アフターコロナで、アジアの国の生活はどう変わる?「働き方」「買い方」「暮らし方」変化の6カ国比較と、その先にあるアジア特有の事業機会についての考察

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2020年1月末に発生した新型コロナウィルスの感染拡大によって、グローバル生活者の暮らしは大きく変わった。コロナによって生活者の暮らしがどのように変わったのか、長期的にNewNormalとして定着しそうな変化と、その先にどのような事業機会があるのかを考察する。本原稿のアプローチは、シンガポールを拠点とする筆者と、地域担当社員による現地報告、意見交換をまとめたもの。最初にアジアの国共通で見られるNewNormalの特徴、次に主要国における「働き方」「買い方」「暮らし方」、そして最後に、NewNormalがもたらす事業機会についてまとめている。

 

新型コロナの20207月時点での発生状況とその影響による生活の変化は、アジアの国によって大きく異なっている。中国、タイ、ベトナムのように数ヶ月前に新規発生数は抑えられ、アフターコロナのフェイズに入っている国、シンガポールのように新規発生数が収束に向かい経済活動がほぼ再開されている国、インド、インドネシアのように現在においても新規発生数が増え続けており、収束の兆しが見えていないWITHコロナの国がある。このように現在おかれている状況に違いはあるものの、コロナによって変化した日常には、アジアの国として共通して見られるものも多い。本コラムでは全体のまとめであり、国別の特徴や事例はレポートにまとめており、詳しくはレポートを参照されたい。

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1.「アジアにおけるニューノーマル」の特徴とは

アジアの生活における変化として、テレワークの浸透、Eコマースの伸展といったデジタライゼーションによる影響はグローバル共通のものとしてみられるが、もしアジアにおけるニューノーマルの特徴は何かと問われたら、「働き方」「買い方」「暮らし方」において以下の点をあげたい。

1)「働き方」社会格差の拡大と対策としてのスキルトレーニング
2)「買い方」ローカル経済、ローカルブランドの振興
3)「暮らし方」女性が快適に過ごすための家作りと、女性のエンパワーメント

1)「働き方」社会格差の拡大と対策としてのスキルトレーニング

新型コロナウィルスの感染拡大は、社会的弱者により厳しい影響が生じており、社会的強者と弱者が置かれている労働環境の格差拡大が、アジアの国に顕著に見られる。企業に勤めるホワイトカラーはインターネット環境が整う自宅でテレワークが可能だが、アジアの発展途上国ではテレワークが可能でない環境や職種の人も多い。ITインフラ、情報にアクセスできる層と、できない層では働き方が異なり、アクセスできる層は主体的にイーラーニングコースで学ぶなどスキルアップのために時間を使うことが出来たが、アクセス出来ない単純労働者層は失業や不安定な雇用状況により生活に大きな変化があった。このような社会的弱者を救済し、労働者のスキルアップを図るため、アジアの多くの国では、政府主導のスキルアップ・キャリア支援プログラムが実施されている。このようなイニシアティブによる労働力の質の向上は、長期的には産業構造の変化を促し、数年後に振り返ったとき、大きな変化をもたらしたものとして認識されるのではないか。

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2)「買い方物」ローカル経済、ローカルブランドの振興

コロナが生活者の価値観にもたらした大きな変化として「グローバル経済への疑問」「行き過ぎたグローバル経済への揺り戻し」があるのではないだろうか。各政府は自国経済を支えるため、地元生産、ローカルブランドを推奨する政策をとっている。また、これまで発展途上国の生活者はローカルブランドの品質をあまり良くないものとして認識していたが、コロナを契機にローカルブランドを使用する機会が増え、自国ブランドを見直す動きが出てきている。今後、このローカルブランドを支持する動きは、政策によるトップダウンアプローチだけではなく、生活者側からのボトムアップアプローチとして、また環境意識の高まりにも後押しされ長期的なトレンドとして定着するだろう。

