<第1回> ブランディングとは何をすることなのか~4つのブランディング領域と企業事例~

森門 教尊(パートナー)/ 吉田寿美(フェロー)

森門 教尊(パートナー)/ 吉田寿美(フェロー)

  • ブランド構築

いかなる企業にも節目がある。創業何周年といった記念日的なものから、外部環境の急変によって訪れるもの、事業の形態変化とともに訪れるものなど様々だ。こうした節目の時期を迎えた企業は、改めて自身の存在意義を問い直すことを余儀なくされる。自社は結局のところ誰のために存在するのか。その誰かは自社に何を期待しているのか、どのようにしてその期待に応えることができるのか。それは本当に自社にしかできないことなのか。言わば、企業にとっての壮大な「自分探し」のようなものかもしれない。

ブランディングとは、まさにこうした問いに対する答えを導き出し、顧客をはじめとするあらゆるステークホルダーに発信し、さらには共に拡大させていくプロセスそのものである。ロゴマークを作ったり、商標を取ったり、広告やキャンペーンを実施したり…。これらはブランディングを行う手段の一部ではあるものの、決して目的そのものではない。節目を迎えた企業が、守るべき核を失うことなく、新しい自分へと変革していくための方法論が、ブランディングなのである。

本稿は「ブランディングとは何をすることなのか」を4つのブランディング領域に分けて整理し、実際の事例と合わせて紹介することで理解を深めて頂く構成となっている。各企業の置かれている状況によって取り組むべきブランディング領域は異なるため、読者の皆様は自身の企業が抱える経営課題にどの領域の活動が効果的であるかについて思いを巡らせながら読み進めて頂きたいと思う。

各ブランディング領域の全体像

各ブランディング領域をそれぞれ解説する前に、まずは以下の全体像をご覧頂きたい。

brand0820_1

 まず中心には、いかなるブランディング領域に取り組む場合でも共通して必要な0. ブランド提供価値(顧客の期待に対してブランドが提供する価値)の規定がある。ブランド提供価値は、後続のあらゆるブランディング活動の指針であり、中核となるため、必ず最初に規定することが求められる。

続いて、円の周辺には以下4つのブランディング領域が記載されている。これらのブランディング領域には上位概念や下位概念がなく、取り組むべき順番にも決まりはない。

  1. 1.ブランド・コミュニケーション    … ブランド提供価値を社内外に発信する
  2. 2.ブランド・マーケティング         … ブランド提供価値を起点にマーケティング活動を設計する
  3. 3.ブランド・アクティベーション    … ブランド提供価値を起点にユーザー体験を設計し、施策を打つ
  4. 4.ブランド・マネジメント       … ブランド提供価値を起点に自社(事業)ブランドをマネジメントする

それでは各ブランディング領域について、ひとつずつ解説していきたい。

0.ブランド提供価値規定:顧客の期待に対しブランドが提供する価値を決める

brand0820_5

我々は知っているブランド名やロゴマークを見ると、無意識に頭の中に様々なイメージを思い浮かべる。例えばナイキのスウィッシュマークからはアクティブでエネルギッシュなイメージを、アップルのリンゴマークからは最先端でスタイリッシュなイメージを思い浮かべるかもしれない。こうしたイメージに基づき、顧客はそのブランドを利用すればこのような効用が得られるだろうと期待して財布の紐を緩める。対して、ブランドはその期待に応えるべく、一貫した価値を提供し続ける。そうすることでさらに顧客のブランドに対する信頼や愛着が高まり、継続購買につながる。ブランド提供価値規定とは、こうした顧客の期待とブランドによる価値提供の構造を視覚化し、戦略的に設計することを意味している。

ブランド提供価値がどのようなものなのかをご理解頂くため、以前「ブランドはどこに向かうのか②(リンク)」でもご紹介したスターバックスの事例を用いて説明する。スターバックスの創業物語として有名なのは、CEOのハワード・シュルツ氏がイタリアのバールを訪れた際にアメリカにはなかったカフェ文化に感銘を受けてカフェ事業を開始したというものだ。しかしブランディングという観点から見ると、スターバックスの成功要因はその独特なブランド提供価値にある。シュルツ氏はイタリアのバールをそのまま模倣するのではなく、全く新しいブランド提供価値をそこに付加した。それこそが、家庭と職場につぐ「第三の場所=Third Place」という新しい居場所の提供だったのである。

