なぜ事業変革が進まないのか?社内コンテストを成功させる本当の秘訣とは

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  • 組織改革・人材育成

事業変革やイノベーションを掲げる企業の多くは、新規事業コンテスト、アイデアソンやハッカソンなど、社内アイデアコンテストの実施を考えたことがあるのではないだろうか。起案のためはもとより、手を挙げる人材を発掘するという意味でも、この取り組みは有効といわれ、実際に広く取り入れられている。

一方で、実施にはかなりの手間やコストがかかる割に、参加者が少ない、年々応募が減っていってしまう、新鮮味が薄れたといわれ、いつの間にか形式的になることが多い。実は、社内からアイデアを募る「コンテスト」を進める上で、見落としてはならない心理学的な重要なポイントがある。

ここでは、そのポイントと「コンテスト」を成功させるメカニズムをご紹介する。さらに、このメカニズムは、社内コンテストのみならず、人材を獲得する/活性化するといったHRブランディングに向けた取り組みにもつながりうるため、そのあたりも念頭に置きつつご覧いただきたい。

 

目次:

  • 1.「コンテスト」の成否を分けるポイントは、参加の動機
  • 2.適切な動機付けとは一体何なのか?
  • 3.応募者に合わせた適切な動機付けの構造と設計の方法とは?
  • 4.個人の動機を踏まえた仕掛け事例
  • 5.採用や人事への活用

 

1.「コンテスト」の成否を分けるポイントは、参加の動機

事業変革を行うには、社会や業界が変革するなかで、社員・メンバーに会社などの組織のビジョンへの共感を促し、それを担う人材のモチベーションを上げることが必須である。そのために社内アイデアコンテストなどが行われるのだが、重要なのは、このモチベーションとは何かということだ。

モチベーションは、「取り組みになぜ参加するのか」という動機である。社内コンテストなどを行うことで、その場でのアイデア創出やビジョンへの共感が得られたとしても、社員・メンバー一人一人がそこに「参加する動機」のベクトルと、「その取り組みの結果、会社が、社会がどうなるのか」というベクトルが一致していないと、それはただの一過性の共感やイベントで終わってしまう。

つまり、コンテストを通しての主催側の狙いが「儲かる事業の開発」だとしても、参加者側は「儲かる事業の起案」を通して、異なる動機によって参加していることを読み外しているのである。

では、コンテストに参加する「動機」はいかなるものなのか?

 

2.適切な動機付けとは一体何なのか?

もちろん、すべての人の動機をわずか数種類に類型化することは乱暴である、ということは承知の上で、弊社の経験則とそして心理学的側面から定義する。

動機の裏側には、必ず欲求がある。皆さんも聞いたことがあるであろうアメリカの心理学者アブラハム・マズローによって提唱された「欲求段階説」は、この人間の欲求を階層化したものである。「欲求段階説」によると、人間の欲求は「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」という5段階のピラミッド階層になっている。そして、人は低位層の欲求を満たすと、より高次の階層の欲求を満たすことを目指すという。この考え方は、組織心理学において、従業員の動機付けの説明として多く用いられている。 

この説に基づき、弊社が企業における「採用=就業動機」および「就業継続動機」付けというインターナルブランディングの一環として取り組む際のフレームをご紹介する。参加者(社員)からするとコンテストへの参加動機は就業動機とほぼ等しく、コンテスト応募者が熱意を維持して参加し続けることは就業継続動機に非常に近しい構造を持っていると考えられる。

それら就業に関する動機を階層化して示したのが下記の図である(図1)。

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図1:マズロー欲求段階説を就業動機へと読み替え

 

最下層にあたる「生理的欲求」とは生存に関わる欲求のことで、最も根本的な欲求である。これを就業の動機として捉えなおすと、基本的な待遇を保証されることが大切になる。例えば固定給がきちんともらえるとか、あちこち転勤させられないとか、生活の安定につながる要素だ。次に「安全の欲求」は、この会社などの組織が潰れることなく存続するか、とか、組織のなかで自分の居場所があり続けるか、というようなことで、「生理的欲求」と並ぶ根本的な欲求とされている。3番目の階層である「所属と愛の欲求」は、会社などの「組織への帰属意識」や愛着を持てるかどうかであり、4番目の「承認の欲求」は、自分の実績が評価されたり認められたりすることとなる。そして、最上位層である「自己実現の欲求」は、その会社などの組織において「自分の望むキャリアの実現」ができるかどうか、と捉えることができる。

このように、欲求の段階は人それぞれに異なり、その人の欲求がどの段階のものかによって、取り組みへの動機となる要素も異なる。そのため、対象となる人の欲求の段階に合った適切な動機付けを行う必要があるということである。 

では応募者は、スタッフでも専門職でも、はたまたマネジメントであってもその動機は同じなのであろうか?

 

3.応募者に合わせた適切な動機付けの構造と設計の方法とは?

