<第1回>新規事業開発を成功させるノウハウ ~良質なアイディアを生み出すには~

牛田 奈緒子

牛田 奈緒子

  • 事業・製品開発

新規事業開発=イノベーションの成功にむけて、数々の「死の谷」があることを書籍「イノベーションデザイン ―博報堂流、未来の事業のつくり方」(日経BP社)で示した。その谷を越えて自走する事業を生み出すためのノウハウをシリーズでお伝えする。

 

 

『アイディアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない』

ジェームス・W・ヤング氏の著書「アイディアのつくり方」より

 

既存の要素、つまり自分たちの知りうる・手に入れうる要素の広さと深さ、そしてその質がクリティカルにアイディアの品質に直結する。

一方で、中堅若手人材を新規事業開発チームに抜擢することで、事業開発を通じた人材育成を行う企業が増えている。若手の情報や視点に期待してのことであるが、逆にその抜擢によって矮小化されたアイディアしか出ないことも多々ある。

シリーズ<第1回>の本稿ではアイディアを生み出す手法とそのためのインプットについて、を中心に事業開発プロセスを解説する。

 


<目次>

1.新規事業開発が「アイディアレベルで」頓挫するのはなぜか?

2.事業アイディアを創出するためのインプットとは何か?

3.事業アイディア創出はどうやって進めればよいか?

 


 1.新規事業開発が「アイディアレベルで」頓挫するのはなぜか?

新規事業開発を単に自社の収益拡大と位置付けるのではなく、中堅若手人材の育成も兼ねて取り組む企業が多くなっている。社内から有望な人材を新規事業開発担当として抜擢し、ゼロから事業を生み出す経験を積ませることで次世代のリーダーとして育成したいとの意図からである。

しかし中堅若手社員から出てきた事業アイディアが社内承認を得られずに頓挫し、結果として人材育成も中途半端に終わるという話が多々聞かれる。なぜ社内承認が得られなかったかを分析してみると、総じて事業アイディアが「つまらない」という声が挙げられる。

社内で有望と言われる若手の英知を集めて生み出された事業アイディアが、なぜ「つまらない」と跳ね除けられてしまうのか。その理由を詳しく分析すると、下記のような回答が返ってくる。

 

  • 自身の成功体験や既存事業の課題感に縛られてしまい、目先の業務の延長線上のアイディアしか出ていない
  • 他業界における事例を知らないため、アイディアの数が出てこない
  • 生活者発想・マーケティング発想ができないため、誰がどれくらい買うかが見えない
      

 

共通している課題は、若手中堅人材は既存事業については精通している一方で、視野が狭いために面白い事業アイディアが生まれてこない事である。このような背景もあってか、社外の知見を取り込むべく様々なオープンイノベーション活動が活発になっているのであろう。

確かにオープンイノベーション活動には、社員の視野を広げ刺激を与える点では有用かもしれない。しかし、大切なのは自社にとっての新規事業を開発することであり、そのために社内を説得できる「面白い」事業アイディアそのもの、そして何より自社の社員の育成である。そのためにまず最初に必要なのは、適切な情報(インプット)の収集とアイディア創出を活性化するプロセスだと博報堂コンサルティングは考える。

 

2.事業アイディアを創出するインプットとは何か?

『アイディアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない』

これはアイディア創出として有名なジェームス・W・ヤング氏の著書「アイディアのつくり方」からの引用である。このアイディア創出の法則に従うと、新規事業開発の実務では「顧客の悩み(=ニーズ)」と「先端事例(=解決策)」との組み合わせが「事業アイディアのタネ」となる(図2-1)。

図2-1 新規事業開発におけるアイディア創出の法則

 

先端事例の収集では、ニュースサイトの記事や製品パンフレット等の情報をただ闇雲に集めるのではなく、事業アイディア創出に活用する視点での調査が必要である。事業アイディア創出に活用する視点での調査とは、その事例が生まれた世の中の流れである「社会背景」、事例が際立って見える理由である「ユニークネス」、事例を実現させた「仕組み」の3つを事例から読み解くことである(図2-2)。

 

「社会背景」

当該事例が生み出された際の世の中の流れや市場動向、生活者の流行のこと。新規事業におけるターゲットの潜在課題を知る目的で使用する。また、ターゲットの興味・関心事に対する社会背景の影響度合いから、事例の収集時におけるフィルタリングとしても使用する。

「ユニークネス」

当該事例が他の事例と比べて際立って見える特徴のこと。事業アイディアを創出する際の起点として使用する。「顧客の悩み」を「ユニークネス」を用いて「解決する」ことが一連のストーリーとなることで事業アイディアとなる。

「仕組み」

当該事例をビジネスとして成立させるために必要な機能や資源、制度のこと。事業アイディアの実現性評価や、資源の調達方法検討、必要な機能の要求定義のための情報となる。

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図2-2 顧客の悩みと3つの視点との関係性

 

先端事例収集の参考として、弊社にて情報を収集した例(ファッションブランド「A BATHING APE®」)をご紹介する(図2-3)。本ブランドは1990年代に裏原宿系ファッションブームの火付け役であり、現在でも高級ストリートファッションにおける代表格であり、特徴的なECの活用を行っている。

 

図2-3 ファッションブランド事例

 

弊社では先端事例を、生活者の意識・潮流に関するレポート「トレンドパック」としてまとめ、テーマごとに定期的に収集している(図2-4)。これらのレポートパッケージを使ってもよいし、自社の顧客層や関連業界、テクノロジーに関する情報収集を、ある程度の期間において実施しておくことが望ましい。もしくは事業開発の起案プロセスの前に収集してもよい。アイディアを発散させる材料とすると同時に、何にアンテナを立てるべきかの感度を磨く意味合いもある。

 

図2-4 「トレンドパック」の(生活者カテゴリー)例 「トレンドパック」には100トピック以上の種類があり、定期的に新規事例の収集・既存事例の更新を行っている。

 

ただし、先端事例の収集は事業アイディアを創出するプロセスの一部でしかない。大切なのは事業アイディア創出においてこれらの大量の情報をどう活用するかである。そのためにはインプットだけでなく、事業アイディアの創出プロセスを設計し実行する必要がある。

 

3.事業アイディア創出はどうやって進めればよいか?

