人生100年時代のシニアビジネス ~ターゲットとしての「シニア」は年齢で定義されるのか

牛田 奈緒子

牛田 奈緒子

  • マーケティング
  • 事業・製品開発
年齢で「シニア」を定義することがマーケティングとして適切なのか?

「今、われわれが取り組むべきビジネスターゲットとなるシニア」は、一体どのような人たちであり、どのような傾向を持っているのだろうか。シニアマーケティング、シニアビジネスの成功に向けて、その定義とインサイトについて、博報堂グループで「シニア」に対する研究とマーケティング、事業開発を担っている博報堂「博報堂シニアビジネスフォース」×博報堂コンサルティング「富裕層向け戦略およびシニア顧客基盤開発担当メンバー」が考察する。


戦中・戦前世代から団塊世代へとボリュームゾーンが変わったシニアマーケットを考えるにあたり、「ターゲットとしてのシニアはどこで、誰なのか?」を定めることが、改めて重要だと思う。しかし、多くの場合65歳の定年、75歳前後の前期高齢者・後期高齢者というくくり以外に定義づけは曖昧で、さまざまな企業や機関がそれぞれの視点から分類を行っている。博報堂グループとしても、シニアではなく、「生活寿命(リンク)という行動や活動の寿命というアプローチでライフステージとして再定義したものもある。

 

注)こちらの記事はシニアマーケティングのポイントを博報堂「博報堂シニアビジネスフォース」×博報堂コンサルティング「富裕層向け戦略およびシニア顧客基盤開発担当メンバー」が、いまのシニア像やシニアマーケティングについての座談会を要約しております。

 

目次:

1.マーケティング対象の「シニア」とは
2.「プレシニア」とは何者なのか
3.将来の「シニア市場」はどうなっていくのか
4.プレシニアに対して何ができるのか シニアビジネス・シニアマーケティングの芽

1.近年、注目すべきシニア層の定義とは?

 高齢化の進展と共に、シニア層をターゲットとしたビジネスの可能性には、近年多くの企業が注目している。しかし、自由な時間とお金を持つ彼らの消費に期待が集まる一方で、彼らのニーズは非常に多様化してきている。それに伴い、「シニア」という言葉も多義的になっており、ビジネス機会を模索し、適切な意思決定を行う上では、まずその定義を明確化する必要がある。
 国連の世界保健機関(WHO)の定義では、65歳以上をシニアと定めている。また、国内ではさらに老人福祉法・老人介護法に準拠し、75歳を境に65-74歳を前期高齢者、75歳以降を後期高齢者と定義している。これは制度としての規定であるが、背景には身体能力低下の節目となってくる時期だということもある。特に後期高齢者に近づくと、身体能力と比例し精神的な活力も低下してくるといわれている。
 この制度の背景ともなっている身体的活力・精神的活力ということに着目すると、ライフステージの各段階において、身体能力の衰えを感じ始めるとともに、社会的役割の中で自らの行く先が見えてくる時期がある(図1)。

図1)シニア層の年齢チャート

 

会社や組織で働く人にとっての、子どもの自立のタイミングや役職定年などが良い例だ。
50歳を超えて60歳が見えるあたりで、子供から金銭的に手が離れほっと一息つくと同時に、定年という自らの社会的役割がなくなるゴールに気づくのである。そして、そのゴールの先への不安から、新たな生業を求めて準備をしようと思い始める。しかし現実には、お金や時間はできた/できることが見えたものの、退職後の「社会的な役割」や「組織や団体など所属先」がなくなることに気づいたが、新たな役割や所属先を探すきっかけがない、対象が見つからない、どうすれば良いかわからないままずるずると日を過ごすという人が増えてきている。
ポイントは、「定年者」もしくは定年間近の人ではないことである。役職定年や退職までのカウントダウンをうっすらと始める年齢であり、早期退職募集の対象となる、50代を迎えたあたりのまだまだ現役の人の話である。

つまり、老後とは(本人が)気づいたタイミングから始まる、ということができ、またつまりシニア(という対象)にその瞬間から含まれると考えられる。企業の退職や、身体能力の低下としての65歳以降は、すでにシニアとなってしまったいわばシニア顕在者であり、これからシニアを迎えることに気づき、対策を考える人々もまたシニア的な思考と行動とニーズを持っていると考えられる。
この社会での自身の役割、そして社会との接点に不安を抱える50代ミドル層をプレシニアと定義し、今回のシニア向けビジネスのターゲットとして注目する。

