BtoBマーケティングの実践における「可視化」の目的と設計方法

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BtoBマーケティングにおける「可視化」とは、何をさしているのでしょうか?
それは、顧客の動きが「見えてくる」可視化、ではなく、自身の仮説の正しさ(もしくは誤り)を可視化する「立てた仮説の検証」を行うことを指します。具体的には、どういうことなのか?また、自社に導入するには何をすべきなのでしょうか?


「買い手視点」の欠如

私たちが、BtoBマーケティングに関するコンサルティングのご相談を受ける際によくあるやり取りは、

弊社: 「御社のお客さまについて、どんな部署の誰が、(製品やサービスの)検討、選定、購買を行っているかご存じですか? つまり、お客さまの購買プロセスをご存知ですか?」

ご相談企業: 「それが分からない(=顧客企業の購買プロセスを把握していない)ので、どうしたらいいのか分からない」、あるいは「現場の営業担当者なら詳しいと思う」

特に、ターゲットを複数業界とする場合や、コングロマリット型(多くの事業領域をまたがって事業をしている・製品を持っている)企業の、マーケティング部門や広報・宣伝部門の方がそういった回答をするケースが多いように感じられます。

自社のマーケティング活動を設計し、マネジメントしていくには、「顧客の購買実態を把握すること」と「(マーケティングの)仮説を立てること」が大前提なのですが、営業現場でない場合、さらに営業だとしても自身の担当業界でない場合、この前提をクリアすることは、それほど簡単なことではありません。


「可視化」の目的

昨今のSFAツールやMAツールの一大ブームにより、システムを導入することで「見えるようになるはず」という幻想はますます加速しているように見えます。しかし、システム導入の前に、また商品開発やプロモーションプランニングの前に、まずは、御社の顧客の購買プロセスを棚卸し、攻めるべき買い手企業がどのようなプロセスとロジックで選択・購入しているのか、という仮説構築をしましょう。そのうえで、カスタマージャーニーマップを作成し、刈り取る方法を設計しましょう。御社のさまざまな顧客接点(Web、営業担当者、コールセンターなど)との接続を設計し、その効果検証をするツール(SFAやMAツール)を導入するのはその後です。

可視化とは、顧客は仮説通りの動きをしているのか?という仮説の検証の行うことを指すのです。


実際にどのように設計するのか?

1)購買プロセスの棚卸しと、2)カスタマージャーニーについて解説します。

1) 顧客の購買プロセスの棚卸し、関与者の特定

以下のチャートは、2013年に「実践BtoBマーケティング」という書籍を執筆する際に行った定量調査の結果です。「商材別の購買関与者および購買プロセス」を明らかにしています。

商材別の購買関与者および購買プロセス

 

表側(横)は購買プロセスの関与者であり、意思決定者(予算権者)/購買担当者(選定を進める担当)/使用者(購買した商材を利用する、原材料として用いる、スペックを定める担当)を示しています。 表頭(上)は、購買プロセスを示しており、まず何を買うかの検討(起案)から選定、購買を経て、利用(消費)を行うところまでを購買プロセスとして定義しています。



●商材による購買プロセスの違い

買い手企業の特性を、「商材に対する買い手企業のリテラシー」と「商材の買い手企業にとっての重要性」の2軸で分類しています。

商品に対する買い手企業のリテラシーと商材の買い手企業にとっての重要性

 

商材は、ソリューション型(調査ではERPシステムの購買が対象)、パッケージ型(パッケージ型業務用ソフト)、主要材型(半導体/電子部品など)、消耗品/備品型(オフィスサービス、水、コーヒーなど)としてそれぞれ調査を行いました。それぞれの商材に含まれる製品/サービスは下記をご覧ください。

