<第5回>ブランディングとは何をすることなのか~4つのブランディング領域と企業事例

  • ブランド構築

本シリーズは、ブランディング4つの領域についてご紹介することでブランディングとは何をすることなのかに関する概要を掴んで頂くことを目的としている。第1回では全てのブランディング活動の前提となる「0.ブランド提供価値規定」について、第2回~第4回では「1. ブランド・コミュニケーション」、「2. ブランド・マーケティング」「3. ブランド・アクティベーション」という3つのブランディング領域について詳しく見てきた。最終章となる今回は、ブランディングを長期的な活動として持続させていくために重要な「ブランド・マネジメント」の領域について解説していきたい。

 

5. ブランド提供価値を起点に自社(事業)ブランドをマネジメントする(ブランド・マネジメント)

 

強いブランドは1年や2年で確立できるものではなく、長い時間をかけて育てていくものである。

1856年にパリ北西で小さなアトリエを築いたルイ・ヴィトンは、厳重な錠前システムを採用した「旅行用トランク」がきっかけとなり、人気に火がついた。それから160年の時を経て、世界を代表するラグジュアリーブランドとなった今も、ルイ・ヴィトンはブランドの原点である「Journey(=旅)」を大切に守り続けている。人生の旅に寄り添うブランドとしてのアイデンティティを、伝統を活かし、長い時間をかけて築き上げてきたのである。(※1)

コカ・コーラもまた、長い年月をかけて世界中の人々の頭の中に強烈なイメージを残すことに成功したブランドの一つである。1915年に開発されたコンツアーボトル(コカ・コーラと言えば誰もが思い浮かぶ曲線構造のガラスボトル)は、約80年間に渡りファンに愛され続け、1993年以降にペットボトルが主流となってからもその形状は守られた。今ではコカ・コーラブランドを象徴するシンボルとなり、暗いところで触っても、砕け散った破片を見ても、それがコカ・コーラのボトルであることが分かると言われているほど、我々の頭の中に深く刻み込まれている。(※2)

最終章のテーマである「ブランド・マネジメント」は、まさにこうした長期的な視点でブランドを育成し続けていくために行われるものであり、ブランディングを机上の空論にしてしまわないためには不可欠な活動である。第1章~第4章までご紹介してきたような視点から強固なブランド戦略を規定したとしても、日々の業務活動を行う各部門の担当者がそれぞれの都合で“局地戦”的なブランディングを実施してしまっては、効率的にブランド価値を蓄積することができない。ブランド・マネジメントが目指すものは、組織全体が足並みを揃え、“総力戦”として長期的なブランド育成ができる仕組みや体制を整えることである。

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ブランド・マネジメントで検討されなければならない要素は企業ごとに異なるものの、ここでは多くの企業に共通して求められる代表的な3つの検討項目について、概要および近年の傾向についてご紹介したい。

  • 1) ブランド・マネジメント組織の設計
  • 2) ブランドガイドラインの規定
  • 3) ブランドKPIに基づくPDCA管理

1) ブランド・マネジメント組織の設計

企業が足並みを揃えてブランディングに取り組んでいくためには、活動全体を取り仕切るブランド・マネジメント組織の存在が不可欠である。その組織がブランディングの旗振り役としての機能を果たすためには、トップマネジメントと密に連携でき、企業全体に対して影響力を持てるものでならない。立ち上げ当初は、経営幹部層が組織長を兼任するなどして、ブランディングが経営層にとってプライオリティが高いものであることを示すことも有用であると言える。

新しく設置されるブランド・マネジメント組織が満たすべき要件は以下の通り:

  • 組織全体の経営を展望することができ、経営層の意思を反映することができる
  • 各事業部、機能組織に対して影響力があり、指示命令ができる
  • 中長期的にブランド育成にコミットして取り組むことができる

既存の組織から独立した全く新しい部門をゼロから立ち上げることも可能ではあるものの、ブランド・マネジメントに特化した人材を割くことができない、新しい部門の立ち上げには工数がかかるなど、現実には困難であるケースがほとんどである。そのため、ブランド・マネジメント機能を既存の組織の一つに内包させる、もしくはそこから派生させることで、スムーズな立ち上げを実現させている企業が多い。

どのような既存組織にブランド・マネジメント機能を持たせることができるのか、その利点と欠点はどのようなところにあるのかについて、以下の表にまとめたのでご覧頂きたい。

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<経営企画部門型>

トップマネジメントとの連携や組織全体に対する影響力という観点から考えると、経営企画部門にブランド・マネジメント機能を持たせることの利点は大きい。トップへのレポートラインが、ブランド・マネジメント部門長→担当取締役→社長と極めてシンプルであるため、進捗報告や意思決定のスピードが格段に速くなるだけでなく、トップの意思がしっかりと反映されやすい。またトップが深く関与することにより、ブランディングに対する経営側の本気度も社内外に伝わりやすい。

