「高くても買う」消費者心理をつかめ!~デジタル時代の処方箋

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2020年東京オリンピックのチケット販売、抽選結果に、悲喜こもごもが見られました。申し込みにあたり価格一覧表を見て驚いたのが、ラグビー女子予選やクレー射撃など1枚2500円のチケットがあるのに対し、開会式の一番高いチケットなどは1枚30万円もするということです。公的なチケットの値付けでこれほどの価格差がつくのはあまり記憶にありません。消費者の価格に対する意識も変わっていくのでしょうか。

経済産業省から受託した消費者調査に基づき「高くても買う消費者心理」というテーマで、コラムを掲載したのが2008年。以来、本テーマに関する問い合わせは止まることなく、その関心の高さが伺えます。そこで、今回改めて追加執筆を行い、現在の市場環境に即した論点を指摘してみたいと思います。

 

1人の消費者の中での二極化

前回の調査の最大の注目点は、デフレ経済下にあっても全てが低価格指向というわけではなく、「自分のこだわりのあるモノについては、7割以上の人が多少高くても買う」という発見でした。それは、富裕層と低所得者層という対比ではなく、自分がこだわりを持つモノなら多少高くても買うが、こだわりのないモノはとにかく安く済ませるという1人の消費者の中での二極化です。さらに注目したのは、同じ消費者でもシチュエーション(場面)によって財布の開き方が異なってくるということです。良いことがあった日やちょっとくつろぎたい時に、「自分へのごほうび」として、通常と比べて価格が2~3倍するようなプレミアムビールやプレミアムアイスを買うといった消費形態が生まれました。

そして、そうしたこだわりやちょっと特別なシチュエーションに応えて、高くても買ってもらうためには、モノや機能に加え、コンセプトやデザインといった消費者の感性に訴える部分の品質が極めて重要であること。そして、送り手としての工夫やこだわりを「こういう思想のもと、このような工夫をしています」という一連の物語に託し、製品だけでなく、パッケージや広告宣伝、店舗や販売チャネル、販売員の対応など、消費者とのあらゆる接点で伝えていくことが重要であることを指摘しました。

この傾向は、基本的に変わらないと思われます。ただし、デジタル化の影響があらゆる場面で進む現在の市場環境においては何らかの変化があるはずであり、その消費者心理をさらに読み解いていく必要があります。

 

最新の購買心理はどうなっているか

博報堂生活総合研究所が2018年に実施した最新の「生活定点」調査 から、本テーマに関連する項目を見てみましょう。この調査は、1992年から隔年、訪問留置法で実施しており、国勢調査の人口構成比で割付した首都40km圏、阪神30km圏に住む20歳~69歳の男女3000人以上 (2018年・有効回収数3080人)を対象とした比較的信頼度の高い調査データであると言えます(※1)。

まず、「普及品より、多少値段がはってもちょっといいものが欲しい」と答えた人の割合は30.6%。男性の方が約7ポイント高い結果となりました。この高くてもいいものを買うというある種の理性的な品質志向は、根強いとはいえ、長期的には明らかに低下傾向にあります(図1)。

図1

一方で、「値段が高くても、気に入れば買ってしまう」と答えた人の割合は41.1%。男性より女性の方が約3ポイント高くなっています。また、年代別では20代が全体より約7ポイント高く、逆に60代は全体より約3ポイント低い結果となりました。高くても買うと言っても、これは前述したシチュエーション消費に近いものと考えられ、一般的に感性志向が高いと言われる女性や若者に多いのが特徴です。時系列で見ると、長期的には若干低下していますが、最近はほぼ横ばい傾向にあります。

次にブランドに関わる消費者心理は、どうなっているのでしょうか。

「ブランド商品にはそれなりの良さがあると思う」と答えた人の割合は39.6%。女性の方が9ポイント高い結果となりました。また、「1つのブランドを使い続ける」と答えた人の割合は22.5%。男性の方が約4ポイント、関西に比べ首都圏の方が約3ポイント高い結果となりました。一方、「ものを買う時はブランドを意識する」と答えた人の割合は12.7%。男性の方が約4ポイント高い結果となりました。ただし、この数字だけで、購買に与えるブランドの影響力が低いとは言えません。なぜなら、ブランドとは無意識に働きかけるものだからです。いずれにしても、ブランドに関わる上記3項目の回答者の割合は、時系列で見てもあまり変化はありません。

