ブランドマネジメント(ブランド価値評価)
ブレないブランドを保つための、ルールと組織を構築する
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企業が成長し、事業や組織が拡大するほど、「ブランドをどう守り、どう進化させるか」は避けて通れない経営課題となります。現場ごとの判断や短期的な施策に委ねられた状態では、ブランドはブレやすく、経営の意思を十分に反映することができません。
ブランドを企業活動の判断軸として機能させるためには、個別最適の積み重ねではなく、経営視点で設計されたマネジメントの仕組みが必要です。
本コラムでは、ブランドを経営基盤として位置づけるために、どのようにブランドマネジメントを構築・運用すべきか、その基本的な考え方を整理します。
ブランドは、もはや広告やプロモーションだけで形成されるものではありません。企業が社会の中でどのような存在でありたいのかを示し、それを企業活動全体で体現していく営みそのものです。しかし実務の現場では、担当者の異動や経営方針の変更をきっかけに、ブランド戦略が揺らいでしまうケースも少なくありません。
こうした属人化や短期的な判断によるブレを防ぎ、すべての企業活動を一貫したブランド戦略方針のもとで運用していくために必要となるのが、ブランドマネジメントです。
ブランドマネジメントの目的は、ブランド戦略を個人の判断に委ねるのではなく、「ルールと仕組みによって安定的に運用できる状態をつくること」にあります。これにより、ブランドは短期的なトレンドに振り回されることなく、時代に合わせて進化しながらも、本質的な価値を守り続けることが可能になります。
ブランドマネジメントが機能するためには、明確な役割分担と情報の循環が欠かせません。その基本となるのが、次の二つの管理の流れです。
ブランド管理者(またはブランドを統括する管理組織)は、社内に散在するブランドに関するアイデアや活動を収集・整理し、社外に向けたブランドコミュニケーションを統一します。広告、Web、プロダクト、採用、PRなど、あらゆる接点で語られるブランドの「声」に一貫性を持たせる役割です。
次に、社外からの反応や評価を、各種調査やKPIモニタリングを通じて継続的に収集・分析します。その結果をもとに、ブランドの浸透度や課題を可視化し、社内へとフィードバックしていきます。さらに、外部評価をインターナルブランディングにつなげ、企業風土や社員の行動変容にまで反映させていくことも重要です。
この「社内 → 社外 → 社内」という循環が機能してはじめて、ブランドは単なる表層的なイメージではなく、企業活動そのものとして根付いていきます。

ブランドマネジメントを体系的に整えるためには、以下の三つの観点から設計を行うことが重要です。

はじめに必要となるのが、ブランド運用ルールの明文化です。ブランドガイドラインを策定し、ブランドの考え方や表現方法を共通言語として定義します。これによって、部署や担当者が異なっても、アウトプットに統一感を持たせることができます。
ブランドガイドラインとは、ブランドを適切に運用・管理するための決まりごとをまとめたルールブックです。ブランドイメージを形成する要素や表現に一貫性を持たせることを目的としており、多くの場合、デザイナーを中心に、関係者との確認を重ねながら精緻化していきます。
代表的な構成は以下の通りです。
・基本デザインシステム:ブランドの意義や提供価値、パーソナリティといった思想的要素から、タグラインなどの言語表現、ロゴやカラー、書体といった視覚的表現までを体系的に整理します。
・展開デザインシステム:基本ルールを、名刺やWebサイト、プレゼンテーション資料、空間デザインなど具体的な制作物へ落とし込む際のサンプルや適用ルールを示します。
・その他:ブランドトーンやDos/Don’ts、ブランド体系整理やブランド体現方法などを含めることで、実務で活用できるガイドラインとなります。

