<第3回>ブランディングとは何をすることなのか ~4つのブランディング領域と企業事例

森門 教尊(パートナー)/ 吉田寿美(フェロー)

森門 教尊(パートナー)/ 吉田寿美(フェロー)

  • ブランド構築

本シリーズは、ブランディング4つの領域について紹介することで、ブランディングとは何をすることなのか概要を掴んで頂くことを目的としている。第1回では全てのブランディング活動の前提となる「0.ブランド提供価値規定」について、第2回ではブランドを社内外に発信する「1. ブランド・コミュニケーション」について解説した。第3回となる今回は、ブランドという切り口からマーケティングを捉えなおす「2. ブランド・マーケティング」という領域について詳しく見ていきたい。

 

2. ブランドという切り口からマーケティングを捉えなおす(ブランド・マーケティング)

各ブランディング領域をそれぞれ解説する前に、まずは以下の全体像をご覧頂きたい。

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各ブランド領域の相関図

 

 

 

“マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。

マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。“

――P.F.ドラッカー/マネジメント[エッセンシャル版]

 

企業が行うマーケティング活動の多くは、顧客ニーズを正しく理解することから始まる。顧客はどのような商品やサービスを求めているのか、何を重視して選択しているのか、その情報はどこから得ているのか、どこで買い物をしているのか、どのような価格帯であれば買ってもいいと思えるのか。ありとあらゆる側面から顧客ニーズを徹底的に解剖し、それらのニーズに的確に応えていくことがマーケティングの肝であると考えられてきた。

しかしデジタル・テクノロジーの進展に伴い、マーケティングは全く新しいステージに足を踏み入れる。より多くの人がインターネットで情報収集や購買活動を行うようになったことで、これまで調査を通じて間接的にしか知ることのできなかった顧客の購買意識や購買行動がリアルタイムで追跡できるようになり、TVCMに代表される不特定多数向けの情報提供だけでなく、ひとりひとりの購買傾向に合わせて個別化された情報提供が可能となった。最も買ってくれそうな顧客に対し、その商品が欲しいと思ったタイミングに合わせて、最も響きそうなアプローチで情報を届けることができる。まさにドラッカーが理想として掲げた“販売を不要とするマーケティング”が実現できる環境が整ったかのように思われた。

 

デジタル時代におけるマーケティングの落とし穴

デジタル・マーケティングを実施している企業の多くは、顧客の購買レベルに合わせたアプローチを行うことによって、顧客をどんどんと次の購買レベルへと推し進め、最終的には売上への貢献度が最も高いロイヤルカスタマーを出来る限り多く囲い込むことを主目的としている。これは新規顧客を獲得するコストよりも、既存顧客を維持するコストの方が低いことと、結局はわずか20%のロイヤルカスタマーが将来利益の80%を生み出すことが分かっているからである。

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従来からの顧客アプローチ発想

 

未顧客・潜在顧客については、消費者調査やWEBの視聴行動データなどの第三者データで把握する。中でも自社の商品やサービスに関心を持っていそうな人に対してWEB広告を表示することで、自社サイトに来てもらえるように誘導する。一度でも自社サイトを訪れてくれた顧客は見込顧客となる。アクセスログを分析することで具体的にどの商品やサービスに関心を持っているのか把握できるので、その商品やサービスに関するキャンペーン情報を広告やDMで配信することで購買を促す。購買に至った場合、その人は顧客となる。顧客に対しては、これまでの閲覧履歴や購買履歴に基づいてリコメンドをすることで、アップセル(=同カテゴリの上位モデルの販売)やクロスセル(=他カテゴリの販売)を狙い、ロイヤルカスタマーへの昇格を目指す。

このように顧客化段階を推し進めていくマーケティング手法そのものは決して新しい取り組みではない。しかしデジタルの出現によって、膨大な顧客データ分析が可能になったこと、またデータ取得から情報発信までのプロセス全体がシステム化され、効率化され、自動化されたことは、これまでのマーケティングの在り方に大きな変革をもたらした。この新しい特殊能力をいち早く手にいれるべく、デジタル・マーケティングに対する企業投資は拡大の一途を辿っている。

では、同じプロセスを、顧客の視点から見たらどうだろうか。

気まぐれに閲覧した商品サイトのWEB広告にいつまでも追いかけられたという経験をしたことはないだろうか。何年も前に登録したサイトのダイレクトメールで受信ボックスが埋め尽くされ、大切なメールに気づけなかったことはないだろうか。既に買った商品であるにも関わらず、同じものを何度も買うよう勧められ、うんざりしたこともあるかもしれない。もっと買って、また買って、と顧客をWEBの中で追いかけまわす企業の姿は、顧客にとって、まるでストーカー行為のようになってしまってはいないだろうか。