こだわりの中身が変わっている

ここまでのデータをまとめると、何が言えるのでしょうか。一言で言えば、高くても買う場合のこだわりの中身が変わってきている可能性があるということです。それは、機能的な品質へのこだわりが低下しつつあること、こだわりといっても、これでなくてはという頑固なものというより、ライトで移ろいやすいものになりつつあるのではないかということです。また、中高年男性は比較的モノや趣味への執着が強いと考えられるのに対し、若者や女性は、シチュエーションによって財布の開き方がより変化することが想定されます。

ここ10年のデジタルテクノロジーの進化によって、消費環境は様変わりしています。モバイルメディアの普及率が7割を超えSNS上の口コミの評価が購買に大きく影響を与えるようになりました。また、インバウンド需要の増加と軌を一にしてスマホ決済が急拡大しています。さらには、民泊やカーシェアなどのシェアリングサービスが広がりを見せ、メルカリ等のプラットフォームによって、個人間のリユース取引が爆発的に拡大しました。そういった市場環境において、消費者の購買心理をつかむためには、何を考えなければならないのでしょうか。

所有価値から使用価値へ

様々な場面で広がるデジタル化の影響、そこで共通する大きな流れは、所有価値から使用価値へのシフトであると言えるでしょう。別の言葉で言えば、オーナー志向からユーザー志向へ、モノ経済からサービス経済へのシフトと指摘することもできます。

高くても、ちょっと背伸びをして手に入れ、自分だけのモノにすることができれば、人は大いに喜びを感じます。モノによっては、持っていること自体が自慢になる場合もあります。しかし、こうした価値観とは異なる動きが様々な場面で現れてきています。

 洋服やファッションであれば、一つのブランドで身を固めるというより、自分のスタイルやシチュエーションに合わせて、ブランドを売り買いしながら、組み合わせて着こなすといった感覚です。お気に入りのスニーカーを集めるといったコレクション型消費に走る人もいるようですが、これは一部の人に限られる現象でしょう。

 また、「いつかはクラウン」という言葉のように、かつてはステータスの象徴であった車も、自動運転の時代には単なる移動手段としての価値が前面に出てきます。そこには、持つことよりも使いこなすこと、一度に無理して買うより、その時の自分の経済状況や生活状況に合わせて、合理的に使い分けていく、そんな価値観の広がりを感じます。

 以下では、こうした時代環境における新しい値付けの在り方として、「サブスクリプション」と「ダイナミックプライシング」という2つの動きに着目し、消費者の購買心理やマーケターに与える影響を考えてみたいと思います。

「サブスクリプション」のインパクト

サブスクリプション(サブスク)とは、製品やサービスの一定期間の利用に対して、代金を支払う購買方式のことを指します。新聞や雑誌の定期購読や通販の頒布会などが従来からある典型ですが、近年、ソフトウエア、音楽や動画配信などのネット系サービスから、ファッションや家電、クルマなどの耐久財にも広がりを見せています。

 ソフトウエアにおけるサブスクリプションの先鞭をつけたのがAdobeであり、その後この形態がソフトウエアの販売方法として一気に広がっていきました。本来箱売りであったパッケージソフトを⽉額オンラインサービスに変えることで、ユーザーにとって、初期コストがかからず、必要な時に必要なだけ利⽤できて、自動的に最新バージョンにアップグレードされるというメリットが生まれました。送り手としても、ユーザーとの関係が継続化することで、他社の安価なサービスに顧客が流れるのを防ぐとともに、継続的にイノベーションに取り組むことが可能となりました。

自動車業界でも、サブスクリプションモデルは動き出しています。先駆けとなったのは、IDOM(旧ガリバー)で、2年間、月額39,800円~で、車の維持費、保険、車検、税金等が全て含まれるNORELと言う中古車、新車を織り交ぜた定額利用のサービスを行っています。トヨタも、KINTOと言う新車の3年間、定額利用のサービスをスタートさせており、プリウスでは月額46,100円~、3年間に6台のレクサスを乗り継ぐサービスでは月額180,000円~となっています。

