<第3回> ライフネット生命のビジネスモデルとビジネスライフ―ビジネスモデルと成長ストーリーの再構築

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2016年8月3日にアークヒルズWIRED Lab.にて開催されたビジネスモデル学会イブニング・セッションの内容を、3回にわたり連載いたします。
インターネット生命保険のパイオニアであるライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長の出口治明氏と、博報堂コンサルティング 取締役フェロー/明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授の首藤明敏が、「ライフネット生命のビジネスモデルとビジネスライフ」をテーマに深い話を繰り広げました。(以下敬称略/全3回)


第3回 ビジネスモデルと成長ストーリーの再構築

 
1. 成長に向けた新たな取り組み

首藤: 2015年の決算説明会資料によると、いくつか新しい施策を打っていらっしゃいますね。1つはインターネット直販のサービス強化ということで、ウェブサイト来訪者増加施策や、サービスのスマホへの最適化など実施されています。それ以外の目玉としては、KDDIさんとの業務提携。資本を受け入れられ、auの生命保険が4月にスタートして、申込件数増加に寄与しているそうですね。

出口: はい、寄与しています。

首藤: どのような経緯でKDDIさんとの業務提携に至ったのですか?

出口: ライフネット生命を開業した時、スマホはまだ普及していませんでした。自分が保険に入る場合を考えても、パソコンから申し込むと思っていたのですが、わずか8年で、スマホから申し込む人が全体の50%近くを占めるようになりました。やはり若い人を中心にスマホの浸透率が本当に高い。そうであれば、スマホ×保険という可能性はあるので、キャリアであるKDDIさんと提携することは、デバイス対策としては非常に有効なのではないかと考えました。

首藤: 「就業不能保険」という新商品も導入されました。

出口: 非常に将来性のある商品です。生命保険は、多くはかわいい子どもや家族のために入るものですが、今の日本では一人暮し世帯が一番多く、全世帯の33%を超えています。一人暮らしの方がつらいのは、難病にかかったり、事故に遭って働けなくなってしまった時。数年以上働けないという状況が一番つらいですよね。この保険は、日本では日立キャピタル損害保険さんの次に、ライフネット生命が売り出したのですが、世界ではポピュラーな保険で、難病にかかったり事故に遭ったりした時、完治するまでお金を払い続ける保険です。上限はありませんから、毎月20万円と決めておけば、10年でも20年でも治るまで払い続けます。こういう新しい保険も売っています。

それからほけんの窓口グループの窪田社長が、この商品を扱いたいとおっしゃってくださったので、代理店販売も行っています。付加保険料が低いので、7.5%の手数料しか払えませんと申し上げたら、それで結構ですと。代理店で売ると手数料がかさむのではと思われるのですが、インターネット代理店と全く同じ手数料です。

首藤: ほけんの窓口さんは、その商品を取り扱うことにどういったメリットを感じられたのでしょう?

出口: 彼らは生活者のトータルライフに寄り添うことを理念に掲げていますが、「就業不能保険」という商品は他の生命保険会社にはないのです。

首藤: なるほど、品揃えに意味があるということですね。
そして、経営を2トップ主導型から、組織経営へ移行されました。

出口: ベンチャーを立ち上げる時は、誰かが引っ張っていかなければいけませんよね。昔の王朝も同じです。でも、王朝が成立した後は、官僚制を敷いて組織でやっていかなければ、一代でつぶれてしまいます。だから、どんなベンチャーであれ、最初は個人がともかく引っ張る。でも第2ステージに入ったら、組織経営へ移行するのが然るべきやり方だと思いますので、中期計画も僕は口を出さず、30代~40代のスタッフ中心に一所懸命考えてもらいました。内容を見て、えらく地味だなと感想を言いましたが。

首藤: 博報堂コンサルティングでも、「元気が出る中計」という社員や様々な関係者のモチベ-ションを高める中計のあり方を提案しているのですが、御社の新中計が新たな成長の土台になっていくといいですね。

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2. ビジネスは我慢

出口: 先日、知り合いのヨーロッパの某保険会社のアジア地域の責任者が僕のところにやって来て、保険という非常にコンサバな業界で、まだ10年もたたずして20万件の契約を獲得したのはすごいねと言ってくれたのですが、全ては結果ですから、僕はライフネット生命が何かを成し遂げたという気持ちは全く持っていません。まだ何も成し遂げていないと思っています。社内広報からは、“Nothing”と言っていると社員のモチベーションが下がって困るので、“Something”ぐらいに言ってくださいとよく言われるのですが、僕は今のライフネット生命のポジションは、マラソンで言えば400mのトラックを走り終えて、やっと道に出たぐらいだと思っています。

首藤: それはご謙遜です。すばらしい成果を挙げたと思いますが、ただこれだけ頑張ってカテゴリーを創造しているにもかかわらず、まだまだだとおっしゃる部分を、どう課題として考えて解決していくかが重要ですね。