これを、社内コンテストなどの活動への参加動機に置き換えて見てみよう。以下は、実際に行った調査の結果である(図2)。

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図2:従業員の活動参加・継続動機の差異(当社調べ)

 

 

ここで特徴的なのが、「活動に参加する時の動機」と「活動に参加し続ける動機」では内容が少し異なってくるということだ。最初は手当や賞金などわかりやすいリターン(就業においては給与や就業地など生活の安定につながる要素)が満たされていることが必要だったのが、参加し続けるには、異なる欲求階層が必要となり、社会や組織における商人欲求や参加によるつながりといったお金で買えないリターンに対する欲求が高まってくるのだ。 

さらに、参加者の階層、つまりスタッフ系なのか専門職やマネジメント層なのかによって大きく2種類に分けることができ、細かく見ていくとここでも違いがあることがわかる。まず専門・マネジメント層は、活動への参加の時点から目先のリターンだけでなく、大手企業と関われるかとか最先端のものに携われるか、という「個人の資産になりうる」ことを見ている。これは将来的な自己実現欲求につながりうる。そしてその後、活動に参加し続けるうちに、欲求がより高い階層へと移り「評価されること」「横のつながりやネットワークがある」といった「自分自身の役割や成果」に対する客観的なリターンを要求するようになる。 

一方でスタッフ層は、最初は給与や待遇などで参加を決めるが、継続においては「自身が必要とされている」「組織において立場が認められている」かどうかが要求の主になってくる。たとえるなら「仕事が回ってこない」「連絡がきちんと来ない」など、活動の場や職場において自分の居場所がないことに対してネガティブになるようになる。つまり、スタッフ層にとって大切なのは、この会社などの組織に所属するスタッフとして安定=誰かにきちんと「見られている」ことなのだ。だから、コンテストに参加したとしてもそのなかで必要とされていないと思われる評価をされたり、コンテスト参加によって他の仕事が回ってこなくなったり、失敗したら外されるようなことがある(あるかもしれないと思う)と、続いていかない。 

同様に、専門・マネジメント層が大事にするのは、会社などの組織や社会における自分の評価やポジションだ。もちろん最初は直接的なリターンも必要ではあるが、それだけでなく、それ以上に、大きな案件=社内や社外から注目を集めうるかとか、先進的な内容でありその経験者となりうるか、ということが必要になる。そして、そこに参加し続けていくには、同じような志向を持つ人間と良いネットワークを築けたり、社内外からの注目や評価が具体的に提示されることが強い動機になるのである。 

このように、「活動参加時」と「活動継続時」という時系列での欲求の変化だけでなく、参加者がどの職種の人間なのかによっても、多少は軸が異なるため、それらに合わせた設計が必要となる(図3)。

 
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図3:従業員の就業動機構造と職種

 

 

この構造を理解した上で、それぞれに響く動機付けを設計することが大切だ。 

では、次章では具体的にどのような動機付けをしうるのかを紹介する。

 

4.個人の動機をふまえた仕掛け事例

ここまで見てきたように、取り組みへの動機とひとことで言っても、その内容はまちまちだ。そのなかで、どの部分を捉えて動機付けするかによって、結果に大きな違いが生まれる。だからこそ、個人個人の「参加の動機」と「継続する動機」をそれぞれの層に対して読み分けて、きちんと仕組み化して仕掛けていく必要があるのだ。 

例えば、社員・メンバー全員を対象とした社内コンテストを行う場合、まず「どこにいて・何をしていてもあなたは(元の部署からみたら)仲間ですよ」というメッセージがとても大切になる。それを証明するためには、プロジェクトメンバーには連絡がいかなかったり遅れたり、自分にだけ連絡が届かないということはあってはならない。階層の上下も地域の差もなく、全員が均等であるためのコミュニケーションを徹底しなければならない。極論、プロジェクトメンバーとして組成するより、元の部門の名刺や肩書を残したほうがいい場合もある。それができて初めて次のステップに進めるのである。 

また、有効なのが横のつながりである。例えば、アイデアが公開され、様々な階層の人からコメントフィードバックがもらえることや、チーム間での共有が、組織的な承認欲求を満たすことにつながり、またそれが参加および活動の継続動機につながっていく。 

一方、専門職やマネジメント層を対象とした取り組みの場合は、「社会的にどう見られるのか」とか「これをやることで、これまでよりも横のつながりやネットワークが広がっていくのか」「社内外の評価が高まるのか」といったことに対する仕組みとして、公式な取り組みのリリースや発表会・評価会を用意することも必要である。 

これまでに示したように、それぞれの立場の人はそれぞれの個人的な動機を持っている。その違いを踏まえた上で、仕組みづくりをすることで取り組みのリターンを大きくレバレッジすることができる。 

事業変革を目指して社内コンテストを行い、会社などの組織の掲げるビジョンへの共感を得るのは大切なことだ。しかし、いくらそのビジョンが素晴らしく社員・メンバーが共感したからといって、それにいつまでも共感し続けることは難しい。だから、そこで取り組むべきことはポスターや広告を打つことでも賞金を豪華にすることでもなく、コンテストのような取り組みに「参加しよう」「活動・取り組みを続けよう」と思わせるための、個人の欲求に合わせた進め方と仕組みづくりである。 

コンテストそのものが会社の将来につながるものだとして、その活動の参加で得られることこそが、参加者にとっての取り組みへの動機につながる。 

主催者であるトップやマネジメントから見れば、経営ゴールや事業目的を実現する「途中経過で得られるもの」に見えるであろうが、実はそれがモチベーションの源泉であり、その動機が満たされる延長線上に本来の目的の実現があるという構造が大切なのだ。

 
 

5.採用や人事への活用

最後に、採用ブランディングや離職防止との関連性について触れておく。 

ここまで述べてきた動機付けのメカニズムは、もともとは採用強化と離職防止からの応用である。よって、社内コンテストへの参加の動機付けは、そのまま「この会社などの組織に入りたい」という動機付け、すなわち採用ブランディングにつながり、活動に参加し続ける動機付けは、「この会社などの組織に居続けたい」という離職防止や会社などの組織の価値を社内に浸透させるインターナルブランディングにつながる。 

いずれにしても、いかに動機を引き出し、その動機を継続・発展させるのか。組織が狙うゴールと、個人の動機のゴールをすり合わせていくことが成功の秘訣なのである。

 
 
※1:クライアント様との共同調査のため、詳細情報の提示は控えさせて頂きます。


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