デジタルによるマーケティングの効率化・自動化は、一見するとドラッカーの言う“おのずから売れるようにする”ことに繋がっているように思えるかもしれない。しかし、システム化されたプロセスの先にいるのは生身の人間であり、無機質な“消費者”ではない。企業が顧客に対して行うアプローチの全てが、企業と顧客による対話であり、コミュニケーションであることを忘れてはならない。どうすればもっと買ってもらえるかばかりに気を取られ、顧客の視点を見失ってしまえば、企業は感情のないロボットになってしまう。

もう一度、企業によるマーケティング活動に息を吹き込み、顧客との人間味ある関係を取り戻すために必要な視点こそが、本シリーズの主題である「ブランディング」である。

 

マーケティング×ブランディングによる新たな可能性

マーケティングとは「売れるための仕組みづくり」であると定義されることが多い。その言葉通り、マーケティング戦略の主目的は、顧客が商品やサービスを探索し、選択し、購入するまでのプロセスを効率化することで短期的な売上目標を達成することにあると言えるだろう。そのためデジタルという新しい技術を駆使し、アナリティクスを活用することで、顧客による購買プロセスを促進させようという試みは極めて合理的な企業行動であることが分かる。

一方、ブランディングの主目的は「顧客との関係構築」にある。ブランドの掲げる価値観に対する共感を集め、このような価値観を持つブランドが提案する商品やサービスであれば間違いないという信頼を獲得することである。すなわち、短期的な購買に繋がらない場合でも、長期的に顧客のブランドに対する信頼や愛着を形成する上で意義のある活動であれば企業が投資する価値があると考えるのがブランディングなのである。

短期的な売上目標の達成を目指すマーケティングと長期的な関係構築を目指すブランディングは、目的の違い故に互いにバランスを取ることが難しいと考えられてきた。しかし顧客の目から見ると、購入に至るまでの一連のプロセスも、価値観や世界観を伝えようとするブランドからのアプローチも、全て同じブランドとの接触であることに違いはない。顧客視点に立ち返り、顧客とブランドの関わりをひとつの大きなプロセスとして描くと以下のようになる。

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これからの顧客アプローチ

 

円の左側を担うのが従来のマーケティングが行ってきた顧客の購買行動への働きかけである。顧客の購買プロセスをデジタルによって簡易化し、効率化することで顧客に価値を提供する。一方、円の右側は顧客が商品やサービスを購入したその先を示している。顧客にとっては、ここからが体験価値の始まりである。購入した商品やサービスを実際に使用し、その体験を文章・画像・動画などの形で表現し、さらにはSNSを通じて体験したことを共有する。共有された情報を見た第三者が商品やサービスに興味を持ち、次の購買行動へとつながっていくこともあるだろう。

体験価値の設計は、共通の「テーマ」に基づいて行われなければならない。例えばアップルが掲げているテーマのひとつは「シンプル」である。それは商品機能やデザインだけでなく、店舗デザイン、商品を届けるための梱包、説明書の省略に至るまで、体験の全てが「シンプル」というテーマに基づいて設計されている。そのため顧客は商品だけでなく、体験に対して価値を見出し、価格を支払うのである。(※1)アップルの掲げる「シンプル」というテーマに共感する人が増えると、今度はその人々がお互いに緩やかな連帯感を覚えるようになる。アップルのシンボルマークを有した商品を持っている人同士が出会うと、それだけでお互いが同じ価値観を持っている同類であるかのようなシンパシーを感じるようになるのである。

体験価値の設計に不可欠な「テーマ」は、まさにブランド提供価値(シリーズ第1回記事参照)と同じものである。そのため、顧客が商品を購入した後の体験価値を増幅させるためには、従来のデジタル・マーケティングにブランディング発想を練り込むことが重要となる。そうすることで、購入を頂点とした無機質な関係から、企業と顧客が互いに共感できるテーマに基づく長期的な関係へと発展させることができる。そして体験価値を増幅させる仕組みもまた、デジタルの力によって大きな進化を迎えようとしている。

 