3)「暮らし方」女性が快適に過ごすための家作りと、女性のエンパワーメント

アジアの国は欧米諸国と比べると伝統的な家父長制に由来する価値観をもち女性の社会的立場は弱く、工場やサービス産業の従事者が多い女性は、コロナによる失業の影響も大きい。また家族が自宅にいることにより、女性の自宅での家事負担も増えている。そのような厳しい環境の中、女性が家庭において果たしてきた役割はもちろん、社会においても女性の役割が再評価されている。コロナ禍で推進されるデジタライゼーションによって、家事労働負担を軽減し自宅で快適に過ごすための商品・サービスが増えると期待され、また柔軟な働き方が推進されることで、女性エンパワーメントが加速していくだろう。

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2.アジアの国の各領域における事業機会

ここまでアジアにおける生活の変化を見てきたが、ここからはそのような変化によって、どのような事業機会が生まれるのか、アジアの特徴を中心に包括的にみていく。

①「働き方の変化」

テレワークは、国によって適用範囲に違いはあるものの、生活スタイルに大きな変化を起こし、1)直接的なデジタル対応から、2)場や空間に対する変化3)意識の変化と、幅広い領域に渡る将来の事業機会をもたらすと考えられる。

1)直接的なデジタル対応

テレワークで不可欠となるインターネットインフラやデジタルツールを提供する企業にとって大きな事業機会となることは言うまでもないが、デジタルツールを「活用できる人」と「活用できない人」の社会格差を解消するための教育サービスや仕組み作り、情報セキュリティ意識の低い人を前提とした業務プロセスやシステム設計なども大きな事業機会となるだろう。

2)場や空間に対する変化

テレワークによって会議や営業の形・場所が変化し、どこでも働くことができるスタイルが定着すると、新しいオフィス形態として「地域サテライトオフィス」「観光地オフィス」「カーオフィス」など、新しいモビリティや地域の活性化が促進される。

インターネット普及率や安定性が低い状況から、大企業においては、5G対応のデバイスを社員に配布するなど、オフィスのデジタル化を進める会社も増えると考えられる。また、オフィスに求める機能も変化し、会議やチームでの協業に適したオフィスの最適化が進み、衛生意識の低い利用者を前提にしたコンタクトレスオフィスの設計や施工が増えると考えられる。

3)意識の変化

テレワークが増える一方で、集団主義的でチームワークを重視するアジア人の働き方に即した帰属意識を高めるための社内イベントや、デジタルツールを活用し自発的な参加を促すアイデアコンテストなどの仕組みづくりが求められると考えられる。慢性的な交通渋滞から、これまで通勤にかかっていた膨大なお金と時間が軽減されることで、給与形態や待遇などの見直しなども進むと思われる。一方で、もともと多かった副業が増加することで、働く会社に対する要求が給与だけでなく、社会的意義、やりがい、スキルの習得なども期待され、そういったニーズに対応できる企業が、より優秀な人材を獲得することができるのではないかと考えられる。また、デジタルツールによって柔軟な働き方への受容性が高まり、女性がより働きやすくなり社会進出が促進されると考えられる。コロナ禍で業界の構造が大きく変わることで、将来への不確実性に対する不安が増し、メンタルケア・キャリアカウンセリング・スキルトレーニング・転職支援も事業機会となる。

hcap20200730_3図1)働き方の変化と事業機会

 

②「買い方の変化」

ショッピングに対する変化は、「デジタル&地元シフト」が中心のドライバーとなり、その影響は 1)Eコマースの加速2)リージョン&ローカルブランドの躍進3)OMO体験の最適化に繋がる。

1)E-コマースの加速

オンラインショピングや電子決済の浸透の加速で、より強固なインフラや個人の買い物や予算を管理するマネジメントツールの需要が増加するだろう。また、ECプラットフォームは消費者にとって、より高い付加価値と利便性を提供するグローバルプラットフォームがさらに成長する一方で、低所得者でも利用可能な決済手段とデリバリーを提供するリージョナル・ローカル企業によるプラットフォームも成長すると考えられる。