  • ソリューション型:ERP、医療用機器などハードとソフト、業務設計が組み合わされたソリューション商材であり、買い手の事業にとって必要不可欠である。投資としても大きい
  • パッケージ型:パッケージソフト、クラウドサービス、保険など、特定機能がパッケージ化された商材。買い手の事業にとって必要ではあるが、投資自体は大きくはない
  • 主要材型:半導体(例えば、インテルのCPU)のように、買い手企業の最終製品/サービスにとって性能などに大きな影響を持つ商材。原価率が高い
  • 消耗品/備品型:製造における部品や素材であり、原価としても大きな影響を持たないものや、経費/備品費で計上される商材。買い手にとって大きな費用にはならない

これら4象限における「関与者」と「プロセス」は、どのような商材を購買するかによって、買い手の関与者とプロセスが異なってくる、ということを示しています。逆に売り手からすると、同じ業界の企業に営業を行う場合、商材(売るもの)が異なるなら、全く異なるアプローチを採用すべきであることを意味しています。実際の調査結果は下記となります。
 

ソリューション型(ERPシステム)

パッケージ型(パッケージ型業務用ソフト)

主要材型(半導体(電子部品等))

消耗品・備品型(オフィスサービス(水、コーヒー等))

同じ商材であっても、買い手企業の業種特性や規模によっては、その企業にとっての商材の位置づけは変わってきます。特に相談を受けることの多い主要材型は、意思決定者が最後に関与してくる「鶴の一声」型であり、パッケージ型は、主に購買担当者に選定と判断をゆだねる「現場依存」型が多いようです。この調査結果は、数少ない母集団による代表でしかありませんが、自社の取扱商材が買い手企業にとってどのような存在であり、また、その際にはどのような関与者がいてどのようなプロセスを取りうるのか?を考える上では参考になるかと思います。

「可視化」すべき対象として重要なのは、こういった事前の情報に基づき想定した「買い手の購買プロセス」と「関与者」の仮説です。この2つの要素が正しいのか?また、それらに対するアプローチが有効に作用しているのか?を目に見える形にしていくことが「可視化」になります。

2) カスタマージャーニー

可視化した上で、マーケティング活動を行っていく上で、必要なことが、「顧客の動き」の仮説づくりです。それを、「カスタマージャーニー」という、買い手の購買プロセスのあるべき像 /売り手として誘導したい買い手のプロセスを設計します。特に、買い手と企業の接点は、Web、店舗、営業、イベントと複数に渡ることが多くなり、これらの接点をまたがり、効果的かつ効率的なマーケティング活動を設計するためには、どのような経路をたどらせるつもりなのか?という戦略設計が必要となります。


●カスタマージャーニーマップの設計、社内での共有

カスタマージャーニーマップは、情報収集⇒比較検討⇒申し込み、といった顧客の購買プロセスごとに設定される以下の3点の課題を整理することで作成できます。

  1. 顧客の行動(顧客は、どのような接点で情報を収集し、購買のための選択/判断を行うのか?)
  2. 顧客の思考(行動の裏にある悩み、問題点、思いを把握する)
  3. 顧客の課題(業務上および購買プロセスにおける顧客のニーズを満たす解決方針)

これらの課題を整理するためには必要な情報があり、それらは、「顧客アンケート調査」や「アクセスログ分析」「顧客インタビュー」などで得られます。カスタマージャーニーを作成する過程で、これまで「点」として捉えていた顧客の動きを「線」でとらえることができるようになります。結果的に、全体を俯瞰したマーケティング活動の見直しを行うことにもつながります。

カスタマージャーニーマップは設計するだけでは意味を成しません。マーケティング活動の関係者全員が顧客ニーズを理解し、各々の活動のゴールと(自らの持ち場だけでなく)その前後の文脈を把握することで初めて機能します。


まとめ: マーケティングとはセリングを不要とする仕組みづくり

「顧客視点で事業を考える」とは、顧客ニーズを深耕する/先取りする、ということだけではなく、「買う」「検討する」「利用する」という行為を考えることでもあります。ブランド力のある企業やサービスは、顧客の活動を注意深く分析することで、そのプロセスの中に「選ばれる理由」を組み込んでいきます。その仕掛けこそが、カスタマージャーニーにおける「感動体験」の仕込み方、になり、セリング=営業活動 をなくす仕組みづくりの第一歩となります。


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