<第4回>企業経営における「タレントマネジメント」の重要性 ― 次世代リーダーの育成について

  • 組織改革・人材育成

「人」の能力を引き出し、組織力を向上させる「タレントマネジメント」を支援する株式会社TM Futureの代表取締役、竹内美奈子さんのインタビュー連載最終回です。(以下敬称略)

第4回 次世代リーダーの育成について

(1)  次世代リーダーに必要なスキル

楠本: 次世代リーダーの育成について、どういったスキルが求められているかということについては、最初にお話しいただき、また先ほど経営者も実はよく分かっていないというお話もありましたが、経営者や現場の方々とお話しされる中で見えてきた、特にこれから必要になると感じていらっしゃるスキルはありますか?

竹内: 組織は本当に多様で異質な人財の組み合わせなので、そのような多様な人に対する洞察力がまず大切だと思います。多様な人財を集めて組み合わせて、チームビルディングができて、プロジェクトをリードできる。繰り返しになりますが、そういう多様で多才な人たちの能力を発揮してもらうには、ビジョンを明確に伝えて、彼らを主体的に動かすこと。おそらくそういうところでしか、非連続なイノベーションは生まれない感じはします。

楠本: これからを担うであろう人たちに足りていないものはそこでしょうか?

竹内: リーダーシップって言うと、自分自身がものすごく強い行動力を持っていないといけないとか、ものすごく強力なトップダウンでないといけないと思っていらっしゃる方がいると思うのですが、よほどの非常時を除き、それはちょっと違う気がします。先ほども申し上げたように、どちらかというとファシリテートする力だったり、むしろ自分より優秀で多様な人を自主的内発的に動かせる力がリーダーになる方には必要で、そういうことが得意な人をリーダーにしていくことが大切だと思います。

楠本: 確かにリーダーシップのあり方が本当に変わったんでしょうね。それに合わせて求められるスキルも当然変わってくるわけで、意識を変えていかないと、自分の知っていることだけをやってしまいがちになりますね。

 

(2)  人財育成に大きく影響する組織風土

竹内: リーダーの器がそのまま組織の器になります。様々な企業でプロジェクトを実施させていただくと、それぞれの組織風土を感じることができるのですが、人の育成って組織風土とすごく紐づいていると思うことが多いんです。
例えば、今二つの会社で組織風土を比較して見ているのですが、一つの会社は、研修プロジェクトを皆さん面白がってやるんですね。で、もう一方の会社は、研修が楽しそうじゃなかったんです。これはとても気になり、観察していますと、研修が楽しそうではない会社は、たかが研修目的のプロジェクトとはいえ、その中で恥をかくということに対してものすごく抵抗感があるんですね。「社内プロジェクトなのだから、この中では恥をかいてもいいじゃないですか」って言うのですが、そこに対して抵抗感があったり、失敗することをものすごく怖がるんです。で、もう一方の会社のプロジェクトは全く逆で、失敗しては立ち上がり、こけては突き進むんです。
その違いってなんだろうと思うのですが、人財育成の現場だけではなかなか分からないこともあるんです。それは、私がプロジェクト型にこだわっている理由の一つでもあるのですが、例えば、毎月2回プロジェクトを実施している会社を訪問すると、社長や役員の方と話したり、受付の方と話したり、総務の方と教室を片付けながら話したりといろいろな方々と接することができます。あるいは、例えば「今日の研修はちょっとした発表をやるので出入り自由です」と言って、取締役の方にもご参加いただき、コメントをいただくんですね。そうすると、取締役の方が来たらみんな固くなって質問が出なくなってしまった、などということが分かってくるんですね。
一方、先ほど申し上げたプロジェクトを面白がってやっている会社を観察していると、全然違うんです。それは研修やプロジェクトだけを見ていると分からないことなのですが。例えば、社内での情報共有はどのようにされているか伺うと、ナレッジマネジメントがきちんとされていて、例えば社員の皆さんの様々な失敗事例が共有されていたりします。一方は失敗を共有する文化がある、もう一方の会社は全くそういう文化がなく、そもそもよその部署のことにほとんど関心を持たなかったりする。実はそれぐらい組織文化って違っているということが、毎月プロジェクトでお邪魔していると徐々に分かってくるんですね。失敗を許す文化を創らない限り、彼らは失敗をして成長するということがなかなかできないわけです。
そこで、今度は、社長や取締役の方々と面談をさせていただいて、状況やこちらの見解をご説明し、ご意見を伺うと、思い当たる節がいっぱい出てきます。それはなかなか大変な作業なのですが、そこから変えていかなければいけないケースは結構多いです。

楠本: 組織風土は確かに影響しますよね。先ほどの、まず必要なスキルがよく分かっていないというお話もまさに同じかと思うのですが、人財育成の手前の話ですよね。

竹内: 社長も役員の方も、スタッフの皆さんを育成したい、成長してほしいと思っていらっしゃるのですが、実を言うとその足を引っ張っているのは彼らだったりすることもあるわけです。彼らの中では全く関係のないこととされているのですが、普段上司に物が言えないとか、会議で自分の意見が言えないとか、あるいはよその部署に口を出すと叩かれるというような組織だと、たとえ育成のプロジェクトをやっていても、なかなか本音を言わないし、腹を割って話さない。失敗して成長することに対する抵抗がすごく強くなるわけです。
プロジェクトの場ではこういうフレームワークを覚えるのはある意味で筋トレだから、一生懸命トレーニングをしましょうと、しかし、筋トレ(プロジェクト)の前によく柔軟体操をして、(失敗したっていいじゃないかと思えるまで)身体をほぐしてあげないといけないということがあるわけです。