 

2.「プレシニア」とは何者なのか

定年を迎えることに対して、社会的な役割の喪失、所属する組織・団体(=ソサエティ)の消失に気づき、また不安を抱える人々は、昔からいたのだろうか?もし存在したなら、なぜその「塊」が切り出されて定義されていなかったのだろうか。

20~30年前、1990年代頃。この時代にも、それぞれが人生の節目を意識するタイミングというのはあったはずだ。今の団塊世代の少し上が50代を迎えたころである。老後とは引退後の悠々自適な人生であり、年金などの不労所得が話題であり、資産をもつ・所得を確保するといった話はあったが、社会的な役割が喪失することを問題視することはほぼなかった。
何が違うのか?

今と決定的に違うのは「ソサエティのつくり方」ではなかろうか。

かつては、会社や組織の付き合いの延長線上で家族キャンプをしたり、ゴルフに行ったりと、会社・組織を起点としながら会社・組織外のネットワーク=ソサエティを作る機会が多くあった。また、自ら望まなくてもその機会を率先して作ってくれる世話焼き人がいた。声をかけて参加させる「ソサエティ」対象も、酒やゴルフ、麻雀、旅行等、選択肢が限られていたため、声をかける側もかけられる側も選択肢に悩む必要なく、ソサエティへの参加打診と参加が成立していた。
ところが今は、時代背景から「社内でみんなに声をかける」ということをしにくくなってしまった。また、会社・組織外での時間の使い方の選択肢が幅広くなった。趣味や興味関心対象と、お金や時間のかけ方も多様化が進み、何に参加を促すか・どのソサエティに属するかというバリエーションが分散しまた小粒になってしまった。

つまり、「みんな」というソサエティがなくなったのである。

さらには、コミュニケーションの場として有効だった「会社組織」が、SNSなどコミュニケーションの手段の変化により、わざわざ会社という接点がなくてもつながる機会をマッチングできるようになった。そのため、意志さえあれば会社・組織外のコミュニティやネットワークに参加することができるようになった。
これにより、声をかける側だった人たちも、わざわざ会社・組織という枠組みの中でみんなに声をかけることをしなくなった。同じ会社に属している、というただそれだけの関係性が、趣味や興味といったソサエティに「参加を促すきっかけ」としての力をなくしたといえる。

その結果、何が起こったか。
以前は、同じ会社に属しているだけで声をかけてもらえていた側が、ソサエティ参加機会を与えられなくなった。つまり、「取り残される」人たちが出てきたのだ。

この人たちは「本当は何かしたいと思っているが、自ら声をかけることもできず、積極的にコミュニティに参加したりネットワークを広げたりすることもできない」という人たちだ。かつては会社・組織の中で声をかけてくれる人たちによって救われていたこの層が、社内のコミュニケーションの仕方の変化により、救われないまま宙に浮くようになってしまったと考えられる。

これまでの想定から考えられるプレシニア層とは、「ソサエティに参加するきっかけ」を奪われた人たちだと考えられる。

 

3.将来の「シニア市場」はどうなっていくのか

今回論じていないが、我々がシニア市場における事業開発をする際に必ず大きなボリュームで出てくるワードがある。
「シニア(ここでは退職者)の知見と能力」を「若者や必要な人に」
シニアリソースをマッチングして/労働力や知恵として活用して・・・

つまり、今の65歳以上はすでに自身の「能力」に役割を与えるためのソサエティに属していない。マッチングしてもらわないと役割が与えられない状態にあるのである。
もちろんそこには、リソースを正確にバリュエーションする(シニア人材の能力を正当にかつ比較できる状態で情報化する)ことが必要であるため、そのインフラが整っていないともいえるかもしれない。それでも、退職する前にそのバリュエーションをしてもらえる会社以外のソサエティに所属することはできたはずである。
その延長線上にいまのプレシニア層はいると考えられる。
そして、将来もこういった悩みを持つ層は、存在し続けるのだろうか。

20~30年後を考えてみる。その頃定年準備に入る世代は、現在20~30代くらいであり、日々の活動のなかで「何かやりたい」「繋がりたい」と思った時にオンラインでのマッチングを違和感なく使いこなし、自らきっかけを作ることができる(少なくともネイティブな)世代である。
30年後のプレシニア層であっても、ネットリテラシーがよほど低かったり、ネットワーキングに対する特別な恐怖感や拒絶感を持っていたりしない限りは、誰かに声をかけてもらうことなくセルフマッチングできる人口比率は現在よりはるかに高くなっているであろう。
他の課題が発生している可能性がある。例えば、よりバリュエーションが高まるソサエティの選び方や属し方、である。

