<第2回>新規事業開発のジレンマ-着実性VS新奇性➁ ~事業化の成功ノウハウ~

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新規事業開発に取り組むものにとって、着実性と新奇性のジレンマは避けることができない。着実な事業アイディアを選ぶべきか、新奇性の高い事業アイディアを選ぶべきか、それは各企業が新規事業に期待していることや評価基準によって大きく異なる。今回は、着実性と新奇性のバランスをうまくコントロールしながら新規事業開発を進め、最終的には自社の目的にとって最適な新規事業に行きつくためのプロセスについてご紹介していく。

「①アイディア創出の方法」においては、ツールやフレームをもちいた発想や整理方法についてご説明した。本稿では、いよいよそのアイディアをどのように事業化に繋げていくかを紹介する。

新規事業開発Step 3. ビジネスモデル化(着実性重視の検討)

Step1. Step2.をとおして、面白い事業アイディアが浮かんだら、次はそれをいかに収益に結び付けるか、である。ビジネスである以上は、いかに少ない投資(お金やリソース、そして時間)で、いかにして早くキャッシュを生み出すのか、という問いは、避けて通ることができない。

社内外ともに多くの協力者を必要とし、特に投資判断者や出資者が存在する新規事業の立ち上げにおいて、おそらく何度も説明を求められるのは、ビジネスモデルの方であると言えるかもしれない。

どうやって実現させるのか?バリューチェーンのどこを担い、誰の協力が求められるのか?どのように収益を分かち合うのか?という各問いに答えていくプロセスにおいては、理性のスイッチを入れなおし、着実性を重視した姿勢が求められる。

ビジネスモデルについて検討する方法は無数にあるが、ここではStep 1.で実施したビジネスモデル分析を活用し、それぞれの新規事業アイディアに対し、以下3点を検討する方法をご紹介する。

1.収益モデルの設計

Step 2.で抽出された「ビジネスモデルの基本パターン」より、各新規事業アイディアに最も適した基本パターンを選出し、各アイディアに合わせて再設計する。例えば、先ほどの乳製品メーカーの事例で「チーズ専門店をつくる」という新規事業アイディアが創出されたのであれば、「合計モデル:消費者を呼び込む目玉商品や関連商品を用意し、“ついで買い”を狙う」を基本パターンとして採用し、目玉となるチーズ料理をいくつか格安で提供することで消費者を呼び込み、その他の飲料や料理などで収益を得るというモデルと設計することができる。また1つの新規事業アイディアに対し、選出する基本パターンが1つでなければならないということはなく、2つ以上のビジネスモデルを組み合わせることで、特有のモデルを創出することも可能である。

2. 活用チャネルの洗い出し

新しく生み出された商品やサービスをどのようなチャネルを通じて提供するのかについても、検討しておく必要がある。ここで言うチャネルとは、いわゆる店舗だけではなく、顧客に対して商品やサービスを届けるあらゆる手段のことを指す。自社の保有するリソースやナレッジを活用できる場合もあれば、外部の協力が必要になる場合もあるかもしれないが、いずれも一定の実現性があることが求められる。どうやって商品やサービスを顧客に届けるのか?それは本当に実現可能なのか?などの問いに応えなければならない。

3.協力パートナーの選定

前述の活用チャネルでも触れたが、新規事業アイディアを実現させるためにパートナーの協力を得ることが求められるケースがほとんどである。これまでに取り組んだことのない全く新しいビジネスをするからには、リソースがナレッジを補完してくれるパートナーを見つけ、獲得するプロセスは避けて通ることができない。その為にはまず、そのビジネスを実現する上で自社に足りないリソースやナレッジが何であるかを明らかにし、その上で現実的にアプローチ可能なパートナーをリストアップしておく必要がある。

着実性に軸足を置いてビジネスモデルを検討するプロセスの中で、Step 2で創出された各新規事業アイディアが、それぞれどのくらい実現可能なのか、実現する難易度はどのくらい高いのかなどが、おのずと明らかになってくる。

ただし、いかにその新規事業アイディアの実現が難しそうに感じても、この段階ではどのアイディアも除外することなく、実現することを前提としてビジネスモデルを検討することが重要である。

