社員の元気を生み出すパーパス策定(ボトムアップ型のパーパスづくり)

  • 組織改革・人材育成

企業の社会的意義が問われる中で、社員や顧客といった内外から自社のパーパスを問われるケースも多いのではないだろうか。実際に我々の会社にも、「パーパスは必要だが、作り方がわからない」といった相談を頂くことも多い。
パーパスを策定するプロセスとして、具体的にどのような要素の検討を行うべきかは、『そのパーパスは誰のものか? 「社長の想い」から「みんなの物語」へ』のコラムでも紹介した通りだ。博報堂コンサルティングの「パーパスサーキュレーションモデル」を活用しながら、経済価値と社会価値の両方を創出するための要素を検討していくことで、自社ならではの強いパーパスを策定していくことが可能だ。
その検討過程の中でも特に、導出した様々な分析やインプットを活用し自社のパーパスを結晶化していく手法について、ボトムアップ型のパーパス策定のプロセスとその特徴を紹介したい。

 


1.パーパス結晶化の2つのアプローチ

パーパス結晶化においては、大きくトップダウンアプローチとボトムアップアプローチの2つが存在する。

 

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トップダウンアプローチでは、主に自社やグループ会社の経営層や社員から選抜された中核メンバーと、外部のコピーライターなどが中心となり、少人数で決定する手法である。ある程度社員数の多い大企業やグループ企業などに多く見られるアプローチで、比較的認識が揃っている中で、検討の過程の中で取りまとめられた様々な分析結果を踏まえながら自社のブランドらしさと実現したい社会について議論することで、効率よくパーパスの規定を進めることが可能だ。

一方で、社員の想いを汲み取りにくいという面も挙げられる。基本的には検討の過程の中で社員へのヒアリングなどは実施するものの、ある程度「トップや一部の社員が決めた(他人が決めた)パーパス」という「他人事」感が発生してしまう一因ともなる。また、年齢的にも役職的にも比較的に同質な経営層による意見の影響も強く、視点が限定されてしまいがち、という側面もある。
トップダウンアプローチの場合は、少人数で効率的に意思決定を行える一方で、その後の浸透活動(パーパスを認知・理解させ、自分事化まで図ることで絵に描いた餅に終わらせない活動)や、視点の多様性を確保することが重要と言える。

もうひとつの手法であるボトムアップアプローチでは、現場社員を中心に多くの社員を巻き込んで検討を行い、検討の過程で表出した様々な意見をとりまとめ、ひとつのパーパス方向性に昇華していく手法だ。関与者が増えるために時間や工数がかかるものの、自分たちの会社の未来を考える、というプロセスに関わることで社員が腹落ちしやすく、浸透活動のハードルが低下する点が特徴となる。また、パーパスを議論・検討するタイミングで会社が考えている事業戦略や目指している方向を再認識する機会にもなり、年齢や部署を越えて多様な視点や価値観のもとでパーパスについての議論が進むことにもつながる。

一方で、現場の意見を重視しすぎると近視眼的な議論に陥りやすいという側面もあり、理想論ではなく、どの様に経済価値と社会価値の2つを創造していくパーパスに昇華させるかは、ある程度ワークショップや議論の設計やファシリテーターの力量も重要となる。

ボトムアップアプローチの場合は、「自分たちが作ったパーパス」という腹落ち感を醸成させやすい一方で、現場の想いを尊重しながら、様々な分析結果を高い視座で取りまとめ、自社独自の強いパーパスに昇華させていくことが重要と言える。

2.社員の元気を生み出すパーパス策定のアプローチ

トップダウンアプローチ、ボトムアップアプローチ、2つのアプローチがある中で、博報堂コンサルティングではボトムアップアプローチを基にしたハイブリッド型のアプローチによりパーパス策定の支援を行うことも多い。

従業員数の規模にもよるが、数回にわたるオンラインワークショップなどを通じて数百名の現場社員を巻き込みながら自社のパーパスについて議論を深め、議論の過程で抽出された様々な想いや考えを汲み取り、その後に部門のキーマンなどマネジメント層によるワークショップや集中討議により議論を深め、最終的に経営層とも確認・議論を通じて精緻化していくプロセスだ。

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例えば某社のケースでは社員数が400名程度ということもあり、ほぼ全社員がパーパスの検討について参画することで自社の強みについての再確認や、今後のありたい姿・ありたくない姿といった「自分たちの会社の未来」について思い思いの意見を交わしながら議論を深めていった。特にパーパス検討や浸透活動において置き去りにされがちなバックオフィスのスタッフも積極的に議論に参加し、まさに会社一丸となってパーパスの検討にコミットしていった。