 

4.プレシニアに対して何ができるのか シニアビジネス・シニアマーケティングの芽

「プレシニア」対するビジネスを考えるにあたり、重要なポイントとなるのは何だろうか。

先に見てきた通り、プレシニアにはネットワークに参加する「きっかけ」が不足している。必要となるのは、その「きっかけ」を作るためのテーマ・ネタ、きっかけを生かす動機づくり、そして一歩を踏み出す仕掛けだと考えられる。いうなればきっかけづくりのTPOである。

これを前提としたポイントを3点ご紹介する。

 

1.きっかけ作りには、何でもいいから共通の話題があること

きっかけ作りは、「テーマ・ネタ」があるかどうかで決まるといっても過言ではない。その場でネタをひねり出せる天性の芸人はプレシニアにはならない。
では、どのようなテーマ・ネタであれば、ソサエティ参加を促す・参加する「きっかけ」を生み出せるのか。
大きなネックとなるのは、参加しても「うまく話しかけられない」「何を話せば良いのかわからない」ことだ。従って、大事なのは「話のネタ」を用意することである。そのネタは、できる限り汎用性が高く、自分の経験や能力、立場などによらず、ただ「知っている」ということだけで繋がれるようなものが望ましい。例えば、住んでいた土地や今住んでいる場所、出身校や習い事、塾、運動サークルなどの習ったことのある先生や同級生などだ。つまり、同窓・同郷といったテーマを通した場所や時間、人に関する共通体験がきっかけづくりのテーマ・ネタとしては容易でありつつ、一歩を踏み出す/出させる効果は高い。

2.自身にとって参加する意義は、ソサエティでの役割

次にポイントとなるのが、その場やコミュニティに参加する意義づくりである。テーマ・ネタがきっかけづくりとして適切だったとしても、一歩踏み出すには意義=リターンが欲しいのが人情であろう。
そのリターンは「社会的役割」である。例えばそのテーマ・ネタでの活動が社会的に認められる、極論家族からも認知理解されうること。そして、その活動の中で自身の役割があり、それを求められている状態がある、ということであろう。特に男性プレシニアが新たなソサエティに所属したい理由は「会社ソサエティに比類するシステムにおけるポジション」である、としていいのではないだろうか。その自分の役割を提示してあげることは多くの場合はできないため、「見つけやすくしてあげる」ことが重要になる。その結果、きっかけを得て一歩踏み出すことができると考えられる。

3.受け入れてもらうための間口

最後に重要になるのが、一歩を踏み出すための動力である。きっかけの理由はできた、動機づけもできた、あとはいざ手をかける「取手」のように踏み出す先である。何らかの場やコミュニティに参加したとして、そこへの集まりや活動に一歩踏み出すことは、口で言うほど容易ではない。そこでの初めての出会いや新たな関係性の構築の手間などに対して、面倒くさい・なんとなく避けたいと思うのはプレシニアにとってごく当たり前の反応であろう。
その最後の一歩を埋めるための「ハブ」があるといい。具体的には共通の知り合いが望ましい。どんな関係性でもいいので、顔を知っている・話すことが可能である、という状態を作れれば、命綱なしの宇宙遊泳に飛び出すより未知の世界に飛び込むことはたやすくなる。つまり、受け入れる側の間口を広げてあげることが必須であろう。
また、その結果、うまくリレーションが晴れれば関係性を強固にすることができる。


プレシニアの持つ不安「きっかけがない」を解消するポイントを議論した結果、下記の3点にまとまった。

1:場所や時間や人との体験に関するテーマやネタ によるきっかけづくり
2:ソサエティに参加したときの自身の役割(がイメージできる)
3:一歩を踏み出すための間口としての「知っている人」

この3点を踏まえた提案やアプローチを行う、商品やサービスを開発していくことが、今回注目したプレシニアの定義とその人たちの悩みに対して生まれうるビジネスチャンスであると考えている。

次回はこれを踏まえ、どうマネタイズするか、ビジネスアイディア作りについて更に詳しく考察した記事をお届けする。

 


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