【スペシャル対談】パーパスのない企業に、未来はない。<後編>

  • 組織改革・人材育成

一橋大学大学院客員教授の名和高司氏と当社代表の喜馬克治による「パーパス経営」をテーマとした対談。前編では、名和氏の実施されているパーパスワークショップのプロセスから、社会的価値と利益創出を両立させる「イノベーション」について、そして日本人が大切にする「たくみ」についてと、幅広い話題に及んだ。前編の記事はこちら後編となる本稿では、今後のパーパスと日本の成長戦略について議論する。

日本企業ならではの魅力的なパーパスの作り方とは

喜馬:
地球温暖化がエコロジーを普及させ、リーマンショックがSDGsを推進してきたように、やはり課題は大きなイノベーションを起こすきっかけとなってきました。今まさにコロナやウクライナでの危機に代表されるように、私たちに数々の大きな課題が突きつけられています。人類の叡智を信じるならば、これを乗り越えて大きな一歩を前進できるのではと期待するのですが、名和先生はどのように見られていますか。

 

名和:
おっしゃるように、コロナ危機やウクライナ危機などこの数年の間で予想もされなかったことが次々に起こっている状況は、先回りして何かを仕掛けていくには絶好の時期だと思っています。ブレイクスルーしなければならないことが次から次に出てくる、その中に、ひとつはやはり長寿の問題があります。Well-beingイコール長寿だなんて、そんなことはまったくありません。認知症になった後とか、高齢化した後の孤独の問題とか、山ほど出てきますよね。そしてその最先端は日本ですから、日本発で解決できるチャンスがあるんです。そこでもしっかりと夢を持って「まだまだ自分たちがやらなくてはならないことがあるんだ」という年寄りが増えてくるといいですよね。体は元気でいられる時間が長くなるのに、そのほとんどが60歳や70歳で廃業させられてしまうのは非常にもったいない話で、そのあたりに日本はまだまだ伸びる余地があると思うんです。イーロン・マスクは日本の人口がなくなるというけれど、ひょっとしたら年寄りの人たちがしっかりと世の中を支える状況を作れるのではないかと私は思っています(※4)。

 

 

interview03_01名和 高司(なわ たかし)氏
国立大学法人 一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 客員教授
京都先端科学大学国際学術研究院 教授
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカースカラー授与)。三菱商事の機械(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。 2010年まで、マッキンゼーのディレクターとして、約20年間、コンサルティングに従事。自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、ハイテク・通信分野における日本支社ヘッドを歴任。日本、アジア、アメリカなどを舞台に、多様な業界において、次世代成長戦略、全社構造改革などのプロジェクトに幅広く従事。
2010年6月より、一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授に就任。2022年4月より、京都先端科学大学国際学術研究院教授に就任。

 

喜馬:
なるほど。なにか期待するインダストリーはありますか。

名和:
まずライフサイエンス。それから、私は衣食住をそれぞれやっているものですから、そういうベーシックインダストリーにおいては、ヨーロッパ人やアメリカ人とは違う、貴族的な生活でも超シンプルライフでもない、適度な、中間的な豊かさというのが日本人の資質だと思っていまして。ライフウェアなどはまさにそうなのですが、この「ペラでもなくて、ゴージャスでもない」という中間的な感覚。ここに私は、日本的な価値が世界に広がる余地が十分にあると思っています。そして、あとは素材。これも私はすごく、日本はまだまだいけるなと思っています。ですから、ライフサイエンスと、衣食住まわりのサプライチェーンですね。

喜馬:
それは、もし間違っていたら否定していただければと思うのですが、「足るを知る」みたいな、日本ならではの文化性なのでしょうか。

名和:
そう言ってしまうと、幸福主義になってしまうので成長しないと私は思うんですね。そうではなく、少しずつでも改善するもの、ベターなもの。なので私はよくWell-beingに対してBetter-becomingと言うんです。常にBetterで、beingではなくbecoming、つまり未完成である、ということが非常に大事だと思っていて。そこが日本の良さで、常に何かを工夫する文化。だから逆に言うと満たされていないものを持っている、けれどそんなに大金持ちになりたいというような話ではなく、身のまわりを少しでも良くしたい、そのための切磋琢磨ぶりというのが、日本の非常に良いドライブになっていると思っています。それを日本人が捨てて幸福主義なんかに行ってしまったら負けだなと思いますね。