楠本: 余談なのですが、先日ある大手の企業様でビジョンが明らかに浸透していないということでブランディング研修を実施することになり、まず上のクラスの方を集めた研修をどうするかという話になりました。それぞれご自身がパフォーマンスできていないと思うところや、会社の風土として課題があるところを、皆さんで話す場にしませんかと提案したところ、その会社の研修担当の方が、上の役職の人達はそういったことは全てできているはず、課題は解決しているはずだとおっしゃるんです。そういうことはあってはいけない、認めてはいけない、課題があるのはわかっているけれど認めたら終わり、というようなことをおっしゃるので驚いてしまいました。そう言われてしまうと、我々としても何もできませんとしか申し上げられず。研修を実施してもあまり効果が期待できないと。「できていない」ということを言えない文化が、そういった風土を作り上げてしまったんですね。

竹内: その後、その研修はどうされたんですか?

楠本: テーマを変えて違う提案をしているところです。しかし、風土は重要ですね。

竹内: 重要ですね。とある大手メーカーさんなのですが、やはり似たような感じです。まずは取締役会の改革からとおっしゃっているのですが、その前にやることがいっぱいありますよとお伝えしているんです。でも、彼らのプライドが邪魔をしてしまい、なかなか思うようにはいきませんね。

楠本: やはり会社の風土、社員の意識から変えていかないと研修ってうまく行かない気がしますね。

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(3)  マーケターや次世代リーダーの皆さんへのメッセージ

楠本: 最後に、竹内さんがお仕事をされるうえでのポリシーをお伺いできますか?タレントマネジメントや人財育成など、竹内さんが携わっていらっしゃるようなお仕事をされている方がもしかすると他にもいるかもしれません。そんな中で、竹内さんの持ち味は何だと思われますか?

竹内: 私自身の持ち味は、強いて言うとコミュニケーションを通して人の能力を引き出せるということかなと思っています。人のいいところをいかに引き出して伸ばし、その人の持ち味をどれだけ使って仕事をしていただけるかというところに注目します。悪いところは直しましょうっていう考えもあるのですが、それよりも、一人ひとりの持ち味をいかに引き出せるかとそれに基づいたチームビルディングに、一貫してこだわっています。
二つ目は、極論ですが、人はいくつになっても変わることができると信じているので、人が成長するということに対する希望を絶対に捨てないことです。それを信じなければ人財育成なんてできません。(笑)。どんなに頑固な人に「いやあ、それは無理だね」なんて言われても私は信じています。
三つ目は、先ほど組織風土のお話をしましたが、人を個で見るのと同時に、組織全体も見ることです。その両方を見て、人の育成を助ける組織風土づくりにもアプローチをする。例えば、先ほどのお話のように、失敗を許さない組織風土を変えてもらうためには、研修の対象者だけが頑張っても駄目だということは明らかなので、社長さんや他の役員の方ともお話ししながらアプローチを試みます。

楠本: 個人的に、二つ目が特に好きです。そういう思いって表れますし、そんなふうに本当に思ってくださる方と一緒に仕事をしたいと皆さん思われると思います。きっといろいろアドバイスもいただきたいでしょうし。

竹内: よく聞かれます、「変われるんですか?」とか。

楠本: 「変われます!」と断言を?

竹内: はい!そこは明らかですね。

楠本: 最後に、ぜひ次世代のマーケターやリーダーの方々にエールをいただけますか?

竹内: 何をするのも基本的に人ですので、研究をされている方でも、物を扱っていらっしゃる方でも、どんな立場の方も、人に対する洞察力を高めていただければと思います。人に対する洞察力を高めることで、すごく可能性って広げられるはずです。
さらに、異質と思う人、多様な人たちと一緒にやってみると面白いですよ。そこに、イノベーションとまではいかなくても、何か非連続なチャレンジができるチャンスがある気がしています。

>>終


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株式会社TM Future 代表取締役 竹内 美奈子 氏

立命館大学法学部卒。
NECの人材開発部門にて10年間人財育成に従事、その後SE職に職種転換、プロジェクトマネージャー兼ラインマネージャーとして、システム構築の統括や組織マネジメント、新規サービスの立上げを行う。2003年よりグローバルヘッドハンティング会社 スタントンチェイスインターナショナル(株)にジョインし、2007年より同社代表取締役副社長。2013年同社を退職し、「人」の能力を引き出し、組織力を向上させる「タレントマネジメント」を支援する(株)TM Futureを立上げる。企業、大学、パブリック、非営利法人を問わず、人と組織の問題、リーダー育成、人の能力を引き出し、成長を支援する、コンサルティング、プロジェクト支援、メンタリング活動などを行う。
2015年9月より、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)理事に就任。


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