<第3回>企業経営における「タレントマネジメント」の重要性 ― 人財育成のビジョンとチームビルディング

  • 組織改革・人材育成

「人」の能力を引き出し、組織力を向上させる「タレントマネジメント」を支援する株式会社TM Futureの代表取締役、竹内美奈子さんのインタビュー連載第3回です。(以下敬称略)

 

第3回 人財育成のビジョンとチームビルディング

(1)  実は漠然としている企業の人財育成ニーズ

楠本: 様々な企業の研修や人財育成をされてきた中で、企業が求めているスキル、高めさせようとしているスキルにはどのようなものがありますか?

竹内: 実は人財育成を相談される企業側も、あまりそれを明確に言えない、あるいは漠然としてしまっていることが多いです。
「人財が育っていないんだよ、どうしよう…」というケースも結構ありますね。ですので、「インタビュー」は、もちろん対象者の方にも実施するのですが、加えて経営者の方や、プロジェクトに関わるステークホルダーの方々にも行うんです。そうすると、間違いなく人財育成のニーズ、つまり、人財が育っていないという課題意識はあるのですが、じゃあ何をどう育てたいかという答えが返ってこない。もしくは、すごく漠然としていたりします。例えば、「貴社の幹部候補生ってどういう人財像ですか?」と伺っても、なかなか具体的に答えられる方はいません。ですので、最初のうちは社長をメンタリングすることも多いですね。

楠本: 経営者の方がそこを明確に理解されていないまま、人財育成ができるかというと、できるわけがないですよね。

竹内: なかなかそうは申し上げにくいのですが、「ちょっと抽象的ですね」と申し上げることは多いです。

楠本: 経営者レベルの方でも、スキルを高めるために、取りあえず本を読んだり、セミナーを受けたりすることでもちろん得るものもあると思うのですが、その前に自分は何のスキルを高めなければいけないのかって省みる癖が必要ですね。

 

(2)  人財育成のビジョンが描けている人が少ない理由

竹内: 自分の企業の戦略やビジョンと、人財戦略・タレントマネジメントとを紐づけて、グランドデザインをきちんと描けているという方は意外と少ないです。

楠本: なぜ描けているケースが少ないのでしょう?スキルを顕在化して、意識してスキルを高めようとしても、やり方がわからないだけなのか、それとも、そうしようと思ってもできない、もしくはやりたくないといった阻害要因があるのでしょうか?

竹内: 「可視化」と言うと皆さん勘違いをされて、「人ってそんな型に収まるものじゃないよ」などとおっしゃることが多いんです。それは正しいんです。人間ってでこぼこがありますし、別にみんながスーパーマンである必要もない。スティーブ・ジョブズだって特定のスキルは非常に優れていたけれど、そうではないスキルもたくさんあったと思います。可視化をしようと言った時に、人をそんなに公式に当てはめることはしちゃいけないと思っている。それはとても正しいのですが、だからといって思い付きで人を育てるということもやはり良くないわけですよね。人ってでこぼこで、人って分からない、人によって持っているスキルも違う。その育成をしようとした時に、ある一定の指標を作ることに対して、そういう風に型にはめてしまいたくないという抵抗があるのかもしれません。
でも決してそうではなくて、スキルを可視化したとしても、それを全部身に付けなさいということではないんです。例えばスティーブ・ジョブズはリーダーシップに優れている。その中でもおそらくビジョンを構築するとか、先見性があるという点に優れていて、他のスキルはもしかしたらそれほどでもないかもしれません。それでもいいじゃないかと。例えば、コミュニケーションが下手だったら、チームの中で他の人が補えばいいという理解をしていただければいいのですが、なかなかそこまでの理解を得るのが大変です。

楠本: 確かに、何かがへこんでいるのはダメなんだというのが前提にあるのでしょうね。こういうところもあるからいいし、人ってこういうものでしょう、という共通理解があると、じゃあいい部分を組み合わせようという話に自然となっていくけれど、ここがダメなんだってなってしまうと、それを組み合わせようという、集団との関わりに意識が向いていかないですよね。集団との関わり方が根底にあるんでしょうね。

竹内: あるんだと思います。特に、例えば「評価」という言葉を使うと、日本人って評価されたくない、評価っていうのは減点されることだと思っているケースが多いんですね。一方欧米人は、「評価」っていうと喜ぶ。前提として、自分は評価されているものだと思っている。そのぐらい違うんです。
ですので、可視化すると、それを使って自分の通信簿をつけられて減点されるんじゃないかと思うのが日本人なんですが、一方、欧米人は自分がどれだけ評価されているかということに非常に興味を持ちますし、そこに対してアピールする人たちなのです。

楠本: しかるべき人財育成をしようとすると、まずそういうメンタルモデルを脱することが必要で、それで可視化されたところで、企業がやろうとしていることと、自分の今の立ち位置のラインを見極めながら、必要なものを高めていくとことが大事なのですね。簡単そうに聞こえて難しいんでしょうね。でも、今のお話を聞いて、そういうことをやらないと、本当の意味での効果的な人財育成ってできないような気がしました。

