経営戦略の観点からは、ブランドは経営資源の一つであると考えます。経営資源には、ヒト、モノ、カネ、情報の4種類があると言われています。このうち、ヒト、モノ、カネは有形であり比較的分かりやすいですが、四つめの「情報」というのは目に見えないためにわかりづらいものです。経営学者の伊丹敬之氏は、この情報という経営資源を「見えざる資産」と名付け、その経営管理の巧拙が企業間の競争優位の大きな差につながると主張しています。
伊丹氏は情報を三つに分けて考え、図のようなフレームワークによって簡潔に整理しました。経営資源としての情報には「A 外から中」、「B 中から外」、「C 中から中」の3種類があります。一般に「情報」というと、A(技術・生産のノウハウ、顧客情報の蓄積など)のように外から中へと入ってくるものをイメージすることが多いでしょう。しかし、ここで重要なのは、BやCもまた自社の経営資源であり、それこそがブランド資産であるという考え方です。
B(中から外)は、広告やPR、IR(投資家向け広報)、あるいは製品や店舗、営業マンなどを通じて企業から世の中に発信される情報です。これによって蓄積される企業の信用やイメージがブランド資産となります。
C(中から中)は、上司から部下、先輩から後輩へと受け継がれる情報、あるいは経営者から従業員へと発信される情報などです。これによって蓄積される企業文化や組織風土、現場のモラルなどがブランド資産となります(BとCを対比的に区別するため、前者をエクスターナル・ブランディング、後者をインターナル・ブランディングと言うこともあります)。
「見えざる資産」であるブランドを、企業が意図的に管理することは非常に困難です。なぜなら、ブランドはヒト・モノ・カネなど他の経営資源と異なり、顧客や従業員などの意識の中に作られていくものだからです。しかし、たとえブランドを完全に管理することができないとしても、少しでも自社に望ましい情報を中長期的に蓄積させる企業努力は不可欠であり、このことに最優先に取り組む経営戦略のアプローチこそが「ブランド経営」なのです。
(文化通信 2014年3月24日号掲載)
※本連載は文化通信に寄稿した内容を転載しております。