喜馬:
なるほど。その象徴が、著書「パーパス経営」でも取り上げられたライフウェアであり、また無印良品のようなエクセレントブランドに通ずるところですね。

名和:
そうです。あのテイストはとてもセンスがいいと私は思っています。あれはわかる人にはわかるので、グローバルにもMUJIのセンスって広がっていきますよね。

喜馬:
ああいう概念や価値観がさまざまなインダストリーに広がっていくというのが、ひとつの日本の成長戦略の軸になるのでしょうか。

名和:
ええ、そうですね、そう思います。「質(クオリティ)」という言葉がありますよね。あれを日本語では、また誤訳で「品質」と言ってしまいますよね。品質だとまた「モノ」にしてしまっているのです。別に「Quality of something」でよくて、私はQOXと言っています。そして、そのクオリティに対する日本人のこだわりは半端ではありません。「おもてなし」なんかもそうですが、ちょっとオーバークオリティですけど、オーバークオリティでサービスされても決して気持ち悪くないですよね、外国の人も。なので、このクオリティへのやや意味不明なこだわり、この気質というのは、大事にするべきだなと思いますね。

喜馬:
企業は「言葉」の使い方やその意味の深さを、もう少し真剣に考えなければいけませんね。

名和:
おっしゃる通りなんです。流れてしまうんですよね。言葉をすぐに流行語にしてしまって、本来の意味をよく考えずに使っているというのは、とても浅はかですよね。

「たくみ」から「しくみ」へ

喜馬:
日本が得意としている、テクノロジーの活かし方についてお聞きします。実際にはイノベーションと呼べるものはあまり多く起きていないのではないかと危惧しています。

interview03_02喜馬 克治(きば よしはる)
株式会社博報堂コンサルティング 代表取締役社長
戦略プロフェッショナルファームHCIの代表取締役 CEOであり、且つブランディングのデザイン設計や活動計画を主導するクリエイティブディレクターとしてのダブルキャリアを実践する。経営計画から新事業開発や実行支援までを一貫して遂行する事業パートナーとしての実績はインダストリーを超えて多岐にわたる。
【実績】 「TOYOTA」「PERSOL HD」「SKYMARK」「HERMES」「KDDI<au>」「KIRIN」「じぶん銀行(東京三菱UFJ /KDDI共同事業)」などのブランドビジネスをてがける。
【受賞歴】 「ADC賞」「ACC賞(TV、マーケティングエフェクト)」「文化庁メディア芸術祭」「YAHOOモバイルアワード」「日経賞」「朝日広告賞」「日本新聞広告協会 新聞広告賞」「広告電通賞」など各大賞・最優秀賞など 他多数

 

名和:
そうなんですよね。でも、今は本当に時代がこちらを向いているなと思います。というのは、サイバーとかバーチャルだけだと日本はどうしても遅れてしまっているのですが、サイバーフィジカルシステムによってIoTやセンサー、それからロボットなど、本当にモノが変わる、動かせるということになると、リアルとサイバーが合体しますよね。そうなると、リアルを分かっているということの希少価値が上がります。サイバーの中ではなんでもこねくり回すことができるので、むしろ入口と出口を押さえてる日本はとても強いと思っています。そういう、リアルを変えられるところにいるのだという自覚があれば、ひょっとしたらサイバーはシリコンバレーやイスラエルに譲ってしまって良くて、われわれはこの一番の希少価値であるリアルの部分を押さえて、さらにサイバーとつなぐ部分のコラボをして、そうすると大きな出番がやってくると思うんですよね。ですから、これからがとても楽しみです。