竹内: 私がやる時は、例えば指標を作って、自分が得意なところ、自分のいいところ、あるいは、もっと伸ばしたいと思うところをピックアップしてくださいという言い方をします。そのいいところを持った人を集めればチームが作れますので。その「あと」で、自分があまりにもへこんでいるところは、やっぱり最低限伸ばしていきましょうという話ももちろんしますけれど。
私は「持ち味」という言葉を使うのですが、その人の持ち味をいかに引き出して、開発していくかとか、その持ち味に見合った役割を果たしてもらえるか、そこを伸ばしてあげられるかを重視します。それでチームビルディングができたらいいですよね。
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(3)  人の「持ち味」の見極め方

楠本: 人には確かに「持ち味」ってあると思うんです。そこでお伺いしたいのですが、例えば、「楠本君の持ち味って何?」って聞かれて、「いや、僕は……多分……楽天的でまじめで……」などと言うのですが、でもそれって本当の持ち味なのかなぁって思うんです。それはまあ自分が思い込んでいるだけかもしれないし、適当に言っているだけかもしれない。やっぱり本当の持ち味って客観視してあげることが必要だと思うのですが、そういうことを見極めるポイントってあったりするのでしょうか?

竹内: 私がやる時は、やはりインタビューをするのですが、その時にキャッチボールをする中でご自身で気付いていただくようにします。例えばその方の思考特性とか行動特性というのは、生まれ育った環境や親から受けた教育などにも関係していて、ずっとキャッチボールをしていると分かってきます。「それってこういうことじゃないですか?」といったやりとりを繰り返していくと、大体本人からキーワードが出てきます。そのためのインタビューをやろうとすると2時間半ぐらいかかります。普段お会いしている人や、事前に情報をある程度集めてみたとしても、そこに至るにはそれぐらいかかってしまいますね。あとはプロジェクトで定点観測をしている中で、アッと思った時に、すぐメンタリングをしてあげることも大切です。

楠本: なるほど、気付いた時に捕まえるということですね。

竹内: プロジェクトをやる理由とは、そういうところにもあるんです。
定点観測していると、その人の行動特性などがだんだんおもてに現れてきます。そういった点を観察していると、持ち味に行き着くことはあり、私が気付くことで、言われてみればそうだなとご本人にも気付いていただくことが多いです。

 

(4)  持ち味による効果的なチームビルディング

楠本: 組み合わせ方が重要そうですよね。イノベーションって新結合だっていうシュンペーターの定義も、異質なもの同士の新しい組み合わせを説いてるわけですが、本当のイノベーションとは、モノの結合の前に、それを運用する人同士の掛け合わせだったりすると思うんですね。それが先ほどおっしゃっていた持ち味が違う人同士の掛け算。似ている人を集めることってできると思うんですが、それって新結合じゃないじゃないですか。分かりやすく、こういうパーソナリティで、こういうスキルを持った人たちを集めることは難しくない。でも、そういうことじゃないですよね、本当のチームビルディングって。どういう視点で組み合わせていくものなのですか。それぞれの持っているスキルが顕在化したということが前提として、これとこれを組み合わせるとちょっとケミストリーが起きそうだとか、こういうテーマだったらこの人とこの人を組み合わせるといいとか。それは経営そのもののテーマに近いのかもしれませんが、すごく難しいことだなと思っています。
向かう方向性として、その人のスキルや視点のようなものが顕在化できたとすると、そういうものを情報とした時のベストな組み合わせができると言えたらすごいなと思っているのですが、異質なものを組み合わせる視点ってあったりするのでしょうか?

竹内: すごく単純に言うと、スキルを可視化してみた時に、とがっているところが違っている人を集めたりします。
プロジェクトをやる時は、一部の組織に関わるテーマなどはやらずに、全社的なテーマや、マルチファンクショナルなテーマでやるということも大切です。例えば、先ほどお話した医療機器のプロジェクトでもそうなんですが、デザイナーの方に入ってもらうんです。それは発想の問題かもしれないのですが、医療機器を作るということにおいて、デザイナーというある意味全く「異質」な方に加わっていただくことで、我々が想像出来ないような発想を取り入れる、そういう人を入れたチームビルディングをしたら面白いのではないかという議論を先生ともしています。

楠本: そういうことを繰り返していく中で、いい組み合わせを見つけていくしかないということですね。

竹内: はい。異質なものを入れるということが大事だと思います。まだまだそこに抵抗を感じられる大企業の方は多いのですが。

 

第4回に続く



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株式会社TM Future 代表取締役 竹内 美奈子 氏

立命館大学法学部卒。
NECの人材開発部門にて10年間人財育成に従事、その後SE職に職種転換、プロジェクトマネージャー兼ラインマネージャーとして、システム構築の統括や組織マネジメント、新規サービスの立上げを行う。2003年よりグローバルヘッドハンティング会社 スタントンチェイスインターナショナル(株)にジョインし、2007年より同社代表取締役副社長。2013年同社を退職し、「人」の能力を引き出し、組織力を向上させる「タレントマネジメント」を支援する(株)TM Futureを立上げる。企業、大学、パブリック、非営利法人を問わず、人と組織の問題、リーダー育成、人の能力を引き出し、成長を支援する、コンサルティング、プロジェクト支援、メンタリング活動などを行う。
2015年9月より、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)理事に就任。


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