コミュニティー・マーケティングの新潮流 「なぜ企業主宰型コミュニティーは、注目されているのか?」

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マーケティングのデジタルシフトは隆盛期をむかえ、なかでも様々なブランドが自ら主宰するコミュニティー・マーケティングはもっとも注目を集めている。
それは非常に魅力的でかつ難易度の高い「1st.パーティーDB」を形成するための近道であり、持続的なブランドエンゲージメント効果への期待が集まっているからである。一方で企業がコミュニティーに介在することへの違和感や課題も指摘されている。
そもそもユーザーコミュニティーとは生活者が自由に語り合える場であり、企業はそこには参加しにくいというセオリーがあったからだ。企業はコミュニティーを活用したマーケティングに対してどのようにアプローチするべきなのか。企業主宰型のコミュニティー・マーケティングを実践してきた経験からその成功要件をまとめた。



企業の役割は「楽園を守るガーディアン」

デジタル化・ソーシャル化を背景に、人々の価値軸は企業やメディアが編集した情報から、生活者同士が交わす情報へと重心が移っています。そして、そのトレンドはビジネスに必要とされるコアコンピタンスとしても注目されています。コミュニティー・マーケティングの本質は、ユーザーにブランドを預け、ユーザーが手動してブランドを育てることにあります。この考え方は事業サイドからすれば「勇気と胆力」が必要になります。

時には、事業サイドが想定していなかったネガティブな評価が盛り上がることも覚悟をしなくてはなりません。またユーザー同士の自由な交流の場に、企業やブランドサイドの介在があることで「集まりにくい」「盛り上がりにくい」といった不安もつきまといます。商品やサービスを中心とするユーザー同士のつながりを手元で把握できることは企業にとって大きな魅力であると共に、コントロールしづらいリスクがあることも心得ておくことが重要です。

ではそういうコミュニティーに参加している生活者は、企業主宰型のコミュニティーについてどう考えているでしょうか。

ユーザーにとってブランドのファン同士が交流する場は、真の信頼のできる情報が手に入り、商品の魅力について深く共有できるかけがえのないものです。従来「ユーザーの楽園」であるはずのコミュニティーに、企業の影をおとすことはタブーとされていました。しかし、そのセオリーが変わりつつあると感じています。むしろユーザーは企業が介在することによる「フェアで中立なコミュニティー」に参加できることを待望しています。C2Cコミュニケーションは、興味を共有する人が結束していく一方で、どうしても排他的になりやすい傾向があります。リテラシーの高いユーザー、リアルなつながりをもっているコアメンバー集団などが、交流の雰囲気やローカルルールを設定し、フォローユーザーが入りにくいといった現象は茶飯事です。

企業主宰者の役割は、まさにユーザー同士の交流の真ん中にたつということ。企業はコミュニティーがフェアに運用されたり公平で平和なやりとりがつづくための「ガーディアン」であるべきです。企業がうまくしガードしているコミュニティーは、誰もが安心して参加や交流することができる真の楽園であるといえます。

例えばトヨタ自動車が主宰するスポーツカー86のファンコミュニティーは、その好例といえます。参加者がオンラインアプリケーションを活用してツーリング走行会の仲間を募ったり、知らないユーザー同士でドライブを企画したりと、ネットでもリアルでも自由につながれる仕掛けを作っています。ユーザーだけで主宰するスポーツカーのファンコミュニティーの場合、このような自由な雰囲気には制限がかかる場合があります。スポーツカーユーザーのコミュニティーでは「レースやスポーツ走行」という強いインタレスが主導権をにぎり、もっとカジュアルに交流を楽しみたい多くのユーザーが近づきにくい雰囲気がありがちになります。トヨタ自動車では厳格なコミュニティルールをもち、もしそれを逸脱する発言や行動がある場合は徹底してフェアネスを維持する運用をしているようです。

これらによって「86女子会」とか「お花見ドライブ」などの多様なコミュニティーが同時多発的にうまれるプラットフォームを実現しています。企業は公平な視点によって積極的に「コミュニティー・ガーディアン」としての役割を果たすことで、多くのユーザーが新しい人や新しい価値観との出会いを楽しむ場を手元におくことができます。

 

コミュニティーは「事業成長のためのエコシステム」

ではコミュニティーの初期ユーザーの組成、最初の基盤づくりにはどんな視点が必要でしょうか。
コミュニティー構築においては、なによりもユーザーの来訪動機の設計が重要になります。代表的なアプローチとして、ユーザーが抱える課題解決・実利の提供、そのコミュニティーでしか味わえない共感体験の共有、サービスや企業・代表者の圧倒的なカリスマ性があげられます。前述のトヨタ自動車の事例は、スポーツカーオーナー通しの多様な共感体験をテーマとして設定していました。同じく近年増えているオンラインサロンの多くは、オーナーの魅力を基点にコミュニティーが形成されています。

逆に実利提供方向の事例でいえば、格安スマホのmineo(マイネオ)があげられます。マイネオのコミュニティー「マイネ王」では、ユーザー同士がパケットをシェアし合える「フリータンク」という仕組みをもっています。パケットの過不足というユーザーが抱える普遍的な課題解決を通してコミュニティーサイトへの来訪動機をうまく作り、さらにサイトに魅力的なコンテンツをちりばめることで、継続的な来訪を促すことに成功している好事例です。