テクノロジーといっても、特にそういうリアルの世界を動かすテクノロジーですね。先ほどの素材もそうですし、ライフサイエンスでもデジタルで新しい製薬をする部分ではなく、本当に人を動かせる、人の限界に対してどう関わりあうか、というようなギリギリのところでは、サイバーできれいごとをやっていられないですよね、そこの接点が非常に大事だと思っていて。そこは日本にとても期待できる部分だと思いますね。

喜馬:
日本企業がパーパスとテクノロジーをうまく融合させながら、結果として社会にイノベーションを起こしていくというのは、まだまだやりようがあるということですね。

名和:
あると思いますね。そこはこの20~30年、少々不発だったんですけど、デジタルの世界とフィジカルの世界がようやくカップリングしてきたので。そうなるとね、また強くなってくると思いますよ。

喜馬:
確かに、そういうリアルの「たくみ」をどうやってデジタルを活用して極限化するか、は非常に興味深い領域です。例えば、遠隔操作でおこなう高度医療や手術など、たくみの技術をいかに仕組みによって極限にまで突き詰められるか、本当に夢が広がる分野です。私たちもパーパス策定から事業実行の支援、新規の事業プランを策定するようなプロジェクトが増えてきている中で、そうした発想でイノベーションを起こしていきたいと思います。

名和:
そうですね。日本人が「たくみ」が好きだとか、オーバークオリティで頑張ってしまう人が多いというのは、本当に世界遺産だと思っていて、そのうちなくなっていくものですよね。最近はすぐ世の中の動きに合わせるだけの人たちが増えてしまって、そうすると浮草になってしまうので、今のうちに、そういうこだわりを持った人たちをどうやってデジタルで再現できるか、というのも非常に大事だと思っています。

一例で言うと、介護業界には相手の気持ちがわかってしまう、目の前のおばあさんが今何で困っているのかわかってしまう人がいるそうです。そして、その人はなぜそういうことを感じ取れるのか、ということを、若い子たちが一生懸命学ぶわけです。これを、その人の五感がどういう形で観察をし、どういう形で思考しているのかデジタルできちんとシミュレートできるようになると、その人の「たくみ」がもっと次の世代に伝播される。そうするとスケールしますよね。その人が一人いても仕方ないんです、でも、その人がいなければこの話はまったく広がらない。

こういう「たくみ」の世界はだんだん廃れてきましたが、まさにものづくりにも言えるし、サービスの世界にもこういう人はたくさんいます。服飾店にもすごい店舗スタッフがいたりしますよね。相手への寄り添い方がとてもうまく、うるさくしないけれどスッと寄ってきて、お客様が本当に心地よい形で買い物できるような接し方をする人がいるとすると、その行動を全部しっかりとコピーできると、広がりますよね。

こういうことを、これからは「たくみ」があるうちにやっておかないといけないんです。サービス産業にしてもモノづくりにしても、日本の質の高さというのは、私は世界の頂点、世界遺産だと本当に思っている。でもそれを遺産にしないためには、これをどうやって世界に広げるかというのが大事で、そこにデジタルを使って再現性を持たせることができれば、面白くなってくるのではと思います。

喜馬:
それが先生の提唱する「たくみからしくみへ」ということですね。そしてその時にデジタルは、さらに価値を増幅させて重視される、ということですね。

名和:
そうです。そうすると、また「たくみ」がさらに先へと進化していくので。まるで自転車操業のように、ひとつ「たくみ」を作ったらすぐ「しくみ」にとられてしまうので、もっと先に行かなければならない、そんなふうに「たくみ」がもっと尖っていけばいいと思いますね。

サービス業のパーパスの考え方 イノベーションは個人のこだわりが出発点

 

喜馬:
パーパスの設計も、ことあるごとに環境とか社会性という大きなテーマばかりを想定しがちです。しかし、そういう「たくみ」の発想のゆたかさやこだわりが世の中に広がるとどうなるか、という発想がより大切だと思います。前編でも議題になった「サービス業のパーパス」にもヒントになる気がします。