2)リージョナル&ローカルブランドの躍進

これまで外国製品に傾倒していた国民の嗜好が、自国の製品、自国のローカルブランドに向かうことで、ローカルブランドの品質改善、ブランド力向上が予想される。外国企業にとっては、現地生産を推進することがより一層重要となるとともに、自国で生まれた技術や特有の機能を素早く取り込んだ商品やサービスを提供することで、ローカルブランドに対抗することが必要となるのではないか。今後、このローカル経済に貢献する企業を支持する動きは、環境意識の高まりにも後押しされ長期的なトレンドとして定着するだろう。

3)OMO体験の最適化

デジタル・ローカルシフトは、新たなショッピング体験を求める動きを加速させる。増加するバーチャル世界での交流は、バーチャル映えするためのメイク・ファッション・デジタルフィルター等の消費を加速させるだろう。た、店舗に求める役割が変化し、短期的には小商圏での買い物をサポートするパパママショップの存在感が増し、長期的には全国に広がるパパママショップネットワークをデジタルで活用していく新しいビジネスモデルに事業機会があるのではないか。

グローバル共通の傾向でもあるが、店舗はブランド体験の場としての価値が求められていく。多くのブランドが店舗数を縮小し代わりに最も好ましいブランド体験を提供する旗艦店の設置を推進しており、オンラインとオフラインで最適化されたカスタマージャーニーの設計が求められている。

hcap20200730_4図2)買い方の変化と事業機会

「暮らし方の変化」

暮らし方は「おうち時間の増加」をドライバーとして、1)自宅で利用できる外部サービスの活用2)ホームベースド学習・エンタメ3)自宅と街の再設計が進むと考えられる。

1)自宅で利用できる外部サービス

コロナを契機として、自宅で料理を作り、健康的な食生活を送る世帯が増えていくと考えられる。そのためのキッチン環境の充実、料理レシピの情報提供、こだわり素材の食材販売やデリバリーなどの事業機会が拡大すると考えられる。また健康意識の高まりから、家の中でのフィットネス、健康管理ツール、家庭での医療サービスなどのニーズも高まっていくと考えられる。また長引くコロナによって、自炊や掃除など家事負担や育児にかける時間も増加し、その負担を補うために、家事支援サービスの利用が促進されるだろう。

2)ホームベースド学習・エンタメ

おうち時間が増えることは自宅で完結できる学びや趣味の機会が増え、自宅で家族と楽しい時間を過ごすためのホームシアターやガーデニングなどのホームエンターテイメントが加速するだろう。また、各国で提供される教育サービスのクオリティに満足していない富裕層は子供を欧米やアジアの先進国に留学させる傾向があったが、オンラインでの教育サービスを提供するようになり、より多くの人が、自宅からE-留学をし、高度なスキルを習得しようとすると考えられる。またアジアの底辺に近い社会階層に対しても、デジタルを活用した低価格の教育サービス提供、自治体やコミュニティーを通じた教育機会も増えると考えられる。

3)自宅と街の再設計

このように自宅での仕事、学習、趣味の時間が増えると、自宅をより快適に過ごすために自宅オフィスや趣味スペースを最適化する自宅リフォームの流れが加速すると考えられる。また自宅に収納仕切れない機能を車や近くの街に求めるなど、モビリティ、都市に求める機能も変化すると考えられる。危機に強く、環境に優しい近隣コミュニティを志向する動きにより、徒歩15分圏の小商圏都市など地元経済の活性化が促進される。

hcap20200730_5図3)買い方の変化と事業機会

以上のように、New Normalによって起こる生活の変化は新しい事業機会を生み出す。国によってコロナによる影響は異なっており、また、ご自身の所属する企業・業界によっても事業機会は異なると思われる。この機会に改めて各国における事業環境を見つめ直し、長期的な視点で事業機会を検討し会社の変革を促すことが出来れば、このような世界的な未曾有の危機をも、自社の機会として捉えることが可能なのではないだろうか。

国別の特徴や事例を参照されたい方はレポートを参照ください。

レポート>New Normal in Asia

【目次】
1.アジアの主要国における現在地点
2.「アジアにおけるニューノーマル」の特徴とは
3.シンガポール
4.中国
5.タイ
6.ベトナム
7.インドネシア
8.インド
9.アジアにおける共通変化ドライバーと事業機会まとめ

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