ルールは作るだけでは機能しません。運用し、判断し、不断に改善していくためには、「誰が何を担い、どこまで意思決定できるのか(職務権限と業務分掌)」を定義することが不可欠です。そのためには、ブランドを全社横断で管理・推進するための部署や委員会を的確に設計し、その権限と責任を明確にすることが求められます。
組織設計に着手するにあたっては、まず前提となる「論点を整理」する必要があります。例えば、ブランドマネジメント組織をどのようなミッションを持つ存在とするのか、社内における位置づけをどうするのか、どのようなメンバーで構成するのか、統制重視か支援重視かといった管理スタンスをどう定めるのか、他部署とどのような関係性を築くのかなど、ひとつひとつ丁寧に検討していくことが重要です。
そのうえで、いくつかの「組織オプションを比較」し、自社の状況や成熟度に合った形を選択します。例えば、デジタルマーケティングのように専門性の高いテーマとして切り出し、少人数の専任組織としてスタートする方法もありますし、各部署からメンバーを集めた横断的なプロジェクト組織や委員会として始める方法も考えられます。あるいは、既存部署の一つに思い切ってブランドマネジメント機能を集約し、明確な責任を持たせるという選択肢もあるでしょう。
ただし、はじめから完璧な組織を作ろうとする必要はなく、新たな組織やプロジェクトが一定の成果を上げ、社内での役割や価値が見えてきた段階で、改めて全社的な組織再編へと発展させていくなど、段階的に進めるほうが、現場の納得感も得やすく、実行力のある体制を構築しやすくなります。
そして最終的には、新たなブランドマネジメント組織の立ち上げに向けて、「組織図」のイメージや各部署・各役割の具体的な「役割分担」(職務権限や業務分掌)を明確にし、実行フェーズへと落とし込んでいきます。

併せて、設計段階からどこまでブランド管理主体が関与するのか、承認プロセスや監査のあり方を整理しておくことも欠かせません。例えば、以下のような考え方が挙げられます。
・設計段階から介入:施策やクリエイティブの初期設計段階からブランド管理部署が参画し、ブランド方針との整合性を確認しながら進めます。アウトプットの統一感や品質を高く保ちやすい一方で、現場の裁量は限定され、ブランド管理側の業務負荷は大きくなります。
・設計内容の是非を承認:設計や制作は現場主導で進め、コンセプト設計や最終アウトプットといった節目において、ブランド管理主体がレビュー・承認を行います。統一性とスピードのバランスを取りやすく、多くの組織で採用されやすい形です。
・介入せず、監査のみを実施:現場に広い裁量を与える代わりに、一定期間ごとにアウトプットや活動実績を監査し、ブランドルールからの乖離を是正します。柔軟な運用が可能である一方、組織全体のブランドリテラシーが成熟していない場合には、統一感が損なわれるリスクもあります。
また、監査やレビューを単なるチェックに終わらせず、改善提案やナレッジ共有につなげていくことも重要です。こうした取り組みを通じて、ブランドマネジメントは単なる統制の仕組みではなく、「組織学習の仕組み」へと進化させていくことが可能になります。

ブランド戦略や日々の活動の成果を定量的に捉えるためには、適切なKPIを設定するとともに、その評価・改善プロセスを設計することが重要です。感覚や印象論だけに頼るのではなく、データに基づいて意思決定を行うことで、ブランドマネジメントはより持続可能な取り組みとなります。
具体的には、月次・四半期単位で施策レベルの成果を確認し、年次では施策の全体像が妥当であったかを見直します。さらに中期的な視点では、社会環境や市場環境の変化に対して、自社のブランド提供価値が適応しているかを問い直す必要があります。
このように、時間軸の異なるPDCAサイクルを継続的に回していくことで、ブランドは単に守られるだけでなく、環境変化に応じて進化し続けることが可能になります。多くの強いブランドがそうであるように、長年にわたり社会からの信頼を獲得し、統一したブランドイメージを築いていくために、ブランドマネジメントは不可欠な経営基盤なのです。

ブランドマネジメントとは、ただブランドを「管理する」ための仕組みではなく、ブランドを継続的に育てていくための基盤です。ルール、組織、運用を整え、社内外のフィードバックを循環させることで、ブランドは企業活動の隅々にまで浸透していきます。
ブランドを一過性の施策で終わらせず、企業の持続的成長を支える経営基盤としてインストールすることこそが、ブランドマネジメントに取り組む最大の意義であると言えるでしょう。