他にもグループ社員数が1000名を超える様な企業のケースでは、若手も含めた200名程度の有志メンバーが参画し、検討の過程の中で「宿題」という形で所属する部署のメンバーにヒアリングを行うことで、ワークショップに参加せずとも二次的に検討プロセスに参加するような仕組みを設計したケースもある。一人が5人以上のメンバーにヒアリングを行うことで計算上はほぼ全社員を巻き込むことができるという計算だ。
 
これらの現場社員を中心に議論を深めて導出された数多くのパーパス仮説を叩きとして、第2ステップとしてマネジメント層による結晶化ワークショップを行い、高い視座のもと経済価値と社会価値の2つの価値創造について確認しながら議論を深め、パーパスを策定する。

現場社員がパーパスの検討段階から直接的・間接的に関わり、さらにマネジメント層による十分な議論も確保するこのハイブリッド型は、通常のボトムアップアプローチより検討期間の長さや議論の設計について多少工夫が必要となるものの、パーパスとしての強度も担保しながら、現場社員のパーパスの考え方そのものへの理解や腹落ち感、そして所属している部署や会社に対しての愛着も深まる効果も期待でき、結果として、前述したようにその後の浸透活動ステップのハードルを下げることに繋がっていく。

その後のステップとして、マネジメント層で導出されたパーパス方向性について、コピーライターによるクリエイティブ作業に進んでいくこともあるが、ある会社のケースではこの段階でパーパスコピー案について全社員に公募し、数多くの応募が集まったこともある。自分たちが関わったパーパスの検討について、マネジメント層の検討という「その後」の検討過程についてもきちんとオープンに共有されることで、置き去りにされることなく、会社に対する期待や熱量を維持することにつながったケースだ。

この様な熱量の高い社員はもちろん、ワークショップに参画したメンバーが、パーパスを実体化し会社をさらに成長させていくブランドアンバサダーとも言える存在になっていくことにもつながる。

3.パーパスを基点に考え方が変わり、働き方が変わり、経済価値・社会価値向上が実現されていく

パーパスは自分たちの進むべき方向性としての北極星や拠り所として機能するものの、あくまで会社を成長させていくための第一歩に過ぎない。

パーパスを具体的なもととし、経済価値と社会価値を創出していくためには、会社や組織の考え方が変わったことをきちんと言語化した上で、それを社員や顧客、そして世の中といった内外にきちんと伝えていく浸透活動が必要となる。さらに浸透活動においては、単に認知や理解させるだけでなく、行動変容までつなげていくことが重要となり、本人だけでなく会社としてのビジネスの在り方も変革していくためにKGI・KPIの設定といったブランド管理の仕組みも必要だ。

自分たちは何の価値を創出していく会社なのかについて、人と組織の考え方が変わった結果、働き方や顧客への向き合い方、そして組織の在り方自体なども徐々に進化していき、パーパスを起点とした事業成長へとつながっていく。

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例えば、某食品メーカーでは、これまで「品質と美味しさ」こそが自社の提供する価値だと考えていたが、中長期的な事業成長を検討していく中で「美味しさを通じて、世の中に健康な食生活を創造していく」ことが目指すパーパスだと定めた。その結果、単に美味しい商品づくりを目指すのではなく、「この商品は生活者のどの様な食生活を変えるのか」、といった議論が現場で交わされるようになり、商品開発や営業、広報活動などに反映されることで、高いブランドイメージと他社への競争優位性の獲得に成功した。

他にも、パーパス策定後に組織体制や事業部名の変更や、さらには社名自体の変更まで行った会社もある。自分たちの定めたパーパスにより顧客や世の中へ創出する価値が明確になり、社員や取引先、そして生活者など内外にその意図をわかりやすく伝えることも一つの目的として新しい社名に変更を行った。

パーパスは「作って終わり」ではなく、策定した後、それを実体化していくにあたり、どの様に社員の熱量を増やし、会社一丸となって成果につなげていくかが重要だ。実体化を見据えて社員の元気を生み出すボトムアップ型のパーパス策定が、ひょっとしたら貴社にも有効な手法になりえるかもしれない。

 


―本内容を詳しくご紹介するセミナーを実施いたします―

<オンラインセミナー概要>

社員を元気にする企業ブランディングの進め方


【日 時】2023年9月29日(金)15:00-16:00
【ツール】ZOOM(お申込み時は法人メールアドレスでご登録ください。ご参加時にメールアドレスでログインいただきます)
【登壇者】株式会社博報堂コンサルティング シニアマネジャー 鈴木 雅陽

※こちらのセミナーは終了いたしました。

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