こういったサービスのレンタカーやカーシェアと異なる点は、契約期間であれば、ユーザーは車のオーナーと同等のサービスを得られる点にあります。オーナー気分を失わず、合理的なサービスを受けられるというわけです。一方、現在よりさらに車がインターネットとつながり、個々の車の走行状況や部品の摩耗状況などのデータが蓄積されるようになると、個々の顧客データに基づく、カスタマイズした契約が可能となり、サブスクリプション化のメリットはより拡大していくことが予想されます。

「ダイナミックプライシング」のインパクト

ダイナミックプライシングとは、主にAI(人工知能)を活用し、需要と供給に合わせてリアルタイムに価格を変動させることで、収益を最大化させる仕組みのことです。常に、適切な価格を設定し、需要と供給を一致させることができれば、在庫リスクが大幅に軽減されます。

航空会社やホテルなどでは、以前からイールドマネジメントという言葉で、過去の需要動向や販売データに基づき、販売単価や座席、客室数などを管理してきました。航空チケットやホテルの部屋数は供給量が決まっているため、在庫の最適化が収益に直結するからです。そして、AIを活用することで、よりリアルタイムかつダイナミックな値付けが可能となりつつあります。

コラムの冒頭で東京オリンピックの値付けについて触れましたが、メジャーリーグやアメリカンフットボールなど、米国のスポーツ業界では近年AIによるダイナミックプライシングが普及しています。これによりチケット販売が効率化し、多くのチームの収益性が大幅に改善したと言われています。この動きは、日本にも波及し、プロ野球やJリーグでの採用が始まっています。

また、Amazonや楽天などECサイトでもダイナミックプライシングが広がりつつあります。これにより、セール時期にこだわらずに値下げを行い、在庫に応じて高めの価格設定をすることも可能となります。さらに、ECサイトに対抗する形で、家電量販店なども、個々の店に任せるのではなく、需給や競合状況に応じて、本部主導でデジタル表示された価格を柔軟に変える動きがあるようです。

このように、広がりを見せるダイナミックプライシングですが、消費者からすれば、特別な試合やイベントは金持ちしか行けないのかと不満を感じるかもしれないし、頻繁な価格変動を煩雑に感じる場合もあるでしょう。しかし、この仕組みによる価格は需給に基づいたもので、やみくもに高い価格で売りつけようとするものではありません。条件さえ合えば、通常よりも安い価格で買うこともできます。データに基づいているので、消費者もある程度納得できる価格で、モノやサービスを購入することができるようになるということです。

ここまで、デジタル化やデータ活用が進む時代における所有価値から使用価値へという大きな流れ、サブスクリプション=定額制、ダイナミックプライシング=変動制という一見相反する2つの値付けの動きを見てきました。

そこで再び、博報堂生活総合研究所が実施した2018年の「生活定点」調査から、上記に関連する項目を見てみましょう。「ものを買う時は、高く売れるかどうかを意識する」と答えた人の割合は2.4%。「ものは買うより、できるだけレンタルやシェアで済ませたい」と答えた人の割合は1.8%。「ものを買う時は、定額制の支払いが便利だと思う」と答えた人の割合は1.4%。いずれも回答率は5%以下で、性別、地域、年代で、ほとんど差はありませんでした。この調査結果を見る限り、このような購買行動を行う消費者は、まだまだ少数派、イノベーターレベルの普及状況とも言えます。この調査を実施した2018年5月から、現在に至る1年間でどれだけ変化したか興味深いところですが、いずれにしても、メディアが騒ぐほど、普及していないというのが現実です。しかし考えてみれば、この流れが本格化するのはこれからであり、個々のマーケターにとっては、むしろ大きなチャンスが広がっていると捉えることもできるでしょう。

デジタル時代の処方箋

サブスクリプションは、単発消費にはなかった継続購買のメリットを生み出していきます。マーケターの立場から言えば、都度、新規顧客を獲得するより、既存顧客の体験価値、使用価値を高めて、継続購買やクロスセル、アップセルを促すことがより重要になってくるということです。そして、それを単なる割安で便利なサービスに留めず、様々なコンテンツやイベントの場を提供することで、ブランドのファンが集まる顧客コミュニティに昇華させることが重要です。価格を超えた心理的、精神的な絆は、定額サービス間の価格競争を乗り越える上での大きな武器となります。さらに、継続購買者、コミュニティメンバーの中から、新規顧客を吸引する推奨者を育成することも可能です。