体験価値を増幅させる「場」の設計

デジタル技術は、マーケティングデータの収集や商品情報の発信を効率化させるだけでなく、距離・時間・規模などの制約を超え、本来であれば出会うはずのなかった人々をひとつの「場」に集め、リアルタイムで対話することを可能にする力を持っている。これはすなわち、コミュニケーションの矢印が企業→顧客だけでなく、顧客→企業、顧客→顧客、企業→企業など、あらゆる方向に向かうようになったことを意味する。

このデジタル世界における相互コミュニケーションの場を、ブランド体験のプラットフォームと言う。プラットフォームは、企業と顧客、企業同士、または顧客同士の相互作用を促進し、それぞれの便益を拡大・増幅するための“協調の場”である。ブランドが掲げる「テーマ」に共感する人々が互いに緩くつながり合い、共感者がまた新たな共感者を生み出す仕組みが自発的に形成されていく。それは商品やサービスに関する情報提供を主目的としウェブサイトとは異なり、時には一企業の枠組みを越え、ブランド体験を増幅させる新たな生態系を創り出そうとする壮大な試みである。

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体験価値を増幅する顧客アプローチ

プラットフォームの出現により、マーケティングにおける永遠の課題のひとつが解決しうることが分かってきている。それは「顧客は自らのニーズを言語化することが苦手である」というものだ。いくらインターネット調査を通じて選択重視点を探ってみても、「価格、性能、利便性・・・」など当たり前の結果しか出てこない。インタビュー調査でどのような商品を求めているかと尋ねても、iPhoneが存在しなかった時代に、iPhoneのようなものが欲しいと答えられた人は居なかったのではないだろうか。顧客は、見たことがないものを欲しいと思えないものである。その為、顧客に答えを求めても、斬新なアイディアが出てくることは稀である。

プラットフォームを活用することでこの課題を乗り越え、成功を収めた企業がある。無印良品だ。ソーシャルメディアが一般化する前の2001年から「モノづくりコミュニティ」を発足。無印良品が提案する商品に対し、無印ユーザーが投票する場として立ち上げられた。その第3弾として登場した商品が、「体にフィットするソファ」である。「すわる生活」をテーマに1人掛けのソファを5つ提案したところ、体を預ける大型のクッションソファに最も票が集まった。さらにこの大型ソファの詳細を詰めるため、ソファのカバー素材、中身の素材など細かな商品仕様に関する提案を重ね、ついに2002年に正式発売。まずはネット通販のみでスタートし、その後店舗での販売も開始。すると開発者も驚くほどの売れ行きを見せ、生産の拡大に追われるほどの人気を集めた。しかし2009年以降、競合他社が同タイプの商品を低価格で販売したことにより売れ行きが落ち込み始めると、ユーザーからのクレームをもとに品質改善をした商品をリニューアル販売。するとある一般人ブロガーが「人をダメにするソファ」として紹介したことで、再び人気に火がついた。その人気は日本を越え、中国やシンガポールなど海外でも好調な売れ行きを見せた。現在「モノづくりコミュニティ」は終了しているが、IDEA PARKというウェブサイトでユーザーと対話しながら商品開発をするという仕組みは継続されている。(※2)

無印良品の事例から分かることは、初めから完璧を目指す必要がなくなった、ということである。いくつか案を出してみて、顧客の声を聞いて改良し、小さく売り出してみて、また利用した人の声をもとに改良を重ねる。こうしたトライ&エラーを顧客と共に行っていくことで、より価値のあるモノづくりができるだけでなく、顧客にとっての体験価値も増幅させることができるのである。ポイントは、顧客に「何が欲しいか?」と答えを求めているのではなく、自分たちで生み出したアイディアを形にして「これをどう思う?」と意見を求めている点である。そして一度出した商品をそのままにするのではなく、顧客の声を聞きながら継続的にアップデートし続けていることである。

体験価値をどのように設計するかはブランドの掲げる「テーマ」によっても異なるものであり、ここでは一例を紹介したに過ぎない。次回の「3. ブランド・アクティベーション」では、自社ブランドに合った体験価値を設計するために必要な視点についてご紹介すると共に、顧客がブランドの発信者となり、共にブランドを育てていく存在になってもらえるよう、どのような仕掛けを用意する必要があるのかについて触れていきたいと思う。

 

※注1:The key to Apple's success? Keeping it simple - from the man who put the 'i' in iPhone
    2016.10.28 WIRED (https://www.wired.co.uk/article/simplicity-apple-dna)


※注2:くらしの良品研究所(https://www.muji.net/lab/
     無印良品『体にフィットするソファ』ヒットの理由 2015.04.15 @DIME(https://dime.jp/genre/622392/

 

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