<第1回>企業経営における「タレントマネジメント」の重要性 ― キャリアの中で気付いた、人を育てるために必要な視点

  • 組織改革・人材育成

企業経営をテーマに、様々なスペシャリストにインタビューをするシリーズです。第1弾は、「人」の能力を引き出し、組織力を向上させる「タレントマネジメント」を支援する株式会社TM Futureの代表取締役、竹内美奈子さんです。(以下敬称略)

 

第1回 キャリアの中で気付いた、人を育てるために必要な視点

(1)  技術者の育成からキャリアをスタート

竹内: もともと文系だったのですが、新卒でコンピューターメーカーに入社し、人財育成部門で技術者の育成の仕事に10年携わった後、SE、SEというよりプロジェクトマネージャーという仕事だったのですが、実際に自分が技術者になりました。

楠本: 教育の立場からご自身が技術者になられたのですね。そういうキャリアパスってあるんですね。

竹内: あまりないパターンですね。もう少しちゃんと手に職をつけようと思い、SE職に転向したんです。そこでのプロジェクトマネージャーもちょうど10年でした。技術者としては、殆どが生え抜きの人たちの中で自分が上に立っていくということに違和感もあり、もう一度人に関わる仕事に戻ろうと思ったのが、最初の転職のきっかけでした。ご縁があってエグゼクティブサーチという業界に入ったのですが、そこでは人の育成というより、中途の人財採用、中でも管理職やハイパフォーマーの方々の採用の仕事に、また10年携わりました。

楠本: 10年ひと区切りですね。

竹内: そうなんです、偶然なのですが。エグゼクティブサーチの仕事をしてみて、だんだん採用のみでは人財の問題はなかなか解決できないなということを感じるようになったんです。 経営者の方々からご相談を受けることも多く、お話をよく聞いてみると、採用だけできっと解決しないなと思うことがたくさんありました。そうこうしているうちに、人財育成が仕事として入ってくるようになりました。

楠本: 採用のサポートではなく、採用した後の人財育成のサポートですね?

竹内: はい、それも含め、どのように人を選抜するのかとか、リーダー育成にポテンシャルのある人財をどのような視点で選ぶのかとか、そういうお手伝いもするようになって。そうすると、当然、選んだ人たちがどのように育っていくのか、見ていかないといけないわけですね。そういうことが見たくなったと言いますか、定点観測のようなことをしていきたくなったんです。そうすると、採用だけではなく、育成とか評価とか組織とか・・それぞれの組織によって課題が少しずつ違うということにも興味を持ち、それまでのエグゼクティブサーチという採用に特化した支援から、もう少し幅を広げたいという気持ちが強くなりました。

楠本: 何か本質を探究されようとしてこられた感じがありますね。実際に技術者の教育、そして、技術者って何だろうと転身されて、人財育成に戻られて。

竹内: 技術者と言っても、私自身はプロジェクトマネージャーという仕事でしたので、それはそれでとても面白い仕事でした。実際に技術を担ってくれるのはメンバーで、私の仕事はチームビルディングに近いのですが、チームを取りまとめること。システムの開発には、いろいろな役割を担う技術者が集まりチームを作るので、それを取りまとめる面白さがありました。おそらく人財育成の場でもあったんですね。

楠本: そういったご自身のご経験も糧にしながら、今のお仕事に至ったのですね。

竹内: それが大きいです。

 

(2)  人を育てるために必要なこと①: スキルの可視化

楠本: 竹内さんは「タレントマネジメント」を通じて人や組織の成長を支援されていますが、今まで実施されてきた中で印象的なプロジェクトにはどんなものがありましたか?

竹内: 昨年参画した、産学連携プロジェクトです。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、AMED)の補助を受けて大阪大学医学部の臨床外科医でもある中島清一教授と医療機器メーカーが産学(医工)連携で優れた医療機器を開発しようという取り組みです。

楠本: プロジェクトの内容を具体的に教えていただけますか?

