ブランドがマーケティング領域の枠を超えて経営領域に広がったことに伴い、ステークホルダーは顧客と従業員から、投資家・株主へと広がりました。ブランド経営の観点から言えば、顧客はブランド価値を提供する対象、従業員はブランド価値を創出する担い手であるのに対し、投資家・株主はブランド提供価値に期待・共感して資金的に支援してくれる存在です。
企業がブランド提供価値に基づいて戦略的にブランド経営を行うことで、明確なビジョンを株主・投資家へ示すことができるとともに、事業拡大のための資金集めが可能となります。
主に米国のビジネススクールやコンサルティング会社を中心として発展してきた経営戦略論に対する批判として、経営の目的が財務諸表上の数字を向上させることに偏り過ぎているという声がよく聞かれます。
とりわけ日本企業では、外資系企業のようにドライに財務指標だけを追求し続ける経営姿勢に違和感を覚える経営者も多いようです。
そのため、最近では財務諸表に記載されない無形資産を活用し、企業価値の向上を目指すブランド経営に関心が集まっているのです。
では、数字に現れないブランド価値をどのように投資家へ説明すればいいのでしょうか。非常に難しいテーマではありますが、一つの試みとして「統合報告書」というものが最近注目を浴びるようになっています。
従来から、上場企業は投資家に対して決算短信や有価証券報告書などさまざまな情報開示を行ってきました。しかし、それらはいずれも損益計算書や貸借対照表などの財務情報が中心でした。これに対して統合報告書とは、従来の財務情報に加え、環境や社会へのCSR(企業の社会的責任)活動、知的資産などの非財務情報を統合したものになります。
そして、その非財務価値の中でもとりわけ大きな存在が、企業の保有するブランド資産です。
これまでは極端な短期思考へ走りがちだった株式市場においても、近年では中長期的なブランド価値が重要な投資判断の材料となっているのです。
(文化通信 2014年8月25日号掲載)
※本連載は文化通信に寄稿した内容を転載しております。