本連載コラムは、ビジネス情報サイト「日経BizGate」に、2015年6月から11月にかけてHAKUHODO DESIGNおよび博報堂コンサルティングが寄稿したものです。
連載第1回は、HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長の永井一史氏による記事です。


デザインと聞いてなにを思い浮かべますか? 色や柄のことでしょうか。何かのカタチでしょうか。デザインが大切だということはわかるけれど、それは商品開発やコミュニケーションの担当者の領域で、自分とは関係のないことだと思われているのではないでしょうか。

 

■たどりついた結論

僕自身はアートディレクターとして仕事をする中で、デザインのことを常に考えてきました。特に2003年にデザインによるブランディングの専門会社HAKUHODO DESIGNを立ち上げてからは、デザインの力でどう課題解決できるのかという”手法”としてのデザインの可能性について日々考え続けてきました。

ロゴマークの開発でもブランディングの業務においても、デザインに関わる決定は実はその企業の経営方針や事業戦略と深く関わることが多く、経営に携わる方と直接お会いして、課題意識や事業の展望を伺って進めていくのですが、これまで数多くの経営者とお会いし、ともにデザインによる課題解決を模索してきた中で、私がたどりついた結論があります。

それは、「構想して形にする」というデザイン的な思考法が、これからの企業経営において重要な役割を担えるということです。

冒頭で述べたように、デザインという言葉は一般的に狭い意味で捉えられがちです。プロダクトデザインや、グラフィックデザイン、ファッションデザインのような、目に見える形がまず思い浮かぶと思います。

しかしどんな形にも、必ずその手前に「どのような形であるべきか」という構想が存在します。デザインとは本来、この「構想して形にする」行為全体のことを言います。

それは、まさに企業経営そのものと言えます。

企業経営とは、未来に向けてこうありたいという姿、すなわち「ビジョン」を構想し、そのビジョンを「形」(アクション)として具現化して動かし続けていくことに他ならないからです。

 

■経営者のそばにデザイナーがいる理由

アップルやユニクロ、無印良品など、一流のデザイナーが企業の経営者のパートナーとして招かれ、過去には無かったような斬新なプロジェクトや事業を生み出してニュースになることが増えています。
彼らは経営者のそばで何をしているのでしょうか。

決して、新商品のカラーを何色にするのか、次のキャンペーンの表現はどうするのかという相談に乗るだけのために重要なポストを与えられているわけではありません(そんな相談ならば今まで通りの関係性でも十分ですよね)。

彼らは、経営者が「構想して形にする」ことをサポートするパートナーとして招かれているのです。

デザイナーはイノベーティブなビジョン作りやアクション作りが得意です。

クリエイティブな発想力が活かせるという強みもありますが、デザイナーには職業柄、構想して形にするという往復運動が本能的に備わっており、さらに、実際に事業や製品が世の中に出たときの場面を具体的にイメージしながら(それを人にも伝えながら)、構想から大きくジャンプした解を導き出すことができます。

また、デザインとは余計な要素を削ぎ落とす行為でもあり、構想をむやみに広げすぎることなく、本質はどこにあるかを冷静に見抜く力も備えています。

その力は、デザイナー個人の才能によるものでしょうか。先天的な特別な力によってしかできないことなのでしょうか。それは違うと思っています。
デザイナーが得意とするこれらの能力は、つまり、デザインという方法論やものの捉え方、考え方そのものが持つ力です。

名立たるデザイナーに経営をサポートしてもらうことは当然心強いですが、彼らが担う役割を「構想して形にするという思考法・方法論」として各経営者が取り入れていくことによって、経営のあり方は大きく変わっていくはずだと思っています。

 

■デザインの力を経営に活用する

経営者には、未来志向のビジョンを構想する力、そして、そのビジョンを事業、商品、サービスなどの具体的な形(アクション)として実現していく力が求められます。

まず重要なのはビジョンの構想力です。

MacやiPodも、無印良品の製品も、形として優れているものは、必ずその背後にあるビジョンが優れています。自社の製品によってお客様にどんな体験をしてほしいか、どんな新しい暮らしを提供していくのか。自社の利益だけにとらわれず、誰にでも分かりやすく魅力的な、世の中と未来を向いたビジョンは、生活者から共感され、受け入れられていきます。社員にとっての大きなモチベーションにもなります。