竹内: 元々中島先生は研究領域として医療機器開発に取り組んでおられたのですが、日本の医療機器産業はまだまだ競争力がない、優れた医療機器を開発し、爆発的に売れるというような成功モデルがまだほとんどないというのが現状です。それには様々な背景があるのですが、その一つが、医療機器メーカーの開発者は、自分たちが作ったものが使われている現場を見るという機会が極めて少ない、そういう非常に特殊な環境にあるんですね。 そうすると(医師の言いなりでなく)本当の現場のニーズや、マーケットのニーズを探り、事業性を評価して開発・生産するというものづくりの基本的なプロセスが欠落してしまうというハンディがあったんです。 そこを、中島先生が(AMEDの補助を取り付け)、臨床現場、即ち手術室を開放して、真のニーズを作り手の人にも探ってもらい協力しながらものを作っていくという環境を提供されたわけです。

楠本: 大きなプロジェクトですね。そこに人財育成はどのように関係したのでしょう?

竹内: これまでの制約された環境でものづくりをしてきた作り手や、新規参入のメーカーには、そのニーズを的確に探る、また医師と対等に仕様について議論することのみならず、手術の現場を理解するための解剖学の用語から術式の知識、薬事法や規制産業としての医療機器業界の知識、知財の取り扱い等、どうも様々なスキルを持つ必要があることが漠然とわかっていました。 そこで、プロジェクトの中できちんと体系的に「人財育成」を考えないと、せっかくの医工連携での開発環境を活かし、ひいては優れた医療機器を開発するということにはならないということになり。

楠本: 竹内さんはその中でどのような役割を?

竹内: そのような医療とエンジニアリングを専門とする人が協働するような産学(医工)連携において、優れた医療機器を開発するためには、どんな役割やその役割を果たすためにどんなスキルが必要かということを調査・体系的に整理して、人財育成の基盤システムを作ることです。半年間の調査・検討で、様々なハードスキルやソフトスキルが必要なことがわかり、それらのスキルを「可視化」することに着手、まとめるという役割を担いました。

楠本: 今、国が重点的に成長を促進しようとしている産業がありますよね。医療・農業・福祉等々。やはり産業を育てるためには、人を育てることがまず必要というのは共通のテーマになるのでしょうか?

竹内: それは間違いないです。

楠本: 産業を支える人を育てていくために必要なことを考えた時、共通しそうなキーワードは何でしょう?一つはスキルの顕在化かもしれませんね。

竹内: それは一つあると思います。個々のプロジェクトは多様な機能(役割)があるので、いろいろな役割を担う人財が必要です。役割が必要ということは、それを果たすための人が必要であり、人にはスキルが必要なのですね。そのスキルをいったん顕在化することが重要。そしてそれはスーパーマンを呼んでくることではなく、チームビルディングなんです。

楠本: スキルを顕在化して分かりやすくし、そのスキルを身に付けていただく。それが第1ステップ。

竹内: 人財育成の目標が明確になるということですね。何となく人を育てるとか、何とか現場で間に合わせるのではなくて、指標を持つということですね。育成に指標を持つための「スキルの可視化」です。

3658

(3)  人を育てるために必要なこと②: チームビルディング

楠本: そして二つ目がチームビルディング。そうお感じの理由を詳しくお聞かせください。

竹内: 1人の人がいろいろなスキルを身に付けられるわけではなく、皆さんそれぞれ得意領域や持ち味があり、さらに、プロジェクトも時間軸によってステージが変わり、必要な役割やスキルもどんどん変わっていきます。そうすると、そのプロジェクトやフェーズに応じたチームが必要になります。その工程に必要な役割やスキルをリーダーたる人が理解し、そのスキルを持った人を連れてきて、チームビルディングをし、チームを動かすことが必要なわけです。

楠本: お話をうかがうと、医療だけではなく、すべての産業の人財育成に必要なスキルに聞こえますね。なるほど、チームビルディングですね。チームビルディング力・スキルって、あまり学んだことがないですね。

竹内: そうかもしれませんね。リーダーシップやプロジェクトマネジメントに近いと思うのですが、チームビルディングだけに特化したというものはあまりないかもしれません。

楠本: どうやってそのスキルを高めていけばいいのでしょうか。

竹内: 人に対する洞察力ですね。その人が持っている強みや持ち味、得意分野、タレントとも言えると思いますが、そういったものに対する想像力や観察力、洞察力が必要です。さらにそれを見極め調達してこなければなりません。 自身のネットワークを駆使して調達をしてこなければならない。別の組織から人財を引っ張ってくるのであれば、相手にとって何がwin-winであるかを理解していただくことも重要です。 あとは集めた人財を動かす力、モチベートする力です。

楠本: スキルの可視化、チームビルディング力。どの産業の人財育成にも共通して必要なことは他にありますか?