はじめの簡単な検討だけで難しいと思えるアイディアを除外してしまうと、はじめから想像しやすい着実なアイディアしか残らなくなってしまう可能性がある。

ここで難しそう、実現できなさそうという不安感に屈することなく、「とはいえ、やるとなったら、どう実現できるだろう?」とあきらめずに検討を推し進めることができれば、思ってもみなかったビジネスモデルに辿り着くことができるかもしれない。

新規事業開発Step 4. 絞込・選定

最後に、これまでに創出されたすべての新規事業アイディアの中から、より具体的に実現に向けて動き出すアイディアを選定する。

ここで最も重要なことは、「何を評価基準にするか」である。結婚相手を選ぶ基準が1010色であるように、新規事業アイディアを選定する基準には、それぞれの企業のそのタイミングでの正解がある。

しかしここで何を評価基準にするかによって、最終的に選ばれるアイディアが全く異なる可能性があることを踏まえると、簡単に答えを出せる問題ではない。これまでにご紹介したすべてのステップの中で、この評価基準を決めるステップこそが、最もシンプルで、難しく、重要であると言っても過言ではない。

また、実現に向けて社内外で協力者を求める際にも、何を評価基準にしてこのアイディアが選ばれたのかをはっきりと分かりやすく社内外に伝えることで、理解と共感を促し、ロイヤルティを高めるブランドづくりとしても重要である。

また評価基準をどのように設定するかによって、着実性を重視した選定となるか、新奇性を重視した選定となるかが大きく左右される。これまでは着実性と新奇性の両方のバランスを取りながら検討を進めてきたが、ここからは自社の新規事業開発に対するスタンスを確立させなければならない。リスクは大きくても競合がやっていないような新しいアイディアにチャレンジするのか、実現に向けた道筋が分かりやすく立ち上がりやすいアイディアを選ぶのかは、そもそも自社が新規事業開発に取り組むことにした動機や、新規事業開発プロセスを経ることで発見したことに基づいて決めて頂ければと思う。

なお、絞込・選定においての2点注意点がある。

1) 検討開始(step0.時点)で選定評価方法を設計する
上記のように検討対象やプロセス、設計内容に影響を与えるために、この評価基準とプロセスは必ず、アイディア検討開始時はその方針を決めておくべきである。オープンイノベーションや社内コンテストなどでアイディアを公募するような場合はなおさらである。

2) Step5. PoCを前提に選定を行う
PoCとは、Proof of Conceptの略で、「概念実証」という意味である。新しい概念や理論、原理、アイディアの実証を目的とした、試作開発の前段階における検証やデモンストレーションを指し、新規事業の成功確度を高めるためには欠かせない。次章で詳しく説明する。

新規事業開発Step 5. 実現化

新規事業アイディアを選定できたら、いよいよ本格的に始動するときである。どのような活動が必要になるのかは、企業によっても、新規事業アイディアの内容によっても異なるが、ここでは「稟議」が新規事業開発に及ぼす影響ついてだけ簡単に触れておきたい。

稟議によって着実性に大きく偏ってしまうことを避けたい場合、POC (Proof of Concept)という考え方を導入することをお勧めしたい。POCとは、特にITの世界において新奇性の高いシステムを構築する際に、本格始動をする前にシステムを小規模に立ち上げてみて、実証実験を繰り返しながら少しずつ仕様を調整して最終化していくプロセスのことを指す。

新規事業開発にこの概念を適応すると、いきなり大規模な投資をして成功を祈るのではなく、はじめから失敗をする前提の小さなプロジェクトとして市場に送り出し、失敗から学びながらビジネスモデルを少しずつ調整していくことである。そうすることでリスクを最小限に抑えることができ、新奇性を保ったまま稟議を通すことも可能となる。

博報堂コンサルティングでは、2段階でのPoCを採用している。

PoC : アイディア受容評価

多くの事業アイディアは、システムやUI(アプリ)、流通チャネルなど、多くのインフラの構築を前提に設計されるものもある。しかし、大規模投資を前提として起案した提案が一部却下され、「小さく生み大きく育てる」という大変都合の良い言い回しで了承されることが多いのではないだろうか。

