夢と数字で地域の未来を切り拓く -君津市における千葉ロッテマリーンズ ファーム施設誘致プロジェクト-
君津市

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君津市の千葉ロッテマリーンズ ファーム施設誘致プロジェクト。「南千葉」という新たな広域ブランドコンセプトの創出から事業計画の構築、地域連携体制の設計までを一気通貫で支援し、全国31自治体の中からの選出を実現した。
千葉県君津市は、博報堂/博報堂コンサルティングと連携し、千葉ロッテマリーンズのファーム(2軍)施設の誘致実現を果たしました。31の自治体が競合する中で、広域ブランドコンセプトの創出から事業計画の構築、地域連携体制の設計まで一気通貫で取り組み、最後には市長みずからがプレゼンターを務めるほど組織が一枚岩となって掴み取った成果です。そのプロセスをキーパーソンである鳥山 恒夫氏(CPO)と中村 文明氏(統括参事)に聞きました。(肩書はいずれも2026年3月当時。)

ものづくりの街として発展してきた君津市ですが、近年は周辺エリアと比べてわざわざ訪れる目的地が少なく、独自の求心力をどう生み出すかが課題になっていました。
「木更津にはショッピングがある。館山まで降りるとリゾートエリアになる。君津は周りが豊かなぶん、自分たちが何を持つべきかがわからなかった。わざわざ来てもらえる目的地が少ない、というのが君津市の課題でした」と中村氏は振り返ります。
そこに舞い込んできたのが、千葉ロッテマリーンズによるファーム施設の移転先の公募というニュース。「情報が出た翌日には『やろう』と意気投合していました。一方で競合が多い中での提案で勝つためには、より高度な提案が必要であると考えから博報堂グループへの協力を打診する形となりました。」と鳥山氏は語ります。

プロジェクトチームがまず取り組んだのは、徹底的なフィールドワークでした。試合観戦や先進事例の視察、君津市と周辺エリアの観光資源の調査を重ね、数字や資料だけでは見えてこない地域の実態を掴んでいきました。
「コンサルというとスマートな成果物を届けてくれるイメージでしたが、実際には地域に入り込んで一緒にフィールドワークをしたり、現地を歩き回ったり。想像以上に泥臭く、チームの一員として伴走してくれたことが印象的でした」と中村氏は語ります。
調査を重ねる中で見えてきたのが、君津市が千葉県北部と南部を結ぶ「中継拠点」としての地理的なポテンシャルでした。そこからチームが導き出したのが、「南千葉」という新しい広域連携のコンセプト。既存のエリア区分にとらわれず、君津市を起点に周辺12市町村を一体的に捉え直し、地域全体でマリーンズを盛り上げるという構想です。
「『南千葉』というコンセプトが出てきたときは、これだと思いました。そういうワードが、応援してくれる仲間を作りながら進める推進力になっていきました」と鳥山氏。

コンセプトの策定と並行して、チームは事業の実現性を示すための数字の構築にも力を注ぎました。ファーム運営フェーズの事業収支計画を策定するとともに、初期建設時や運用後の経済波及効果を算出。加えて地域のステークホルダーを一つひとつ洗い出し、それぞれの役割分担や関与のタイミングまでを具体化した体制図も設計しました。
「経済効果の検証データをつくってもらいましたが、あれは現在も活用できるデータになっています。単に誘致のための資料ではなく、街づくりの根拠として使い続けられるものを作ってもらえました。」と中村氏。
夢を語るだけでなく、それを支える数字の精度も高め続ける——その両輪があったからこそ、提案は単なる構想ではなく、20年・30年先を見据えた説得力ある未来図となっていきました。
提案の準備が進むにつれ、市の内側でも変化が起きていきました。コンセプトや事業計画がビジュアルとともに共有されていくと、若手職員が自発的にアイデアを持ち込むようになり、部署を超えた連携も生まれていきました。組織内の熱量は市長にも伝わり、最終的には市長自らがプレゼンテーションを行うほどの一体感が生まれました。
「ゴールイメージを共有することの力をこのプロジェクトで改めて学びました。資料の作り方やプロジェクトの進め方も含め、組織全体にとって大きな学びになったと思っています」。
2025年3月、千葉ロッテマリーンズは君津市を移転先候補として発表しました。高坂俊介球団社長は選定理由をこう説明しています。「私たちが重視した『地域との連携』『立地・敷地・施設』『永続的な運営スキーム』いずれにおいても最も具体性・実現性が高い提案をいただき、20年後、30年後の未来図を描くことができました」。
選定の報はメディアでも広く報じられ、君津市の認知度向上に貢献しました。市内では「シビックプライド(市民としての誇り)」の高まりが実感されるようになり、プロジェクトを機に「ボールパーク推進課」が新設されるなど、組織の意識改革にもつながっていきました。
通勤電車の中で2人が描いた夢は、今や「南千葉」を旗印に集まった広域のステークホルダーを巻き込むプロジェクトへと成長しています。かつて企画書に刻んだ「フィールド・オブ・ドリームス・イン・キミツ」の文字は、2030年の開業に向けた建設準備とともに、駅前再開発や南千葉エリア全体の活性化という形で、着実に現実のものになろうとしています。