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<第4回>経営戦略としてのブランド ― 顧客・従業員・投資家へのブランディング

作成者: HCI広報|2014年05月11日

マーケティング領域のブランディングでは、対象となるのは顧客のみでした。しかし、ブランディングが経営領域まで拡大したことに伴って、対象となるステークホルダー(利害関係者)も、顧客に加え、従業員と投資家も含まれるようになりました。つまり、ブランドは企業にとって、優秀な人材を確保するためのものでもあり、株価の安定や上昇のためのものでもあるということです。さらに、顧客・従業員・投資家という三つのステークホルダーには、それぞれ現在だけでなく将来の潜在層も含まれます(図参照)。

顧客に対しては、自社の製品・サービスを継続的に購入してもらい、最終的にはブランドのファンになってもらうことがゴールになります。ただし、既存顧客だけではいずれ事業の成長は止まってしまいます。新規顧客開拓のためには、潜在顧客層に対してもブランドを認知・理解してもらう必要があります。

従業員に対しては、自社への忠誠心を持ってもらうことで、より高い生産性を引き出すことがゴールになります。よりよい企業文化・風土を築くことは、新卒学生や中途転職希望者にとっての魅力にもつながります。また、会社の規模や報酬のみならず、ブランド価値を理解した上で入社を希望する人材は、一般に離職率が低いと言われています。

投資家に対しては、自社に対して投資をしてもらうことがゴールとなります。高度成長時代の日本では、企業経営において株主はあまり重視されてきませんでした。しかし、成長が鈍化し、米国式の経営手法が普及するのに伴い、日本企業に対しても株主価値向上が強く求められるようになっています。また、資金の担い手としての一般の個人投資家の存在感が高まってきたことで、彼らにも自社のブランド価値を丁寧に説明する必要性が出てきました。

かつての企業は、顧客・従業員・投資家に対して、必要に応じてそれぞれ別々に情報を発信していました。しかし近年、顧客の多様化や雇用、株式の流動性の高まりによって、現在及び将来の顧客・従業員・株主に対して、企業ブランドとして統一的なメッセージを発信する必要性が出てきたのです。



(文化通信 2014年5月12日号掲載)
※本連載は文化通信に寄稿した内容を転載しております。