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<第3回> ビジョンを構想し、共有しなければ イノベーションは創出できない

作成者: HCI広報|2018年07月18日

※本コラムは、ダイヤモンド社『DIAMOND Quarterly / 2018 春号』に掲載されたタイアップ記事「ビジョンを構想し、共有しなければイノベーションは創出できない」の内容を転載しております。

「未来の会社案内」をつくりビジョンを共有する

編集部(以下青文字):未来のビジネスモデルとともにビジョンを描き出す時には、時間をかけて練り上げていくのですか。

西村:そうですね。我々はクリエイターではないので、漠然とした言葉でビジョンを考えるというよりは、先ほどの社会的価値や文化的価値、経済的価値の3つの視点から事業の実現性も含め、新しいビジネスのあり方とセットで考えています。
生活者視点に重点を置き、能動的にありたい未来を描くのが我々のデザイン思考です。世間一般でデザイン思考というと、新商品のモックアップをつくってブラッシュアップを重ねていくといったイメージかもしれませんが、我々はそれを企業経営のレイヤーで実行しています。
ビジョンにひも付く具体的なビジネスモデルや新規事業を構想する際には、実際にその事業が立ち上がり、商品・サービスを未来の生活者が利用しているシーンなどをビジュアルに細部まで落とし込んで提示することもします。それを経営陣に見せると、必ず齟齬があって、未来の絵図に触発されてディテールを考え出すようになります。さらに構想に立ち返って、修正のプロセスを繰り返すことで、徐々に一つのビジョンに収斂していきます。

栗原:私もある保険会社が新しいビジネスモデルを展開する時に、保険があることによってお客様はどういう人生を送ることができるのかを、お客様と保険員が関わるシーンをビジュアル化してイメージしやすくしたことがあります。
また、ある企業では、「未来の会社案内」というものをつくりました。会社案内は、学生に向けて自分が働いている姿をイメージしてもらうためのツールなので、未来の像を描きやすいのです。「未来の会社案内」の中で、お客様からどのように語られる会社になっているのか、どんなプロダクトを世の中に出しているのかを表現できますし、働き方はどうなっているのか、社長は誰がなっているのかも表現できます。
たとえば、グローバル企業を目指すなら、グローバル市場で競争できる会社になっていないといけない。そのためには、女性登用率が何%だとか、外国人マネジメント層が何%といった話や、ヘッドクォーターは日本ではなく海外に、といった細かな議論が可能になります。


描いたビジョンを事業戦略や社員の行動、意思決定とシームレスに連動させるためには何が必要でしょうか。

西村:やはり、ある程度権限を委譲していって、次世代の経営者候補たちに任せていくことが必要だと思います。いまの経営陣のほとんどは10年後には会社にいません。何もしなければ10年後の未来はないかもしれないと真剣になれるのは、いまのミドルマネジャーたちです。
健康食品会社のケースでは、ちょうど中期経営計画を策定するタイミングだったのですが、お客様がよりポジティブに年を取ることを支援する会社を目指す時に、事業ドメインはどう変わっていくのかを各事業部長が考え、事業計画や新商品案にまで落とし込んでいきました。我々は彼らの黒子だったのですが、実際には事業部長一人だけでなく、部員たちが一緒になって死に物狂いで取り組んでいました。既存の業務がある中での、負荷の大きい3カ月間でしたが、皆さん真剣に取り組んでくれました。その苦労がなければトップから下ろされたビジョンや事業計画が、各事業部に振り分けられるだけの中計になったでしょうし、のちのち社員の不満も大きくなっていたでしょう。向こう3年間で、いつ、どういう商品を出し、どのぐらいの数字がつくれるのか、商品パッケージに訴求するポイントまで具体的に考えることができたことは、彼らにとっても大きな成果となったはずです。

描いたビジョンを共有し、素早く変革したり、シンボリックな事業を立ち上げたりする時に、有効な手段はありますか。

栗原:ビジョンを浸透させるには、野中郁次郎先生(一橋大学名誉教授)らが提示した「SECIモデル」のように暗黙知を形式知化し、みずからやってみて納得し、さらにブラッシュアップして、ほかの人に渡していくようなプロセスを回していく必要があります。それを実行する手段の一つとして、コーポレートベンチャリングは有効だと思います。本体と切り離して、新たな事業体をつくり、そこでSECIモデルを回すほうが、スムーズにいくことが多いのです。
たとえば新しいビジョンに基づいて、社内でシンボリックな事業を立ち上げると、そのこと自体がビジョンの形式知化、見える化になります。それをリードした社員を会社の中で厚遇していくと、働き方という点で一つのビジョンの明示化になります。新しいビジョンや事業が成功すれば、外から評判となって返ってくるので、社員の納得感もどんどん上がっていきます。

 

西村:全社が一気に変わることはありえませんから、自分たちがいま全社を変えていくうえで、一番のレバレッジポイントになる事業は何なのかにフォーカスしていくことは、非常に重要です。コーポレートベンチャリングによってレバレッジポイントとなる事業を立ち上げることで、特に社内に対して、どういう方向で自分たちが業務を変えていけばいいのかという目線が、合わせやすくなると思います。

 

≫第4回に続く