド「ROBOTS.COFFEE」

 

これまで日本の様々な飲食店でも、例えば「寿司ロボット」など調理工程でロボットを活用した事例は多く存在した。しかし、近年登場しているロボットを活用した飲食店の特徴は、「顧客の嗜好に沿った料理を」、「いつも同じクオリティで」、「ロボットが目の前で作る」という新しい体験ができることである。

もちろんその裏には、顧客の好みを収集し判別する仕組みや、そのデータとマッチングするレシピ開発なども必要ではあるが、一度仕組みの開発に成功すれば、スタッフに対する技術指導の必要がなく、また小立地でも展開できるため、横展開がしやすいというメリットもある(ピザロボットを開発した企業は、年中無休24時間体制で、駅や空港などの小スペースでの出店がしやすいと期待が寄せられ、投資ファンドから3億円規模の資金調達に成功している)。

 

今後、厨房の中だけでなく、オーダーや接客、そして普段の会話を通じた自分の嗜好の判別まで含めて、飲食体験の全てがロボットによって提供される時代が来るかもしれない。引き続き今後の飲食店のロボット化に注目したい。

 

 

※1:https://techable.jp/archives/77618
※2:https://roboteer-tokyo.com/archives/3967
※3:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000031042.html

※本コラムは、スルガ銀行グループ 一般財団法人企業経営研究所(http://www.srgi.or.jp/)発行の季刊誌『企業経営 2019年夏季号』(No.147)に掲載された連載「最近のビジネス・コンシューマートレンド」の内容を転載しております。

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