名和:
そのとおりだと思います。先ほど、社会にいいことをして儲けることのミッシングリンクはイノベーションだと言いましたよね。イノベーションというのは、社会にいいことをするからイノベーションが起こるのではなくて、自分のこだわりが起こすと思っています。自分の得意技をもって何かブレイクスルーを起こすんだ、という相当な決意や想いがない限りは、イノベーションは起きません。「SDGsの何番目のやつをやろう」なんて、そういう発想ではとてもイノベーションの根性や覚悟は生まれないんです。

そう考えると、日本人はイノベーションに対する想いや情熱、覚悟というのは異常なくらいあって、それは「なぜこの人はこんなことにこだわっているんだろう」と思うくらい、「フェチ」なんですよね。それがやはり日本人の良さで、それをきれいごとで言うからおかしくなってしまうんですよ。だから「志を大切にしましょう、あなたは何がしたいんですか」ということの方がイノベーションに結び付くんです。

喜馬:
要は自分たちの中身の核からひも解いていきましょう、ということですよね。やたら大きなところから始めようとしないで。

名和:
そうなんです。実は私が大変感銘を受けたクライアントがいましてね。私のチームではなかったのですが、そのチームは3カ月かけてクライアントから新規事業のネタを出すように言われたんです。3カ月で1億円のプロジェクトです。それで、プレゼンテーションを見た社長は最後に「これ、NGリスト」と言ったそうです。つまり、コンサルごときが3カ月で考えつくようなことはやるな、というんですね。もっとお前たちの本当に想いをぶつけろ、と。すごいお金の使い方ですよね。でもコンサルは寄り添うべきだと思いますね、その人たちの想いに。「こうしなさい」とか「こうあるべきだ」じゃなくて。「あなたは何がしたいんだ」っていうことを広げてスケールさせていくのがコンサルとしてとても大事なことだと思います。

喜馬:
はい。私たちは、それに見合う唯一のコンサルとして頑張っていきたいと思っています。私たちも「上質なブランドを創り、上質な社会作りに貢献する」をパーパスに掲げています。いわば、素晴らしいパーパスをもつ企業の後押しとなることで、そのパーパスが社会を良くしていく循環をつくる。これからの仕事にワクワクしています。

名和:
そうですね、博報堂コンサルティングと聞くと、「感性に寄り添ってくれそうな感じ」がしますよね。なのでぜひ、そこと、経営がわかるコンサル、クリエイティビティとロジカルシンキングが本当に合体する形のコンサルを目指していただけるといいなと思います。

喜馬:
はい。私たちは、それを体現するための仕事として「ブランディング」をコアとしています。けれど、この20年で、ブランディングに関する再現性の高いナレッジは拡散し、ある意味見よう見まねでも作れるような状態に若干なっていました。いいブランドも、悪いブランドも世の中に出回りすぎて、多産多死という非常に悲しい状態になりました。しかし、私たちファームができることは、社会にきちんと上質なブランドを創ること、です。そのために、企業経営の感性に寄り添い、その志=パーパスを策定支援できるようなコンサルティングを軸としています。

名和:
ぜひがんばってください。

名和高司氏のパーパス

喜馬:
最後に、名和先生のパーパスを伺いたいと思います。

名和:
私のパーパスは、私の遺伝子を広げることです。私の思っていること、言っていることに共感を持っていただける人をどれだけ広げられるかが、私の利己的な遺伝子がいろいろなところに広がっていること。そういう意味では、こういう形で人に想いを伝える機会というのをとても大事にしていまして、それが自分が今後できる最大のことだと思っています。インフルエンサーになれるといいなということですね。

喜馬:
本日は貴重なお時間をありがとうございました。

 


(※4)イーロン・マスクの「日本消滅」説:
2022年5月7日、米テスラCEOのイーロン・マスク氏が「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう」とツイッターに投稿し、大きな話題となった。

 


 

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