これは、投資側として「ダメだった時の撤退できるようにしたい」から「初期投資を抑えたい」ということである。これは至極もっともの反応であり、もし自身が自己資本で始めるのであれば、同じことを考えるのであろう。

そのためにも、構想したUIUXを「手動でもいいので」実現すること、がPoC①である。

サービスを提供し、お客様の想定されたニーズやカテゴリー認知に整合するか、という市場受容性と、ビジネスモデルにおけるステイクホルダーたる協業社・者の受容性や関与度を見極めるという関与者受容性の評価である。実際に6080%程度の完成度でもよいので実態を運用することにより、マーケティングリサーチ(コンセプト受容性の定量・定性調査)では見えない真の受容性とアイディアやビジネスモデルのブラッシュアップができる。

PoC スケール化評価

PoC①が終了し、事業アイディア、ビジネスモデルが精査されてきたら、次に行うことがスケール化のためのレバレッジポイント/ボトルネック評価のためのPoCである。

小規模で、顧客や提供側・運用側が小規模でうまくいっているものをいかに拡大させるか。特に事業会社における新規事業開発は、シードで売却/テクノロジー譲渡を行う、といったスタートアップのエグジットが取れないことが多く、自社の新しい収益の柱の確保/既存のアセットやインフラ、人材活用 といった裏タスクを背負わされていることが多い。

その場合に必須となること、それがスケール化評価である。

冒頭に紹介した書籍においては 「認知や販売チャネルが見えていること」 が重要とした。

多くの場合、既存顧客への提案が一巡した場合の新規顧客の獲得でスタックすることが多い。これは、PR広報するネタがないという意味あいと、リソースが不足してその業務に選任させられるお金と人がいない、というケースである。

また、販売チャネルを既存の販売網を活用する、という前提で設計した場合、PoC①の協力的な企業とのテストはうまくいったが、広く公募したら全然集まらない、売ってくれない、ということがほとんどである。

よって、スケール化するための仕掛け方やインフラの準備が遅滞なく遂行できるかどうかの設計と準備を行うこと。それがPoC②になる。多くの場合、撤退基準や期間を決めたほぼフル機能・フルサービスの商品提供を限られた市場やチャネルで行うことや、人材やチャネルの教育やマニュアルを整備し、実施することで拡大速度とコスト、受容性が想定通りかどうかを評価する。

気を付けるべきは、PoC②での撤退はなかなか勇気がいることである。交渉や投資を決めたうえで行うPoCのため、やめにくい。しかし、ここでの評価結果、成長拡大が見込まれない/ボトルネックがある、と判断されたら、検討の前Stepまで戻るか、アイディア自体を廃棄するか、を判断する必要がある。

おわりに

リスクなき新規事業開発はない。しかしリスクをうまくコントロールしながら進めることはできる。各ステップにおいて着実性と新奇性のどちらを重要視すべきなのかを意識しながら検討を進めることで、それらは二項対立型のジレンマではなく、新規事業開発を円滑に進めるための役立つ視点として活用することができる。

アイディア創出に向けた土台作りである「Step 0. ビジネス領域の規定」と「Step 1. 業界トレンド分析×生活者インサイト分析×ビジネスモデル分析」では、新奇性と着実性の両方の視点で検討が進められるよう両者のバランスを取っておくことが重要である。次に、実際に新規事業アイディアを構築していく段階である「Step 2. アイディア発想(新奇性重視の検討)」と「Step 3. ビジネスモデル化(着実性重視の検討)」では、それぞれ新奇性と着実性に大きく舵を切ることで、両方の視点がしっかり加味された事業アイディアとなるよう工夫する。最後に「Step 4. 絞り込み・選定」と「Step 5. 実現化」では、自社が新規事業開発を実施しているそもそもの意図に基づいて明確なクライテリアを設定することで、事業アイディアが意図しない方向へと展開してしまわないよう注意する。

各ステップで新奇性・着実性の両方の視点をしっかりと意識しながら検討を進めることで、自社戦略に最もフィットし新規事業開発を進めることができるだろう。

 

執筆協力: 吉田寿美(フェロー)

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