ブランディングとは何をすることなのか<第2回>~4つのブランディング領域と企業事例~

森門 教尊(パートナー)/ 吉田寿美(フェロー)

森門 教尊(パートナー)/ 吉田寿美(フェロー)

  • ブランド構築

1回では、まずブランディングの意義と4つのブランディング領域がどのようなものなのかについて簡単に紹介し、さらに全てのブランディング活動の前提となる「0. ブランド提供価値規定」の考え方や、各企業で実際に進める際の取り組み上の注意点について説明した。第2回となる今回は、規定したブランド提供価値の内容を社内外に発信する「1. ブランド・コミュニケーション」について詳しく見ていきたい。

1. ブランドを社内外に発信する(ブランド・コミュニケーション)

各ブランディング領域をそれぞれ解説する前に、まずは以下の全体像をご覧頂きたい。

例えばスマートフォンを買い替えようと思った時、どのようなブランドが頭に浮かぶだろうか。すぐに思い付くブランドもあれば、インターネットで検索してはじめて「そういえばこのようなブランドもあったな」と思い出すものもあるかもしれない。あるいは、名前を見てもどのようなブランドなのか全くイメージが浮かばないものあるだろう。日用品であっても同じである。スーパーマーケットで醤油やマヨネーズを買い足そうと思った時、「醤油と言えばこれ」「マヨネーズと言えばこれ」といつも決まった商品に手が伸びるということはないだろうか。このように、特定の商品・サービスカテゴリーの中で、各ブランドが顧客の頭の中で占めている割合のことをブランドのマインド・シェアと言う。

ブランド・コミュニケーションの目的は、まさにこのマインド・シェアにおいて競合他社との奪い合いを行うことである。

まずは顧客が特定の商品・サービスを購入したいと思った際に、自社ブランドがしっかりと思い浮かぶようにすることで、選択肢の一つとして潜り込む必要がある(ブランド認知の向上=円の大きさ)。

また何とか選択肢に挙がることができたとしても、他社に比べてどこが優れているのかが顧客の中ではっきりしなければ、結局は競争に敗れ、顧客に選ばれなくなってしまう。そのため、競合他社に対する自社ブランドの優位性についても、合わせて連想してもらわなければならない(ブランド優位性の理解=赤い矢印)。

それではいかにしてブランド・コミュニケーションを通じて自社ブランドのマインド・シェアを高めていくことができるのか、検討すべき項目と考慮すべき視点について、いくつかご紹介していきたい。

 

全ての顧客接点で一貫した活動を行う

我々は広告を数回見たり聞いたりしたくらいでは、そのブランドを記憶したり、ましてやそのブランドの提供価値を理解することなどできない。広告を見て印象に残っていた商品について、友人からも利用して良かったという話を聞き、インターネットで検索して実際に店舗に足を運んでみたところ、店舗の雰囲気が良く販売員も親切に説明してくれたので購入してみることにした…と言った一連のプロセスを経て、ようやくそのブランドが脳内にインプリンティングされる。このように、実際には広告だけを見て購入に至るということは稀で、ほとんどの場合は複数の顧客接点(顧客がブランドと接触する場)を経由してから購入することが多い。そのため、ブランド・コミュニケーション戦略を検討する際には、顧客がブランドと出会ってから購入に至るまでに接触しうる全ての顧客接点を洗い出し、それぞれの特性を活かしてどのような情報や体験を提供するのか、その全体像を設計することが重要である。

また各顧客接点で提供される情報や体験には一貫性のあるストーリーがなければならない。例えばロクシタンという化粧品ブランドの場合、「温暖で自然豊かな南仏プロヴァンスのライフスタイルを提案すること」がブランド提供価値の中心に据えているため、広告・WEB・商品デザイン・店舗空間など全ての顧客接点において、南仏プロヴァンスの壮大な大地や降り注ぐ太陽、そして各化粧品シリーズに含まれる南仏の自然素材が感じられるようデザインされている。また一部の店舗では、優良顧客向けにロクシタンの化粧品を使った無料エステを提供するなど、購入後のアフターサービスにおいてもロクシタンの世界観を堪能できる仕組みを作り上げている(※1)。