スターバックスのブランド提供価値をフレームワークで表すと以下のようになる(※1)

brand0820_2

このフレームワークは、ブランドの扇と呼ばれ、ブランドが約束する価値を規定する際に用いられる。上に向かって広がるピンク色の扇はブランドが価値を提供する相手であるブランドターゲットを表し、ブランドの思想や世界観に最も共感する層がどのような価値観を持った人々であるのかを示している。下に向かって広がるブルーの扇はブランド提供価値を表し、顧客に提供する価値の具体的な内容を示している。すなわち、このフレームワークを用いて規定されることは、そのブランドが「誰に(ピンク)」「何を(ブルー)」提供するブランドであるのか、ということである。

ブランドターゲット(誰に)

まず特筆したいことは、「ターゲット」という言葉遣いである。

ブランディングの作業で言及されるブランドターゲットはマーケティングターゲットとは異なる。マーケティングターゲットは、ブランドが提供する商品やサービスを実際に購買する層のことである。先ほどのスターバックスの事例に立ち返ると、スターバックスを訪れる顧客層は老若男女様々である。小さな子供向けのキッズビバレッジというメニューも展開されていれば、メキシコではスタッフが全員高齢者というスターバックスも誕生している。より多くの顧客に利用してもらいたいと願うのはビジネスをする以上は当然の願いだと言えるだろう。

一方で、スターバックスのブランドターゲットは「都会的で上質な生活空間を求める人」である。彼らはスターバックスの掲げるブランド提供価値である「第三の場所=Third Place」に最も深く共感する人々であり、実際に購買を行うマーケティングターゲットが憧れを頂く層である。ハリウッド映画でよくスターバックスを片手に仕事の電話をしながら忙しそうにタクシーに乗り込むビジネスパーソンのシーンがあるが、このような都会的な人物像に憧れてスターバックスを訪れる人は少なくない。ブランドターゲットは実在する必要はなく、ブランドを体現する人物のイメージ像として社内外に共有され、今後のブランディング活動全体の指針となるために規定される。

brand0820_3

上記のような目的から、ブランドターゲットを規定する際には、出来る限り人物の背景となる価値観を描出することが重要となる。好きな音楽のジャンルや休日の過ごし方、暮らしにおけるモットーなど、その人の価値観を表す言葉を紡ぎ出す。

ブランドターゲットを規定するのは、ある一過性のキャンペーンやセールスに刺さる相手を見つけ出す作業とは異なる。時間や場所、商材が変われども、そのブランドに呼応する価値観を抱き続ける誰かを探すことが肝要である。

ブランド提供価値(何を)

顧客がそのブランドの商品やサービスを購入・利用することによって得られる価値は大きく分けて2種類ある。

1つ目は、商品・サービスが提供する物理・機能面の効用を意味する機能的価値だ。例えば車であれば「燃費のよさ(燃費性能)」、家電であれば「壊れにくさ(耐久年数)」、スーパーであれば「品揃えの良さ(商品種類数)」など、目に見えて証明できる価値を指す。先ほどのスターバックスの例であれば、機能的価値は「自分自身にとっての『美味しいコーヒー』」である。甘味・苦味などのコーヒーの味は一定の客観性を持って証明できるが、「自分自身にとって」という言葉の中に、美味しさは一人一人感じ方が異なるというブランドの思想が含まれている。その思想はスターバックスの「自分だけのコーヒーをカスタマイズできる(カスタマイズ性の高さ)」という機能的価値として具現化され、スターバックスの競争優位につながっている。

2つ目は、商品・サービスが提供する感覚・気分的な効用を意味する情緒的価値である。スターバックスのコーヒーを購入する理由は、コーヒーの美味しさだけではない。スターバックスが提供する「快適でくつろげる」空間もまた顧客が繰り返し足を運ぶ大きな要因となっている。同じく、車を購入する理由は機能性だけではなく、その車を運転している時に感じる高揚感も重要な要素であることは否定できない。化粧品もまた、気分を高めてくれる小さな紙袋や美しいパッケージ、店舗で購入する際の特別なサービスが価値の一部となっている。情緒価値は目に見えず指標しづらいが、機能的価値と同等かそれ以上にブランドに対する愛着に大きく影響している。

この2種類の提供価値を支えているものが、商品・サービスが持つ具体的な事実・特徴である。規定される提供価値はすべて何らかの事実・特徴に裏付けられている必要がある。ここに記載される事実・特徴は、競合には真似できないブランド独自の強みであること、また機能的価値・情緒的価値の実現に直結するものであることが望ましい。

