イノベーションコンテストを有効に進める仕組みづくりのポイントとは

牛田 奈緒子

牛田 奈緒子

  • 組織改革・人材育成

事業変革を目指すにあたり、それを担う人材のスキルアップやモチベーションアップを狙った社内コンテスト形式の活動を展開している企業は多い。それはQCCSから、製品・サービス・事業アイデアコンテストなど多岐に渡る。しかし、自発的に参加するメンバーが少なかったり、2回目以降の参加率が伸び悩んだりと、うまく成果に結びつく例は少ない。

このような活動を進める際、重要なのは仕組みづくりだ。

本稿では、上記のようなコンテスト活動における仕組みづくりのノウハウを、3つのポイントと、それを継続・拡大していくフェーズに分けてご紹介する。今回は、ビジョン・ブランドの内部浸透を目的とした新規事業コンテストを例にご説明するが、上記のような活動に共通するものであるため、自社・自組織の内容に置き換えて読み進めて頂きたい。

 

目次:

  • 1.参加したくなる仕掛けづくりのためにクリエイティブを最大活用
  • 2.社会・市場の視点を採用した評価基準と仕組みづくり
  • 3.フェーズに応じたヒト・カネ・制度による支援
  • 4.戦略的な社内外コミュニケーションによる拡大と継続
  • 5.おわりに

 

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1.参加したくなる仕掛けづくりのためにクリエイティブを最大活用

新規事業コンテストを行うにあたり、まず大切なのは始め方だ。この活動を認知させ社員の自主性やモチベーションに火をつける、すなわち「参加したくなる仕掛けづくり」が必要である。特に大企業になると、全社横断の活動が乱立し、職制を通じた通達で告知しても、目に留まらず流されてしまうことがほとんどだ。従って、社長が大々的に宣言するなど、会社の本気度を示すことはもとより、義務ではなく「面白そうだ」と心を動かされ自発的に参加したくなるような演出やクリエイティブが欠かせない。

例えば、某社の組織風土改革を目的とした新規事業コンテストでは、社長を前面に出しインパクトのあるポスターを告知に活用した。大規模グループ企業のトップに立つ社長の起用は、注目を集めるとともに社長自身の本気度を伝えるのに有効であった。

社員食堂のテーブルや会議室にPOPも設置した。ポスターとは異なり、昼食や打合せ時に「このコンテストに応募した?」「昨年の入賞案見た?」等、社員同士の会話にのぼり、波及することを狙ったものである。

さらに、こうした告知物で認知・興味喚起されたものの「アイデアの考え方がわからない」「一緒に考える仲間が見つからない」ことを理由に参加を躊躇してしまうという社員も多い。そこでこうした社員がコンテストに応募しやすいように、アイデアソンイベントを実施した。形式も研修や会議のように堅いものではなく、ゲーム性やエンターテインメント性をふんだんに盛り込んだプログラムにすることで、楽しく参加できるようなものとなっている。

このような仕掛けをする際、その視点は、実は商品のセールスプロモーションやイベント、広告などと同じである。いかにその商品・サービスを知り、興味・関心を持ち、手に入れたいと思わせ行動させるか。そのためにどのような接点で、どのような情報を発信するのか。

もちろん、活動のネーミングやポスター等の告知物、イベントの演出、活動レポートの体裁など、情報の接点は具体的な活動内容によって様々である。また、その企業の社風によって効果的なクリエイティブの方向性や内容は大きく異なる。ただ、重要なのは、活動を認知させるためにただ情報拡散するのではなく、自社の商品を売るのと同様の視点でターゲットの心を動かし、行動を起こさせる仕掛けを打つことなのである。

 

2.社会・市場の視点を採用した評価基準と仕組みづくり

次にポイントとなるのが、集まったアイデアの評価の仕方である。この時、社内の人間が評価者になると、「我が社の新規事業はこうあるべきだ」とか「今まではこうだったから」などと社内の論理と評価基準で判断しがちだ。しかし本来、社内ではまだ気付けていないイノベーションの在り方や顧客満足、あるいは事業改善の機会を発見しようというのだから、社内の視点だけで評価するのでは不十分である。