 

(4)  人を育てるために必要なこと③: 多様なタレントを持つ人を動かす力

竹内: あとは実際に進める時に、多様なタレントを持つ人財に能力を発揮してもらうための力でしょうか。

楠本: これが一番難しそうですね。

竹内: いろいろあると思うのですが、例えばそのプロジェクトのビジョンを明確に伝えられる力やコミュニケーション力。特に能力のある人財は、ビジョンや目標を明確にしてあげて、そこからどうやって導くかというプロセスは任せてあげた方が能力を発揮しやすいと思います。ただ、ビジョンやゴールを明確に伝えなければいけないので、それらを共有したり、共感させられる力が必要になります。ですので、ファシリテーション的なスキルも駆使して、個々の能力をその場その場に応じて引き出していく力、それが多様な人財の能力を発揮させる力だと思います。

楠本: 個人で発揮できるスキルと言うよりも、関係性の中でこそ発揮されなければいけないスキルって本当に学んでいないですね。

竹内: リーダーの皆さんは自ずと、自然と身に付けていらっしゃるんですが、それこそ可視化されていない。何と何と何を積み上げればそうなるのかということは、意外と明確になっていないかもしれないですね。

楠本: そういったことをサポートされているのが、まさに竹内さんの今のお仕事の一つなのですね。

 

第2回に続く

 

pro
株式会社TM Future 代表取締役 竹内 美奈子 氏

立命館大学法学部卒。
NECの人材開発部門にて10年間人財育成に従事、その後SE職に職種転換、プロジェクトマネージャー兼ラインマネージャーとして、システム構築の統括や組織マネジメント、新規サービスの立上げを行う。2003年よりグローバルヘッドハンティング会社 スタントンチェイスインターナショナル(株)にジョインし、2007年より同社代表取締役副社長。2013年同社を退職し、「人」の能力を引き出し、組織力を向上させる「タレントマネジメント」を支援する(株)TM Futureを立上げる。企業、大学、パブリック、非営利法人を問わず、人と組織の問題、リーダー育成、人の能力を引き出し、成長を支援する、コンサルティング、プロジェクト支援、メンタリング活動などを行う。
2015年9月より、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)理事に就任。


関連ソリューション

社内人材のスキル・リテラシーの向上

スキルアップやリテラシー向上により、社内人材の能力を底上げしたい。社内研修を整備したい。

社員動機付け・モチベーションアップによるパフォーマンス向上

担当業務や役割に対し、社員の動機付けを行いたい。企業ブランドやスローガンの意味および意図をきちんと理解させ、同じ方向を向かせたい。

現在の人員体制でマーケティングマネジメントを実施する組織・業務・プロセスづくり

人員数が不足している/人材がいない状態でも十分に機能するマーケティング組織や業務、プロセスを整備したい。

WITHコロナ時代の新しい企業と従業員の関係構築のありかた ~業界別・年代別に見る従業員の意識変化とは~

WITHコロナ時代の新しい企業と従業員の関係構築のありかた ~業界別・年代別に見る従業員の意識変化とは~

顧客視点(CX)と従業員視点(EX)の複眼で策定する企業の危機突破シナリオ

顧客視点(CX)と従業員視点(EX)の複眼で策定する企業の危機突破シナリオ

World's Best Bankの成功例に見るDX実現~顧客体験価値を向上させるUI/UX〜

World's Best Bankの成功例に見るDX実現~顧客体験価値を向上させるUI/UX〜

顧客データ利活用実態レポート ~顧客データの自社活用から情報銀行・PDS事業化への各社方針~

顧客データ利活用実態レポート ~顧客データの自社活用から情報銀行・PDS事業化への各社方針~

社会貢献と事業成長は両立できるのか? ~社会課題の解決を通して新市場を開拓する3つのステップ~

社会貢献と事業成長は両立できるのか? ~社会課題の解決を通して新市場を開拓する3つのステップ~

お問い合わせ