コミュニティー・マーケティングの運営上のポイントは大きく三つです。

一つ目は、専任のコミュニティーマネージャーを置くこと。

通常業務との兼務の形で人員を配置するケースがありますが、片手間になりがちな運用だとコミュニティーの火種はすぐに消えてしまいます。

二つ目は、立ち上げ時にユーザーの期待値を高めすぎないこと。

大きな花火を上げるのではなく、熱狂的なコアファンと小さな規模から始めて、魅力的な場を提供していくことが重要ではないかと思います。

三つ目は、短期の量的成果を追いすぎないこと。

むしろ量的成果ではなく、質的成果を注視することが重要です。例えば「100人で100ツイート」よりも「10人で100ツイート」の方が参加者の熱量は高いコミュニティの状態といえます。ROIは?KPIは?売上貢献は?といった量的な数値把握だけでは、コミュニティー・マーケティングがもたらす事業効果もPDCAも把握できません。

今、この瞬間、どんな感覚で、どんな言語で、自社のブランドや商品についてユーザーは語り合っているのか――経営者やブランドマネージャーは、つねにそこに関心を持ち、ブランドとマーケットとの関係性を見極めなければいけません。コミュニティーから得られる情報には、短期の購買促進よりも、むしろブランドエンゲージメントのイシューや新サービス開発のためのR&Dに役立つものが多く含まれます。

ハーゲンダッツ社が仕掛ける「幸せのハーゲンハート探し」も巧みなコミュニティー・マーケティングと言えます。

SNS上でユーザーが主導でシェアしていたインタレストテーマ「ハート探し(アイスの蓋を開けた時の気泡の形)」を再活用し、ユーザー間でのコミュニティー組成が活性化しています。ブランドコンセプト「幸せだけで、できている。」を実体感でき、それをユーザー間でシェアすることで相乗共感をうみます。

“アイスクリームという単一商品(モノ)としての存在を大きくこえたライフバリュー(コト)をユーザーが自走的に拡張する”

マーケティングサイドとしては、ユーザーが次のユーザーを勝手に増殖してくれるエコシステムを獲得といっても過言ではありません。

 

カバレッジ拡大の発想から、ファンを増殖させる発想へ。

デジタル化が加速するなか、ここ4、5年であらゆる業態のビジネスの構造が抜本的に変わっていくでしょう。
例えば、朝日新聞社による「朝日新聞DIALOG」も非常にユニークな取り組みです。中央紙というリーチ媒体のビジネスモデルが転換期をむかえ、`日本の未来`というパーパス設定の下でつながる意識の高いオーディエンスを基盤にした新しいメディアのあり方を提起しています。デジタルコミュニティを介してうまれた対話をコンテンツ化し、その発信をきっかけに新たな朝日新聞ファンが増幅していく。メディアビジネスの新たな構造変革に挑戦しています。こうした企業のデジタル・トランスフォーメーションの取り組みは、ネクストフェーズに入っていくと考えられます。今や事業やマーケティングプロセスを効率化するためのデジタル化は、ほぼどのような企業も着手し大きな効果を獲得しつつあります。

しかしながら、デジタル技術やソーシャルプラットホームを活用することで、自社の顧客基盤を再構築するためのコミュニティー・マーケティングを実現するフェーズはまだこれからです。ブランドファン同士が交流し、そこから生まれる新しいブランドの楽しみ方やサービスのありかた、ユーザーが次のユーザーを自発的に増殖してくれるエコシステムなど、マーケティングの可能性はまだまだ広がっていきます。

博報堂コンサルティングでは2019年度より「ビジネストランスフォーメーション・パートナー」をビジョンとして掲げ、事業構造改革、新しい顧客体験とマネタイズモデル開発、事業アセットのリノベーションなど多角的に取り組んでいます。

そして、コミュニティー。マーケティングはその中核となるソリューションと考えられます。

“かつての生産・流通・販売・プロモーションをベースとするマスマーケティングから、自社ユーザー基盤を全てのベースとするファンベースマーケティングへ”

“ファンを満足させ、つながり、次のファンを呼び寄せ、そしてファンのためのブランドサービスのあり方がうまれる”

マス市場を流通面やプロモーション面におけるカバレッジによって支配する戦略は投資リスクも高く、その割に効きにくい市場環境になっています。ファンを基盤に考え、ファンにこそサービスやマーケティング投資をすることで、持続的な成長モデルを築くことがモダンな戦略であると確信します。そして、コミュニティー・マーケティングを操作できる身体感覚をつけることは、これからのビジネスシーンにおいては最重要なケイパビリティともいれると思います。

 

 

※本コラムは、朝日新聞社メディアビジネス局発行『広告朝日』 25号(2019年7月発行)及びウェブ広告朝日(https://adv.asahi.com/)に掲載された内容を再編集の上、記載しております。
ウェブ広告朝日 掲載記事:https://adv.asahi.com/special/contents190628/12495814.html


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