ここで必要になるのが、外部の評価者の導入だ。

例えば某社では、活動当初は社内の新規事業開発担当者による審査を行っていた。しかし回を重ねるにつれ、社内の事情やこれまでの慣習が重視されるようになり、既存の事業の延長線上にあるようなアイデアしか審査を通過しないという問題に直面した。このため活動途中から審査員を社外のベンチャーキャピタルや大学教授、起業家、コンサルタントに刷新したのである。その結果、それまでは「自社らしくない」として落選してしまったような斬新なアイデアも、社外の目から見ると「ぜひこの会社がやるべきだ」「この会社にしかできないアイデアだ」と通過するようになった。

このほか、新規事業コンテストとして有名なリクルートの「NewRING」においても、堀江貴文氏や田村淳氏など多様なバックグランドを持つ人間を審査員に起用していた。(なお同社の活動は、進化し続けておりその後2018年に「Ring」にリニューアルしている)

つまり「外部の評価者」といっても、それは自社や業界の過去の因習にとらわれない評価基準を持つ人間であり、顧客や社会、市場の視点をもって評価を客観的にすることが大切なのだ。

そして、その評価の基準と結果こそが、実は社員が最も知るべきことである。なぜなら、どのようなアイデアがどのような理由(=基準)で選ばれたのかは、そのまま世の中から見た自社への期待であり、自社ブランドへの評価に他ならないからだ。だからこそ、その視点を評価基準として取り入れた仕組みをきちんと作る必要がある。

 

3.フェーズに応じたヒト・カネ・制度による支援

3つ目のポイントは、アイデアの実現方法だ。

コンテストという形式をとってはいるが、ゴールはあくまで新規事業の立ち上げであり、ビジネスを生み出すことである。アイデアを出して終わりではなく、そのアイデアを練り込みローンチするところまで持っていかないと意味がない。しかし実際は、働き方改革による労働時間管理の影響もあり、本業優先のプレッシャーや、活動にかける時間が足りないという声が多く聞かれる。また、うまく企画が進んだとしても、必要なスキルは多岐にわたり、チームビルディングをどうするかなど、アイデア起案者だけでは到底手に負えなくなってくる。ここをどうサポートするかが大きな課題である。

これに対し、某社の事業開発事例では、社内外の多様なサポーターが、応募から事業化までそれぞれのフェーズに応じて適切なサポートを行うことで課題解決をしている。

応募時には、自身のアイデアを1枚の応募用紙に落とし込むだけなので、基本的にサポートはないが、年によっては講演会を実施し、その終了後に講師からアイデアへのアドバイスがもらえるセッションを設けたこともあった。

1次審査では、通過案はもちろん、非通過案に対しても今後に向けてのアドバイスが行われる。このため惜しくも非通過となった場合でも、次年度にブラッシュアップして再び応募することが可能だ。

1次審査を通過すると「事業計画フェーズ」に進む。ここでは、社内外の専門家で構成されたスタッフが、事業計画の作成を直接指導する。事業計画の作成となると起案者の知識・スキルだけでは対応できないことも多いため、必要に応じて外部機関の紹介も行う。さらにこの段階になると労務面でも正式に業務の一部として認められ、上限額はあるもののマーケット調査などフィージビリティスタディのための予算が提供される。

2次審査では事業計画をプレゼンし、通過案はテストマーケティング予算を付与され「体制構築&テストマーケティングフェーズ」へと進む。この段階になると起案者は部署異動し、事業化に専念できるようになっている。同時に、会社はテストマーケティングを目的とした株式会社などの事業体の設立準備を支援する。そして最大の支援は、仮に事業化が頓挫した場合でも、元の所属・職位に戻れることを保証する制度である。会社が社員の挑戦を称賛・支援する姿勢が、制度として体現されているのである。

このように、専門スタッフや外部人材を活用したサポートの仕組みを作ることが必要だ。しかも、アイデア発想から実際の事業化に至るどのフェーズにいるかによって必要なサポートの内容は違ってくる。アイデアを練り込む段階であればアイデアの壁打ち役、事業計画の策定段階であればビジネスモデル策定や収益シミュレーション、さらにその後のフェーズではパートナー候補探しと選定、といったようにフェーズに応じて必要なサポートを行う仕組みを組織として設計する必要がある。手間やコストがかかることは確かだが、ただのアイデアコンテストだと社員に見透かされた瞬間に、本気の人間ほど離脱していく。一番大切なのはアイデア起案者のテーマに対する熱意を途切れさせないことであり、そのためには、これを支える仕組みは必須なのである。