このように複数の顧客接点において一貫したブランドの提供価値に触れ続けることによって、少しずつ顧客の脳内におけるブランドのマインド・シェアを高め、長期的に強固なブランドイメージを確立させていくことができるのである。

 

 

社員にもブランドを深く理解してもらう

時間とお金をかけて美しいロゴマークや的確なブランドスローガンを作成したものの、ふたを開けてみると社員は誰もその意味を十分に理解しておらず、営業もそれをうまく取引先に説明することができない…という事態がしばしば発生する。これではいかに顧客接点を通して一貫したブランド・コミュニケーションを実施しようとしても、必ずどこかでつじつまが合わなくなってしまう。日々の業務の中でブランドに命を吹き込んでいくのは社員であり、ブランドが提供する価値を最も深く理解し、ブランドが目指している未来に共感していなければならないのは、実は社員である。そのため、ブランド・コミュニケーションは顧客に対してだけでなく、社員に対しても同等かそれ以上のエネルギーを以って実施されなければならない。こうしたブランド提供価値を社内に浸透させていくための一連の活動をインターナルブランディングと言う。

インターナルブランディングには数多くの手法があり、うまく効果を発揮できれば社員の意識や行動を根本から変える力があることから、近年は社内風土を変革するためのツールとして活用されることも多い。社員がブランドに深く共感するということは、自らの意思でブランドが目指す未来に向けて動きだせるということである。グローバル化やM&Aによって組織が大きく複雑になり、社員の帰属意識や当事者意識が希薄化する中、共通の志を持ちながらもひとりひとりが個性豊かに活動する力を与えていくことこそが、インターナルブランディングの目的である。

関連記事:インターナルブランディング

また「社外発信(アウター)」と「社内浸透(インナー)」の関係性についても触れておきたい。

ブランド・コミュニケーション戦略を設計する際、アウター向けコミュニケーションは広報部が、インナー向けコミュニケーションは人事部が担当するなど、推進主体が異なるケースを目にすることも多い。しかし、それでは互いがどのような活動をしているのかを知らぬままバラバラに進んでいくことになってしまう。しかし実際には、「社外発信(アウター)」と「社内浸透(インナー)」は表裏一体の関係にある。社員のブランド理解が深まれば顧客が受け取るブランド・メッセージにも説得力が増し、顧客のブランドに対する評価が上がれば社員もよりブランドに対して誇りを感じるようになる。このように、社員と顧客のブランド理解が互いに影響を及ぼし合う現象のことをブランドのミラー効果と言う。このミラー効果を最大限に生かすためには、ブランド・コミュニケーション戦略は社内外をバラバラに検討するのではなく、常に両方を俯瞰しながら全体像の中で設計していくことが望ましい。

 

ブランド・コミュニケーション施策

ここまでブランド・コミュニケーションの考え方について解説してきたが、具体的な施策にはどのようなものがあるのかについても触れておこう。ここでご紹介する施策はあくまでも一例であり、実際には無限の可能性がある。以下の施策例を参考にしつつ、クリエイティビティを存分に発揮して頂きたい。また前段の繰り返しにはなるが、これらの施策はそれぞれ独立したものとして行うのではなく、一貫した戦略ストーリーのもと、互いに連動し合う形で設計されることが望ましい。

アウター向け施策(顧客、取引先、株主、求職者など)

 1)ブランド広告

特定の商品やサービスの販促を目的とせず、ブランドの世界観や提供価値に関する理解を深めてもらうための広告。企業広告が該当することも多く、再規定したブランドを初めてお披露目する際に大々的に展開し、その後は定期的に一定の投下を図り認知・理解を維持することが望まれる。

 2)広報/PRIR活動

新たな投資や提携、新商品の発表や諸制度の改革など、伝達したいブランド提供価値にふさわしいニュースを、戦略的にスケジュールを練って発表する。特にブランド広告と連動して関連ニュースが発表されると、発信しているブランド・メッセージの信ぴょう性が増し、浸透しやすくなる。