ブランド・パーソナリティとは、ブランドが醸し出す雰囲気や世界観のことであり、「Aというブランドは〇〇な雰囲気がある」といったフレーズで表現されるものである。ブランド・パーソナリティは直接的な言葉で伝えるものではなく、顧客がブランドと接触した体験の中から自然と感じ取ってもらうものである。そのためには、各顧客接点におけるデザイン要素に統一感を持たせることが重要である。例えば、そのブランドの広告を見た時の印象と、実際に店舗に足を運んだ際に受ける印象は同じものでなければならない。一貫したブランド・パーソナリティは、顧客の潜在意識の中にそのブランドらしさを印象付ける上で大きな役割を果たすのである。

最後に規定されるブランドエッセンスは、これまでに挙げてきた各提供価値要素の全てを凝縮した、いわばブランドの約束そのものを一言で表現するものだ。スターバックスの例では、ここで初めて「第三の場所=Third Place」という言葉が出現する。ここで規定される言葉は今後すべてのブランディング活動の憲法として君臨するものであり、一貫したブランド戦略を実現する要となるものである。

おわりに

ブランド提供価値規定は、まさにブランドにとっての「自分探し」のようなプロセスである。このブランドは誰のために何ができるのだろうかと模索する過程そのものが、ブランドの核を明確化し新しい姿へと生まれ変わる第一歩を踏み出すエネルギーとなる。皆様の企業で実際にブランド提供価値規定を進めるにあたり、注意すべき点をいくつか箇条書きでまとめたので、合わせてご参照頂きたい。

1)   社内を巻き込むことで「合意形成」を図る

ブランド提供価値はブランドを支える全社員が腹落ちできるものであることが重要である。一部のメンバーだけで規定したものを後から社員に伝達したとしても、本当にそうなのか?他に何かないのか?と疑問を持ったままでは、なかなか社員にとって自分ごと化しづらくなってしまう。弊社で実施しているプロジェクトでは、多くの場合社内のキーパーソンへのインタビューに加え、社員向け定量調査、ワークショップなどを実施することにより、社内を巻き込みながらブランド提供価値を規定することが多い。社内の声を網羅的に取り入れる合意形成型で進めることで、ブランド提供価値が机上の空論に陥らず、全社員の拠り所として定着させることができるのである。

2)   「事実・特徴」と「価値」を混同しないよう注意する

ブランド提供価値規定を行う上でよく混同されやすいのが「事実・特徴」と「価値」である。「事実・特徴」は商品・サービスが持つ強みや属性(自社視点)を指しており、「価値」は顧客が商品・サービスを利用することによって得られるメリット(顧客視点)を指している。植物物語というヘアケア・ボディケアブランドを例に挙げると、事実・特徴は「100%植物由来の原料」であり、それだけでは顧客に対するメリットにはならない。この事実・特徴を価値として表現するならば、「肌に付けたときの安全性(機能的価値)」、「長く使っていける安心感(情緒的価値)」など顧客にとっての意味を表す言葉でなければならない。「価値」を検討する際には、必ず「これは顧客にとってのメリットになっているだろうか?」を問い直しながら進めると良いだろう。

3)   「現在視点」と「未来視点」の両方を加味する

もう一つ、ブランド提供価値規定を行う上で陥りやすい落とし穴が「現在視点」のみで規定を行ってしまうというものである。現在保有している事実・特徴を洗い出し、それらを顧客にとっての価値へと昇華させただけのブランド提供価値では、あくまでもブランドの「今」を可視化しただけになってしまう。(このようにフレームワークの下から上へと検討していくこの進め方を“現在視点からのラダーアップ”と言う。)一方、新しいブランドの姿へと変革をしていくためには、ブランドターゲットがどのような人々で何を期待しているのかを明らかにした上で、その人々にどのような価値を提供していくべきなのかを検討し、そのためには「将来どのような事実・特徴が必要になるだろうか(M&AやR&Dによって開発可能な未来の事実特徴)」を明確化する必要がある。(このようにフレームワークの上から下へと検討していく進め方を“未来視点からのラダーダウン”と言う。)ブランド提供価値を規定する際には、「現在視点」だけでなく「未来視点」を加味して進める必要があるだろう。

 

※1:「スターバックス成功物語」ハワード・シュルツ他 日経BP社(1998)

資料名が入ります説明文が入ります。説明文が入ります。説明文が入ります。 お問い合わせ

オススメ記事

業界関連記事

人気記事

コラムカテゴリ