経営戦略としてのブランドの考え方は、メディア企業の経営にも当てはめて考えることができます。例として、地方新聞社のブランド経営を考えてみましょう。
起点となる最初の問いは、「顧客は誰か?」です。例えば、二つの大きな方向性が考えられます。一つは既存の読者層に限定して、「当該エリア在住の既存読者である活字好きのシニア世帯」という比較的狭い範囲の定義。もう一つは、現状では新聞を購読していない若者層も含めて、「当該エリア在住の全世帯」という広範囲な定義です。前者であれば、よりシニア層の興味・関心に特化して紙面構成を変革するというのが基本方針になります。後者であれば、活字離れを起こしている若者層の取り込みが最重要課題となるため、スマートフォンアプリの活用などに最優先で取り組むべきです。
次の問いは「その顧客に対する提供価値とは何か?」です。顧客をシニア層と設定した場合は、「シニア世帯が心豊かに安心して暮らせる環境作り」と定義することができます。紙面による情報提供に留まらず、新聞の販売網を活用して、食品や生活必需品などの配送事業に乗り出すことが考えられます。
顧客を若者も含めた全世帯に設定した場合は、「全国メディアが取り扱わないローカルニュースの提供」と定義できます。当該エリアの全世帯に情報を届けるためには、ITインフラを持ったベンチャー企業などとのM&Aや業務提携が有力な打ち手になり得るでしょう。コンテンツを増強できる上にふるさとに貢献できるのであれば、パートナーシップに前向きなベンチャー経営者も多いのではないでしょうか。また、ニュース記事を方言変換するなどの演出もデジタル技術の力で可能ですし、全国メディアがやらないことという意味で、これもブランドの提供価値にかなった立派なアイデアと言えます。
これらはあくまで一例ですが、「顧客」と「提供価値」の定義を明確化することで、さまざまな戦略やアイデアが出てくるはずです。あらゆるメディア企業に変革が迫られている今、経営戦略としてのブランドを事業成長のための一つのヒントにしていただけたらと思います。
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(文化通信 2015年1月19日号掲載)
※本連載は文化通信に寄稿した内容を転載しております。