<広報(宣伝)部門型>

広報(宣伝)機能を持つ部門がブランド・マネジメント機能を担う利点は、社内外への情報伝達について十分な資源やノウハウがあるため、顧客や社員などに対するブランド浸透活動が効果的に実施できることである。また社内外に向けて発信される各種制作物が同じブランドの世界観の元で制作されていることを監督する能力も高い。一方で、経営企画部門型と比べて企業全体に対する影響力が弱いため、命令ラインとして機能させにくいことが欠点として挙げられる。

<組織横断型>

各部門からキーメンバーを代表として抽出し、クロスファンクショナルなプロジェクトという形でブランド・マネジメント機能を担ってもらうという方法もある。全く新しい部門として立ち上げるよりもスムーズに発足することができ、各部門に代表者がいることから全社を動かす力が高い。また全社でブランディングに取り組んでいく姿勢を分かりやすく社内外に示すことができるのも利点だ。ただし、全てのメンバーが通常業務と兼務するため、業務調整や意思統一が難しくなり、効率的なブランド・マネジメントが行えなくなってしまうリスクがあり、注意が必要となる。

近年、ブランド・マネジメント組織の役割や振る舞い方が変化しつつある。従来はブランド・マネジメント組織としての任を受けた部門が、企業全体のブランディングを統治し、引っ張っていく役割を担う、いわゆるガバナンス型の組織運営が求められていた。各部門の活動を厳しくチェックし、細かな軌道修正を促すことで、全社共通のブランディングの実現を目指していたのである。一方、最近ではより自走型の組織運営を取り入れる企業が増えてきている。これまでのようにブランド・マネジメント組織が全体のルールを決めて徹底するのではなく、必要最低限のルールだけを決め、各部門の意見を吸い上げながら適宜ルールそのものを調整していこうという考え方である。そうすることにより、全体における一貫性の維持と各部門への最適化の両方のバランスを取りながら、持続可能なブランディングを実施していくことを目指しているのである。このような自走型のブランド・マネジメントについては、ブランドガイドラインの箇所においても、もう少し補足できればと思う。

2) ブランドガイドラインの規定

ブランドを伝えるものは、ロゴマークやタグラインだけではない。むしろ、五感を使って自然に感じ取ってしまう要素の方が、時に強力なイメージを顧客の頭の中に刻み込む。白いリボンが結ばれたスカイブルーのボックスを見ればそれがティファニーのものだと分かるように、そのブランドが好む色使い、商品デザイン、空間デザイン、香り、触感、音に至るまで気を配り、どこでブランドに接触したとしても、一貫した体験ができるように設計しなければならない。しかしこれは言葉で言うほど簡単なことでない。組織が大きければ大きいほど、各部門が局所的な行動を取ってしまい、ブランドの世界観は共通性を失ってしまいがちである。

ブランドガイドラインとは、ブランドの世界観を形作る言語的・視覚的表現について明確に規定したものであり、何らかの制作物を作る際には必ず参照すべき、ブランドデザインのルールブックのようなものである。そこには、ロゴマークやタグラインを使用する際の色・背景色・大きさ・余白に関する細かな規定や、ブランドのパーソナリティ、ブランドと合致する画像の選び方、ブランドを表現する色合いやタイプフェイス(文字フォント)などのデザイン要素に加え、代表的な制作物(名刺、封筒、レターヘッド、パワーポイントのテンプレート、オフィスデザインなど)のデザインが記載される。

従来、ブランドガイドラインは図鑑のような重厚な装丁をされることが多く、それ故に一度製本されたブランドガイドラインを後から頻繁に修正することは難しかった。また重厚であるが故に何冊も作成することは難しく、持ち運ぶにも一苦労であったことから、実際に中身を見ることができたのは限られた人員のみであった。しかしブランド・マネジメントがより自走型の運営へとシフトする中で、ブランドガイドラインもクローズドからオープンへと変わりつつある。現在は、ブランドガイドラインを製本するのではなく、データのままクラウドに保管することで、より多くの社員がアクセスできるようにしている企業が増えてきている。また内容についても、ブランドデザインの教科書のようなスタイルから、各部門のベストプラクティスの共有という形式に変わりつつある。これまでのように、ブランドガイドラインを不動のバイブルのように扱うのではなく、ブランディングを展開していく過程で各部門と一緒に少しずつ例示を増やしていくことで、共に育てていく形へと変化してきているのである。

3) ブランドKPIに基づくPDCA管理

ブランドを長期的に育成していくためには、ブランド戦略を管理・運用可能なブランドKPIに落とし込むことが必要となる。そうすることによってブランドの育成状況を定期的に評価することが可能となり、必要に応じて適宜ブランド戦略を調整していくことで効果を最大することができる。ブランドKPIを明確化しないままにブランド育成を進めようとすることは、地図を持たずに航海に出るようなものであり、本当に目標に近づいていっているのかが分からないだけでなく、最悪の場合、そもそも何のためにブランディングを実施しているのかを見失ってしまうことにもなりかねない。

