<第2回>リアルビジネスにこそ、グロースハックのアプローチを

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今や、マーケティング混迷の時代へ

そもそも、何故今グロースハック的なアプローチが有効であると考えるのか。これは、市場環境の変化に伴う、マーケティング戦略のあるべき軸足が変遷してきたことが背景にあります。それをお伝えするために、かなり概略的ではありますが、先ずはマーケティングに求められるものの「変遷」を整理してみます。

かつて、市場からの明確な需要に対して、供給が充分でない時代においては、自社がいいと思う製品を開発し、それを生活者に知らせるだけで良かった、所謂「プロダクトアウト」の時代がありました。しかし、「明確な需要」に対する供給が一巡すると、今度は生活者の隠れたニーズを探し当てなければ、売るべきものがわからない時代、すなわち、生活者の声を聞き、彼らが求めている商品を開発することを主眼においた「マーケットイン」の時代が続きます。そして現在。マーケティングリサーチに代表される、ニーズ探索の手法が一般化した中では「生活者のほしいもの、ニーズを探りあてる」方法を採ったとしても、恐らく競合企業も同じニーズをリサーチによって見つけ出し、結果として既にそのニーズが満たされている可能性が高いとも言えます。

グロービスさんが整理した、わかりやすいマーケティング戦略区分があります。(図表1)
これは、かの有名な「ジョハリの窓」(アメリカの心理学者が研究した、対人関係における気づきのグラフモデル)をベースにアレンジしたものですが、この右下がまさに現在の状況に近いのではと思います。企業は売るべきものを知らず、生活者も買うべきものを知らない状況。このような難しい状況を突破していかなければいけない、本当に難しい時代がまさにやってきています。

(図表1)マーケティング戦略の整理
図表1_マーケティング戦略の整理(楠本)
出典: グロービス著『実況マーケティング教室』



「新しいマーケティング」の代表選手たち

そのようなマーケティング混迷の時代を生き抜くために、今般、様々な新しいマーケティングの手法が誕生しています。共創マーケティング、インバウンドマーケティング、ソーシャルメディアマーケティング、ビッグデータマーケティング・・・などなど、〇〇マーケティングと名が付くものは、枚挙に暇がありません。皆さまがよく研究されているものも多いかと思います。これらは、ここ数年の間で爆裂的に進化した新しいデジタルツールを効果的に活用した(活用するための)手段ともいえ、使い方によって大きな成果を生む可能性があり、我々自身もプラニングに採り入れているものもあります。
しかし、それらを使う上で注意しなければいけないことがあることも事実です。他もそうですが、万能なものはありません。


そして、それぞれの落とし穴

例えば、今、大変注目されているアプローチである「共創マーケティング」。色々な定義はありますが、「生活者との関係性の中で、深層インサイトを探索することを通じ、新商品やコミュニケーション施策を考えるヒントを見つけ出すための方法」といえばおよそ間違いではないでしょう。しかしこれを、直接的に「生活者がほしいものを見つける」ためのプロセスとして捉えてしまうと、マーケティングリサーチが前段にくっついただけの、トラディショナルな方法論の域を抜けません。
また、特にBtoB企業を中心に広まっている、「インバウンドマーケティング」という手法もあります。何かに興味をもった顧客は、自ら見つけてくれる、調べてくれるということを前提としたアプローチ。顧客のアクション遷移を意識し、比較可能な各施策の効果検証をしながら「引き込み方」を最適化する方法です。しかし、「効果測定に基づく施策の選別」という手法論が先走り、アクション遷移上の個別施策は、比較的パターン化されたものの組合せで進めてしまうことが多い印象があります。
そしてビッグデータマーケティング。言わずと知れた、生活者に関わる膨大なデータを分析し、表面的には見えない生活者のインサイトや行動パターンを導き出すためのアプローチ。ただ、とにかくデータサイエンティストに任せて、何らかのデータ解析をはじめれば、効果的な何かが導き出される・・・そんなことはある訳ないです。先ずは現場の感覚に基づいた仮説がないと、手がかりなど見つけようもありません。


何となく感じる違和感

混迷の時代を駆け抜けるための突破口として、多くの企業から、上記で紹介した様な新しいマーケティングのアプローチがもてはやされる一方、手法論だけが先走り、効果的な使い方ができないまま、例示したような「落とし穴」にはまり失敗してしまうことも多々あります。これらはよく語られている内容です。
これらの「落とし穴」ですが、一見それぞれ別個のものの様に思えますが、実は共通した、ある「生活者に対する前提」に基づき生まれてしまうものではないかと見ています。

先ずはこの図表をご覧ください。(図表2)

(図表2) 生活者をどのように捉えるか?

図表2_生活者をどのように捉えるか(楠本)

 

マーケティングプラニングを行う上での生活者に対する前提として、この様な軸で整理する方法があります。左側にあるのが、「生活者は、いつも合理的な判断をする」というもの。すなわち「生活者視点で、深くインサイトを探れば、必ず彼らが求めるものが見つかる。そしてそれを提供側が意図した方法で見つけ、合理的な判断のもと買ってくれる」という捉え方です。

総じて、「落とし穴」にはまってしまうのは、左側を前提とした進め方をしてしまった場合なのではないかと考えています。そういう前提に立つと、それぞれ

  • 生活者が事前に評価したものなので、投入すれば合理的な判断のもと買ってくれる
  • 合理的に考えると興味を持つに違いない「引き込みパターン」を構えれば獲得できる
  • データを分析すれば、誰もが理解納得できる合理的な行動パターンが見つかる

ということになります。当然、あるものを「汎用的な手法」として売ろうとすればするほど、サービスの提供過程において不安定なものを「定数」として定めなければ成立しにくくなるのは必然です。しかし、直感的にもそんなことが成立する気はしません。お気づきの通り、こういう前提は、従来型のマーケティング戦略の立ち位置、すなわち「生活者には求めるものがあり、それを探して、的確にプロモーションすれば売れる」という考え方(ですので、図表1の右上や左下の象限にあたるもの)と大差ないのです。手法としての新しさはありますが、使い方を間違えると元の木阿弥です。


「いつも合理的な判断をする訳ではない」という捉え方

もう一つ、それの「対」にあたる立ち位置があるとすれば、「生活者は、いつも合理的な判断をする訳ではない」という捉え方。言い方を変えると、「合理的な理由以外」すなわち、その状況における「非合理的な理由」が、購買やサービス利用に介在することを認めるということ。これは、行動経済学を中心とした一部の学説を除き、基本的には「汎用化」を前提とした従前のマーケティング論では、必然的にあまり着目されてこなかった部分です。

その非合理的な理由とは何なのか。購買時における、感情の揺れや意識の置き所、外的環境など様々あります。普通に考えるとそれが自然だと思いませんか。自らのことを考えてみましょう。どれだけ、自分たちが非合理的な理由で色々な判断を下すことが多いことか。また、上記の3つのマーケティング手法も、この様な前提に立つと、その使い方も大きく変わってきます。
まさにこの様な前提が、「欲しいものがない」「ニーズが満たされ切った」時代における、よりリアルなマーケティングアプロ-チにつながると個人的に考えています。

次回は、何故そう考えるに至ったのかについての解説と、そのような前提に立ったとき、どの様なアプローチが必要となるのか(これこそが、私が提案する「グロースハック的なアプロ―チ」)について、事例を交えながらご紹介していきます。


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