では、収集したインプットからどの様なプロセスで事業アイディアを創出すればいいのだろうか?

それは事業開発担当だけの閉じた空間で議論することではなく、社内へ広く状況を公開し重要人物を巻き込むことである。そのためには既存事業部のキーパーソンや役員を一堂に会したワークショップ形式で、事業アイディアを共創することが望ましい。だが、“ワークショップ”と聞くと、一般的には使い古されたアプローチであり、どこの企業でも一度は実施しているだろうと思う。さらに、新規事業開発をテーマにしたワークショップ実施の結果として、その後の価値を感じておられる方もいれば、そうでない方もおられるのが実態なのではないだろうか。

ワークショップを成功させるには、アイディア発想の切り口を元に事業アイディアを発想し、参加者間の対話の中で精緻化していく「創発型」アプローチを博報堂コンサルティングでは提唱している(図4-1)。

弊社の経験則では、この創発型ワークショップを実施することで、参加者自身の業務範囲を超えたアイディアが創出されることが分かっている。また、前章でご紹介した先端事例をインプットすることで、参加者が生活者発想・マーケティング発想を持ち、多様なアイディアを生み出されることも示唆されている。

 

図3-1 新規事業アイディア創出のアプローチ

 

創発型ワークショップを成功させるポイントは3つある。

ポイント① 前述の質の高いインプット

対象テーマに関するトレンド、顧客インサイトのインプットを行い、顧客課題を解決する事業アイディアへ繋げる。

ポイント② 発想の切り口の導出

自由に発想するといっても、実際はある程度の制約を持たさないと練りこんだ発想は生まれない。多くの発想は、いかに初期に発想や構想の方向性を絞り込むか、によって導出される。

各事例のユニークポイントなどのインプットから創出した視点やキーワードから、場所/時間/表現の幅/ターゲット/空間(場所×時間×人)など、敢えて制約を付け、際立ったアイディア創出に繋げることが必要である。

ポイント③ 起案されたアイディアの取捨選択と精緻化

良さそうな事業アイディアが創出された後に、創出されたアイディアについて、一定程度の実現可能性をおさえる為にビジネスモデルを検討する必要がある。その後、検討したアイディアの中で、自社として実施する意義がある・実現可能性が高いアイディアを選定する。

事業アイディア創出・選定の流れは次の通りである。

図3-2事業アイディア創出・選定の流れ

 

アイディア検討プロセスでは、グループインタビューなどで聴取された対象テーマカテゴリ内の顧客課題に対し、生活者潮流及び先端事例から抽出された視点を活用しながら、それらを解決するビジネスアイディアのタネを数多く創出し具体化させる。

図3-2 アイディア検討ワークイメージの一例

 

ただ、創発型ワークショップの運営は通常の会議とは異なるため、場をコントロールするファシリテーターが必要である。また、複数の社内部門を巻き込みスケジュールや場所を調整する事務局メンバーが参加者の満足度に大きく影響する。しかし、これらファシリテーター役や事務局役が社内で不足しているのも実情である。

これらの人材は一朝一夕には育たない。こういった人材の能力をどう手に入れるか。また、胆力を必要とするこの立場を担ってもらう動機付けをどう行うのか、については別の機会にご紹介させていただく。

 

 

博報堂コンサルティングでは、新規事業アイディア創出プログラムおよびファシリテーションを提供している。

博報堂のシンクタンク、博報堂生活者総合研究所が実施している生活定点など経年で蓄積している生活者潮流や、博報堂コンサルティングが企業のコンサルティングを通じて培った各業界の変遷・生活者の意識の変化に関する知見をまとめたレポート集「トレンドパック」を保持。常時アップデートしている。

また、「トレンドパック」も活用した業界や市場の未来シナリオの設計と、未来における自社とステイクホルダーの役割と収益を具体化することで、「既存業界にとらわれない創造性と、地に足の着いた実現可能性」を両立した事業開発の設計を行っている。

これらのプロセス全体の代行の他、質の高いインプットが欲しい、社内で行う発想ワークショップを成功させたい、という設計における悩みもお気兼ねなくしていただきたい。

生活者のトレンド起点の事業開発をサポートするツール「トレンドパック」https://www.hakuhodo-consulting.co.jp/company/service/business-development/

プログラムに関しての詳しい情報が知りたい場合、新規事業開発を検討されている場合は是非お問い合わせください。

 

引用文献

アイディアのつくり方(CCCメディアハウス)、ジェームス W.ヤング著、今井茂雄訳、1988年
BAPE.COM(PROFILE)、https://bape.com/company_profile/、2019-06-14
WWD(2018年9月26日)、https://www.wwdjapan.com/articles/705243、2019-06-14


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