 3)ブランドサイト

ブランド広告やPR活動を通じて興味を集めた後、より詳細な情報を取得できる場としてブランドのウェブサイトを立ち上げておくことが望ましい。ブランド広告やPR活動と比べ、ブランド提供価値が何であるのかをより直接的・体系的に表現できると共に、広告とPR活動の連携を強化する働きもある。

 4)展示会/イベント

特にBtoB企業にとって、展示会やイベントは法人顧客に対しブランドを理解してもらう絶好の機会である。またBtoCの場合でも、顧客向けイベントの開催を通じてブランドの世界観や提供価値を肌で感じられる機会を設けることで、理解や愛着を深めてもらうことができる。

 5)旗艦店

ブランドの世界観や提供価値を表現した象徴的な店舗を設置することで、より多くの人に体験を通じてブランドを知ってもらう場を提供する。店内では、通常の商品・サービス提供に加え、ブランドをより理解してもらうための展示や仕掛けが導入されることが多い。

 

インナー向けコミュニケーション施策(社員、グループ企業など)

 1)トップキャラバン

ブランディングを行う背景と重要性、またブランド提供価値に込められた意味について、社長を含むトップマネジメント層が各地に出向いて社員に直接説明をする活動。特に新ブランド立ち上げ初期に実施されることが多く、新ブランドに対する会社の本気度と、社員参加の重要度を感じてもらうことを目的としている。

 2)ブランドブック

ブランディングを行う意義、ブランド提供価値の紹介・解説、社長からのメッセージやブランドを体現する代表的な社内事例の紹介などがまとめられた小冊子。トップキャラバン同様、新ブランド立ち上げと同時に配布され、その後も日々の事業活動の拠り所として社員ひとりひとりに保管してもらう。

 3)社内ポスター

ブランド提供価値が視覚的に分かりやすく表現されているデザイン性の高いポスター。ブランド立ち上げ時期には社員の興味を引くことができると同時に、日常的にオフィス内で目につくところに掲示することで自然な形で内容の記憶・理解を促すことができる。

 4)ブランド研修

新ブランド立ち上げ時期には全社的なブランド研修を行い、その後は新人研修や中堅社員研修の中にブランドに関するコンテンツを取り入れることで定期的にブランドについて考える機会を設ける。研修では一方的な情報提供でなく、社員との対話を通じてブランドの自分ごと化を促進することが重要となる。

 5)表彰・コンテスト

より社員の参画意識を高めるための施策として、ブランド提供価値を体現した事業活動を実現した社員の表彰や、ブランドに体現した新規アイディアを募集するコンテストを実施する企業も多い。賞賛を通じて、社員に求められている行動を明確化することで、具体的なアクションを促す効果が期待される。

より具体的な企業事例について知りたい方は以下の記事をご参照ください。


<第1回> インターナルブランディングで現場から起こす企業変革 ~バリューコマース 成長し続ける組織への挑戦~

おわりに

ブランド・コミュニケーションは、顧客の頭の中で自社ブランドが確固たるポジションを築き、数ある競合商品の中で選ばれ続けるブランドであるために長い時間をかけて実施していく活動である。それは広告やPR活動に留まらず、あらゆる顧客接点を通じて伝えられるブランドからのメッセージであり、全社が一丸となってそのメッセージの発信に努めなければならない。こうした活動を通じて得られるものは、顧客の「期待」である。このブランドを選べばいいことがあるのではないか。そう期待して商品を手に取り、サービスを試してみようと思ってもらえる。しかしブランドを築く活動はここで終わりではない。この期待に応えていかなければならない。ブランド・コミュニケーションを通じて顧客に約束した価値をしっかりと提供し、顧客の期待に応え続けるためには何が求められるのか?この問いに対する答えは、次稿以降で紹介していきたい。

 

※1:本レポート作成者である博報堂コンサルティングが、ブランドの公開情報から独自に予測・分析しています。(参考元:ロクシタン公式サイト(https://jp.loccitane.com/)2019-6-18

 

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