小さくまとまったビジョンからは、生活者をワクワクさせるようなアクションは生まれてきません。独自性に溢れ、ダイナミックで大きな提案性を持ったビジョンを策定することが重要です。

そういったビジョンを企業が持つことで、今後自社が目指すべき姿が規定され、社員ひとりひとりのモチベーションも上がり、結果として競合との直接対決を回避し、独自の領域で持続的に成長していくことが可能になります。

そうした大きなビジョンを構想するフレームワークをご紹介します。”バリュー・トリニティ”(三価値一体)という方法です。デザインに内在する考え方を、フレームワークに落とし込んだものです。

バリュー・トリニティ、三価値一体、「経済性」「文化性」「社会性」
図1 バリュー・トリニティ
出典:「経営はデザインそのものである」(ダイヤモンド社、2014年)

 

生活者は3つの視点から企業を評価しています。「経済性」「文化性」「社会性」というそれぞれの視点です。これらの各視点において企業が提供できる価値の最適解をビジョンとして規定する、という方法です。

企業経営におけるビジョンですから、いかにお客様のニーズにこたえながら自社の利益につなげていくかという「経済性」の視点が欠落していては成立しません。しかし今の時代、企業活動に対する生活者の目は厳しさを増しています。利益だけを追求する企業は全くといっていいほど評価されない時代です。

これからは、生活者の共感を得るための視点として、特に「文化性」と「社会性」が重要になってきます。

「文化性」とは、自社の事業や製品が、人々にどんな新しい価値観やライフスタイルを提供し、暮らしを豊かにすることにつながるかという視点です。

「社会性」とは、自社や自社製品が、コミュニティーや社会に対してどんな役割を担えるか。もっと大きくは社会課題の解決や地球環境の持続に対してどのように貢献できるのかという視点です。

これら3つの視点においてそれぞれ考えられる自社の役割や提供できるバリューを束ねて、そこから導かれた”最適解”こそが、自社が掲げていくべき「ビジョン」になります。

このような思想から生まれたビジョンは、生活者の共感・支持を得て、「あの企業の製品を選ぼう」「あの企業を応援したい」といった、企業と生活者の長期的な絆へとつながっていきます。

もちろん、ビジョンを策定しただけでは、意味はありません。そのビジョンが実際の企業活動において具現化され、実践されてはじめてビジョンは意味を持ちます。そうでなければビジョンなど単なる言葉遊びでしかありません。

ビジョンとは、事業と切り離されたものではなく、必ず企業活動における具体的なアクションにつながるものであり、つなげていくためのものです。アクションを実践していくことで、生活者への提供価値がよりよいものへと高められ、企業自体が成長していくためのものです。

ビジョンからアクションへ、バリュー・トリニティによる価値の整理

図2 ビジョンからアクションへ
出典:「経営はデザインそのものである」(ダイヤモンド社、2014年)

 

構想だけでは不十分ですし、構想がなければ形はできません。常に、「構想して形にする」という1つの連続した行為として実践していくという意識が重要です。

なお、このフレームワークは、私がデザイナーとしての仕事を行う際にも普段から活用している方法です。複雑な問題や入り組んだ領域を統合的に整理し、普遍的な解を導くというデザインならではの考え方なのです。

 

■変化する社会の中で持続的に成長する

日本も世界も大きな社会課題が山積しています。環境の問題、少子高齢化の問題、毎日のように新たな課題が生まれ、常に解決に取り組み続けねばならない厳しい時代です。

そんな時代だからこそ、これからの企業の事業や商品・サービスには、「社会性」や「文化性」がより強く求められていくと思います。

あなたの会社も、今こそデザインを経営に取り入れて、持続的に成長していく経営へとシフトするときではないでしょうか。

(日経BizGate 2015年6月17日付掲載)

  
  
  
「経営はデザインそのものである」連載コラム一覧

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