出口: そうですね。おそらくどんなビジネスでも、最初はずっと低空飛行していて、ある時上にあがるタイミングがあるんですよね。最初に僕に生命保険会社を作りましょうと誘ってくれた谷家さん(あすかアセットマネジメント株式会社 取締役会長)も、絶対にブレークするけれど、いつ何がきっかけになるかはわからないという話をしていました。本当にそうだと思います。ビジネスって我慢だと思います。営業キャッシュフローは2~3年前から10億円単位の黒字になっていて、基本的な心配はないので、どこまでしつこく我慢できるか、マラソンと同じだと思っています。

 

3. 「人・本・旅」のすすめ

首藤: それでは、ビジネスモデルの話から、ビジネスライフの話に移らせてください。
出口会長の『働き方の教科書』を読ませていただきましたが、その中で、教養とは何かに関連して出てきた、ココ・シャネルの言葉がとても印象的でした。

「私のような学校も出ていない、年をとった無知な女でも、まだ道端に咲いている花の名前を一つぐらいは覚えることができる。一つ名前を知れば、世界の謎が一つ解けたことになる。その分だけ人生と世界は単純になっていく。だからこそ、人生は楽しく、生きることは素晴らしい。 ココ・シャネル」

出口: 僕は本の虫なので、新聞や雑誌の取材で「最低限何冊ぐらい本を読んでいたら教養があると言えるのですか?」といった質問をよく受けるのですが、僕はこのように答えています。「違います、本なんか読まなくてもいいんです。」と。大切なのは「人・本・旅」であって、人が賢くなるためには、たくさんの人に会ったり、たくさん本を読んだり、いろいろなところに行くこと以外の方法はないと思うのですが、極論すれば、本を1冊も読まなくても世界中のあらゆるところを回っている人はものすごく教養があると思います。教養というのは、量ではなく、人生のスタンスの問題なのです。そして、シャネルのように功成り名を遂げ、お金も名誉も全部得た人でもこんなことを言っているのです。「いくつになっても知らないことは知りたい。学べば世界が単純になり、生きることが楽しいと思う」と。このようなスタンスこそが、僕は教養だと思っています。

首藤: とても素敵な言葉ですね。すごく感銘しました。そして、こう考えればいいんだということがよくわかりました。

出口: 本当にそうですよね。

首藤: それからもう1つ。『本の使い方』も読ませていただいたのですが、出口さんが「自他共に認める活字中毒」とおっしゃっている中毒の「毒」の意味がこれでよくわかりました。「花には香り、本には毒を」って、これも素敵な表現ですね。

出口: 同じような言葉はたくさんあります。「偏見なき思想は、香りなき花束である」。これはロイスブルックという人の言葉ですが、人間は皆とがっている、とがったところがない人なんて面白いはずがないという意味です。僕は「本には毒」がとても大切だと思っています。

先ほどから、人が賢くなるために大切なことは「人・本・旅」だとお話ししてきたのですが、それはなぜかと言うと、選択肢が増えることは楽しいと思うからです。例えばスキーが上手だとします。ガンガン滑るという楽しみ方と、ボーッと滑る人を眺めているという楽しみ方がある場合、どちらが楽しいでしょう?つまり、スキーができる人は、楽しみ方を選べるということなんです。今日は元気だからガンガン滑ろう。もしくは、昨日ガンガン滑って足が痛いから、今日はボーッと見ていよう、など。でも滑れない人は見ているしかないでしょう?何かを知る・学ぶということは、その分人生の選択肢が増えるということです。

先日、「人・本・旅」で学ぶことが大事ですと話したら質問が出て、「僕は根暗な性格で、人にも会っていないし、本も読んでいないし、旅もしていません。もう40歳を超えて、僕の未来は真っ暗ですか?」と言われるので、「可能性は山ほどあるじゃないですか!今まで『人・本・旅』がなかったということは、これから無限大に伸びしろがあるので、そう思ったら今晩からやった方がいいでしょう。明日になれば1日歳を取るわけで、今のあなたより若いあなたはいないのですから」と答えたら、「頑張ります!」と言ってくださいました。

首藤: そのとおりですよね。60歳でも70歳でも、その人にとっては今が一番若い!いつからでも成長できるんですね。それから、「本には毒を」という言葉、広告マンやコンサルタントとして、様々なお得意先と仕事をし、その中で発言してきた僕には非常に刺さりました。よい意味で、毒のある表現をしていかれればなと思います。(終)

【参考】
出口治明「『働き方』の教科書:『無敵の50代』になるための仕事と人生の基本」(新潮社、2014年)
出口治明「本の『使い方』:1万冊を血肉にした方法」(KADOKAWA/角川書店、2014年)

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ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長 出口 治明氏

1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。

■主な著書
「生命保険入門 新版」(岩波書店)
「生命保険とのつき合い方」(岩波新書)
「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)
「働く君に伝えたい『お金』の教養」(ポプラ社)
「『働き方』の教科書」(新潮社)
「日本の未来を考えよう」(クロスメディア・パブリッシング)
「『全世界史』講義Ⅰ・Ⅱ」(新潮社)
他多数


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