ブランドKPIをどのようなものにするかについては、ブランド毎に異なる。そこで、ここでは最も一般的なブランド指標についてご紹介したい。

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これまでにも触れてきた通り、ブランディングの主目的は顧客との関係構築である。そのため、ブランドKPIではどの程度顧客との関係が深まっているのかを測ることが多い。上記の図では、上に向く矢印が関係の深まりを、横に向く矢印が関係の広がりを表している。ブランドを知っているだけの人に比べブランドの熱狂的なファンは少なくなるように、関係の深まりが高いほど関係の広がりは小さくなるため、ピラミッド型の構造となっている。

顧客との関係を深める第一段階は、認知である。「知っている」ということは、そもそも他社のブランドと識別してもらえるということであり、ブランドイメージを築いていくための土台となるため極めて重要だ。また顧客にとっても、既に知っているブランドのものがあれば、改めて情報収集をせずとも意思決定ができるというメリットがある。

さらにブランド体験を重ねることによってそのブランドが期待を裏切らないことが分かってくると、顧客にとってそれは信頼できるブランドとなる。企業にとってはブランド名を記載すること自体が品質保証の役割を果たしてくれるというメリットがあり、顧客にとってはモノやサービスを選ぶ上で誤った選択をしてしまうリスクを回避できるというメリットがある。

さらに顧客との関係性が深まっていくと、顧客の中でそのブランドに対する愛着が生まれる。彼らはいわゆるブランドのファンとなり、そのブランドを選択したり利用したりすることそのものに満足を覚えるようになる。そのブランドを所持することは、そのブランドが象徴しているものに共感することであり、自分のアイデンティティを他者に向けて表現する手段のひとつとなる。

さらに近年、愛着の上位概念として、共有という段階を取り入れる考え方が主流になりつつある。ただそのブランドを選択したり利用したりするだけではなく、そのブランドのことを周りに知らせたい・共有したいという気持ちが芽生える段階である。そのブランドを推奨したいと感じている顧客が何割くらい存在するのかを数値化したものを、NPSNet Promoter Scoreと言い、重要なブランドKPIの一つとして定点的にトラッキングする企業が増えてきている。従来の認知・信頼・愛着という指標は全て個人との絆のみを測るものであったのに対し、NPSはブランドを起点とした価値の広がりを測るものであり、ブランドというものの捉え方が、企業と顧客の11の構造から、ブランド提供価値を中心としたネットワークの広がりへと大きく変わりつつあることを表している。

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おわりに

これまで計5回に渡り、様々なブランディング領域についてご紹介してきた。自社ブランドが顧客に提供する価値が何であるのかを明確化する「0. ブランド提供価値規定」、自社ブランドのことを顧客や社員にしっかりと伝え理解を深めてもらうための「1. ブランド・コミュニケーション」、デジタルマーケティング時代における機械的な購買促進から脱却して“人”としての顧客と深い関係を構築することを目指す「2. ブランド・マーケティング」と「3. ブランド・アクティベーション」、そして長期に渡り一貫した戦略に基づいてブランドを育てていくための「4. ブランド・マネジメント」。いずれも奥が深く、取り組みがいのあるテーマばかりである。

シリーズの冒頭にて、ブランディングとは言わば企業にとっての壮大な「自分探し」のようなものであるとお伝えした。自社は結局のところ誰のために存在するのか。その誰かは自社に何を期待しているのか、どのようにしてその期待に応えることができるのか。それは本当に自社にしかできないことなのか。これらはどれも、一番大切にしたい顧客と、出来るだけ深い関係を構築するために不可欠な問いである。しかし、その答えを導き出すことは容易なことではない。組織とは規模に関わらず複雑なものであり、関わるステークホルダーも多く、全員が納得する答えを見つけようとすれば、絶対善的なよくある着地点に辿り着いてしまう。しかしだからこそ、自社にしか実現できないキラリとした「自分像」を見つけることができたならば、それだけで顧客に対して強烈なメッセージを発信することができ、そのメッセージに含まれる独特な価値観に共鳴した顧客がブランドの協力者となり、彼らと手を組んでブランドを育てていくことによって、強固で揺るぎないブランドを築き上げることができるだろう。

 

注1:ルイ・ヴィトンの伝統<https://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/la-maison/a-legendary-history#>参照2019-6-18

注2:11の出来事でたどる、コカ・コーラのボトルの歴史<https://www.cocacola.co.jp/history_/11facts>参照2019-6-18

 

執筆協力: 吉田寿美(フェロー)


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