一方、ダイナミックプライシングは、その人が感じる時間の特別性やコンテンツに対する価値を高め、シチュエーション消費の傾向をより一層高めます。インバウンド消費の広がりは、一時的には日本人を中心とした過去のデータに基づくプライシングのかく乱要因になるでしょうが、最終的にこの仕組みは、それをも取り込んでいくと考えられます。マーケターとしては、顧客によって異なる時間やコンテンツの価値を意識することで、シチュエーションによって異なる財布の開き具合に対応していく必要があります。

さらに上記のような動きは、メーカーと流通(ECプラットフォーマーおよびリアル小売り)と顧客との関係にも変化を与えます。サブスクリプションによって、メーカーは顧客と直接取引関係を持つことが可能となります。家電などでは、大手量販店に抑えられていた価格決定権をメーカーが取り戻すチャンスを生み出します。一方で、ダイナミックプライシングでは、複数のブランドが併存し、多様なデータが集まる流通がより優位に立つでしょう。

コラムの最初の方で、高くても買う場合のこだわりの中身が変わってきていると指摘しましたが、従来からあったモノや機能的な品質へのこだわりはどこに向かっているのでしょうか。それは、特別な時間へ、使いやすさやユーザーインターフェースへ、好きなコンテンツへ、そしてそこに集うメンバー間のつながりへ、と向かっているように感じます。そして、こうしたこだわりの中身の変化に対応できるか否かが、価格競争に打ち勝てるかどうかの分かれ目になると考えられるのです。

良品廉価や新規信仰からの脱皮

我々は、人口が縮小する時代に直面しています。インバウンド需要や外国人労働者が増えると言っても、国内市場の量的拡大は絶対的に困難と言えるでしょう。そういった時代にも関わらず、良いものを安くという「良品廉価」の発想や、新規顧客ばかりを重視する「新規信仰」から、抜けきれない経営者やマーケターがいまだ多いのも事実です。

自社のモノの機能のみならず、体験することで感じる感性的要素も含めて、品質を高め、高くても価値を認めて買ってくれる顧客を見つけ、できるだけ長く継続して利用してもらうこと。これこそが日本企業の経営に共通する課題であると言えるでしょう。

稲盛和夫氏は、「商売の秘訣はお客さまが納得して、喜んで買って下さる最高の値段を見抜き、その値段で売ること。値決めは事業の死命を決する重大な判断である。もし値決めによって会社の業績が悪くなるとすれば、それは経営者の器の問題であり心の問題であり経営者の持つ貧困な哲学のなせる業だ。」と論じています。高くても買う消費者心理をつかむ上で、むしろ問題なのは、マーケター側のスタンスや心理とも言えるでしょう。大胆かつメリハリのある価格設定を恐れないAIから、マーケターが学ぶ時代が来るかもしれません。ただ、高くしても売れるわけではありません。しかし、使いやすさやユーザーインターフェースを高め、特別な時間や好きなコンテンツといった顧客側のニーズをうまく捉え、そしてそこに集うメンバー間のつながりを醸成できれば、個々の企業やブランドの成長可能性は、大いにあると言えるのではないでしょうか。

 

※1:「生活定点」調査2018年の有効回収数は3080人。

 

参考文献:
・「勃興するダイナミック・プライシングに思うこと」藤村広平 日経ビジネス電子版(2018/10/9)
・「いま注目を集めるサブスクリプションモデルとは」渡辺創吾 生活者データ・ドリブン・マーケティング通信(2018/10/23)
・「サブスクリプション―「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル」ティエン・ツォ, ゲイブ・ワイザート ダイヤモンド社(2018/10)
・「AI(人工知能)で決まる価格、ダイナミックプライシングとは」Money Motto!(2019/04/09)
・「家電の価格 刻々と変化 ダイナミックプライシング」日本経済新聞(2019/5/21)

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