 

4.戦略的な社内外コミュニケーションによる拡大と継続

ここまで見てきた3つのポイントは、コンテストを上手く進める方法だが、これだけでは2回目3回目と盛り上がってはいかない。見逃してはならないのが、「拡大・継続の仕方」だ。

某社では、ある年のコンテストで子会社所属の若手社員のアイデアが入賞し、その社員は自身のアイデアの事業化に専念するために異動となった。その後、彼に対してインタビューを行い、アイデアの発想に至った動機や普段心がけている思考・行動、アイデアの実現に向けて現在行っている業務を専用サイトの記事上で取り上げた。

このインタビューには、単なる経過報告以上に2つの役割があった。

1つ目は、現在自社が求めているイノベーションとは何か?それを実現する人材とは何か?の一例の見える化である。「イノベーション」「チャレンジ」「柔軟で大胆な発想」等のキーワードは多くの企業で掲げられているが、実際に一人一人の社員が何をすればいいのか?どのような商品やサービスがイノベーションなのか?が明言されていることはほとんどない。このインタビューはその具体例を示すことになったのである。

2つ目は、入賞したアイデアが会社からのサポートにより、事業化に向けて進捗しているということを示すことだ。これにより、会社あるいは経営陣が社員の新しいチャレンジやアイデアを本気で支援すること、そのチャンスが部署や職位にかかわらず全社員に開かれていることが強烈に伝わったのである。

これまで述べてきた3つのポイントを踏まえた仕組みづくりを行っても、それが伝わらないことには意味がない。入賞したアイデアの何が評価されたのかわからなければ、次回何を応募すれば良いのかわからないし、活動の結果がどうなったのか知らなければ、「手間のわりに何にもならない」としか思えない。だから、まずは参加者や入賞者をきちんと表彰し、何が評価されたのか、その後の活動はどのような仕組みでサポートされ進捗しているのか、を情報発信することが必要なのだ。

また、応募するまでには至らなくても、他の人のアイデアに応援や支援の意思を提示できるような、相互コミュニケーションのインフラを作ることも有効だ。アドバイスや応援コメントなどを通じて小さな参画ができることで、活動参加者の裾野を広げていくことができる。また、応募された全アイデアが社内に公開されることで、組織を越えて起案者に社内協業を提案したり、他の人のアイデアを自身の業務に活かしたりすることもできる。その結果、1人の小さなアイデアが次なる大きなイノベーションへとつながっていくのである。

さらに、社内のみならず、社外に目を向けた発信も大切である。なぜなら、活動自体が社外から注目された結果、社員もその活動の意義と重要性を再認識するという「ミラー効果」が期待できるからだ。そのためには、コンテストのアイデアが事業化した場合のプレスリリースに、通常の新規事業開発プロセスとは異なり、一社員のアイデアから生まれたものであることを明記するのは必須だ。また、コンテストという活動自体に社外からの注目を集める仕掛けも有効である。活動が著名なビジネス誌に取り上げられた際に、社内からの問い合わせが多数寄せられ、社内の認知促進・興味喚起につながる結果となった例もある。

このように、拡大・継続のための大きなポイントは、入賞者のスター社員化、アイデアを介した社員間コミュニケーション基盤、そしてミラー効果を狙った社外への積極的な情報発信である。

 

5.おわりに

繰り返しになるが、ここまで見てきた4つの切り口のうち、1つ目の「参加したくなる仕掛け」は、ターゲットに対し、クリエイティブの力でいかにその活動に興味・関心を抱かせ反応させるかという、マーケティング活動そのものだ。また、2つ目の「評価の仕組み」は、自社のあるべきブランドを評価基準に落とし込むことであり、3つ目の「アイデア構築と実現」は、新ビジネスの起案から実現の支援そのものである。そして4つ目の「拡大・継続のサイクル」は、社内外の興味・関心者に対して情報提供をしながらリテンションを図り続ける、CRMと同じだ。

それは、自分たちの会社や事業のブランドの提供価値とその実現方法を設計することであり、インナーブランディング(インナーブランディング)におけるブランドのPDCA設計と言うことができる。

当社では、各フェーズにおいて上記の視点で様々なサービスをご提供できるため、是非お問い合わせ頂きたい。

 

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