<第1回>新規事業開発のジレンマ- 着実性VS新奇性① ~アイディア創出の成功ノウハウ~

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The biggest risk is not taking any risk. In a world that's changing really quickly, the only strategy that is guaranteed to fail is not taking risks.

 

最大のリスクは、何のリスクも取らないことである。今のような変化の激しい世界において、確実に失敗することが分かっている唯一の戦略は、リスクを取らないというものだ。

 

―――マーク・ザッカーバーグ(Y Combinator Startup Schoolインタビューにて 2011.10.29)

 

新しい事業を立ち上げる際、ノーリスクということはあり得ない。

どれだけ入念に市場調査やテストマーケティングを行ったとしても、実際にローンチしてみるまではその成功が保証されることはない。そのため新規事業開発には、少なからず不安が伴うものである。失敗したらどうしようという恐怖心もあり、できるだけリスクの少ない選択をしようという心理を後押ししてしまい、既存事業から大きく離れた(面白そうな)アイディアよりも、既存事業の延長線上にある(着実そうな)アイディアが選ばれることが多い。

一方、着実そうに見える事業アイディアにも、当然リスクは潜んでいる。既存事業の延長線上にある、類似しているアイディアほど実現までの道筋が自身や社内の多くの人にとってイメージしやすいことは間違いない。

だからと言ってその実現のしやすさが成功を保障するかと言えば、そうとも言えない。

むしろイメージしやすいものは、えてして競合他社も思いついている(もしくは既に実施している)可能性が高く、また、市場や顧客からみると新規製品やサービスと認識してもらえない可能性も高い。つまり実現は容易かもしれないが、コミュニケーションやセールス、そして収益面から見ると熾烈なレッドオーシャンへと足を踏み入れてしまいうまくいかない=収益化できないリスクが大きいのである。

つまり、新規性の高いアイディアは実現リスク、着実性(類似性)が高いアイディアは収益リスクがあり、リスクが少ないと思いながら大きなリスクを取っている可能性があるのである。

新規事業開発に取り組むものにとって、着実性と新奇性のジレンマは避けることができない。

着実な事業アイディアを選ぶべきか、新奇性の高い事業アイディアを選ぶべきか、それは各企業が新規事業に期待していることや評価基準によって大きく異なる。

今回は、着実性と新奇性のバランスをうまくコントロールしながら新規事業開発を進め、最終的には自社の目的にとって最適な新規事業に行きつくためのプロセスについてご紹介したい。

 

ジレンマを乗り越える新規事業開発5つのステップ

新規事業開発 Step 0. ビジネス領域の規定

新規事業開発を進める上で、まず決定しなければならないことは自社のビジネス領域である。

すなわち、自社は今後どこまでの市場カテゴリーを自社の領域とするのかを予め設定することで、新たに開発する新規事業の検討範囲を明確化するのである。

ビジネス領域は、大きく3つに分けて検討することができる(図1)。

提供している商品・サービスそのものである「既存ビジネス」、その商品・サービスが所属している市場カテゴリーである「既存カテゴリー」、そしてその市場カテゴリーと関連したビジネス領域を指す「周辺カテゴリー」と、少しずつ対象とするビジネス領域を広げていきながら規定する。

チーズやヨーグルト等の乳製品を販売している企業を例に説明しよう。

「既存ビジネス」は検討するまでもなく明確だが、「既存カテゴリー」となると少し検討の余地が生まれてくる。

おそらく食事やフードに関連した領域ではあるものの、例えば家庭の食卓に留まるのか、居酒屋やレストランなどの外食も対象とするのかでは新規事業の検討範囲は大きく異なる。

さらに「周辺カテゴリー」まで広げると、ライフスタイル領域、美容・健康領域、育児領域など、さらに多くの可能性が見えてくる。

既存ビジネスに近い事業ほど着実性が高く、既存ビジネスから遠い事業ほど新奇性が高くなりやすい。

そのため、この段階では固定概念に捕らわれることなく、広い視野でもって3つのビジネス領域についてしっかりと検討しておくことが、着実性と新奇性のバランスが取れた新規事業開発を進めていく上で重要となる。

ここで気を付けるべきは「カテゴリー」という単語である。 果たして「カテゴリー」とは誰が決めるのであろうか??

世の中で決まっているカテゴリー、いわゆる「みんな」が思っているもの。これは意外とあてにならない。多くの場合、どこかの業界が、陳列や在庫の整理のために、もしくはメディアが分類わけのために、はたまた投資家/証券業界がセクター分類のために。だれかが何かのルールに従って、類似性で整理する/比較するために決められていることが多い。

2つ目の決まり方はお客様の意識による分類である。意識・無意識を問わず何かを理解や比較する際に、類似性で考えることが多い。カテゴリーブランディングにおいては、まさにこのグループ=カテゴリーを、現在のお客様の理解から移動させたり、新たなカテゴリー自体を生み出したり、といったことをする。このお客様視点でのカテゴリーはメディアの影響も受けながら変化していくものである。

3つ目の決まり方。これは自社がどう定めるかである。主に自社事業領域や製品サービス領域を分類するため。はたまた管理会計やIRでの定義のために、分類し、その分類のどこに自社商品が置かれるか、今後の事業や製品ポートフォリオを定めるために整理する。その際に、1つ目の世間や業界で規定されたカテゴリーや現在のお客様認識でのカテゴリーを参考にすることが多い。 そして、そのカテゴリーの定め方で自社ブランドのポジショニングが整理され、また事業戦略が定められていく。そのために、自社が定めるカテゴリーには、既存(自社が行っている)と新規(現在行っていない)領域という定義が生まれる。

このように、自社のビジネス領域という「カテゴリー」をどのように定めるのかは、その企業が自身の提供価値をどのように捉え、どのような市場/業界でどのようなポジションを得ようとしているのか、によって大きく左右される。

提供価値の規定方法については、こちらの記事に詳しく記載があるため併せてご覧頂きたい。

(図1)3つのビジネス領域(カテゴリー)

 

新規事業開発Step 1. 業界トレンド分析×生活者インサイト分析×ビジネスモデル分析

新規事業開発を行うにあたり、いきなりアイディア検討に入ることは望ましくない。事前に、必ずしておきたいことは情報収集である。

Step 0.で規定した3つのビジネス領域に関連した、正確には「関連しうる情報」を予め収集・分析しておくことで、今後のアイディア検討が各々の思いつきではなく、事実に基づく議論になるよう方向付けることができる。

そして、この「関連しうる」という匙加減がプロセスの成否を左右する。情報の広がりは、アイディアの新規性やひらめきに大きく寄与する。一方で、収集の手間と使いこなせないばかりか混乱し良いアイディアが生まれないことにもつながりうる。

そのため博報堂コンサルティングでは、収集・分析しておきたい情報として3つの対象を規定している

1つ目は、「関連カテゴリートレンド」である。

自社を取り巻く各業界において、どのような取り組みが成功しているのか、成功している取り組みにはどのような特徴があるのかを知ることで、新規事業アイディアの種にするのである。トレンド収集をする際には、Step 0.で規定した既存ビジネス、既存カテゴリー、周辺カテゴリーのすべての領域を網羅することで、これからの議論において着実性の高いアイディアも新奇性の高いアイディアも、どちらも検討できるよう討議の土台を整える。

関連カテゴリートレンド分析の取りまとめとして博報堂コンサルティングで用いるのは、アイディア創出の視点となるいくつかのアイディア着想カードである。「アイディア着想カード」とは、収集した各トレンド情報の「ユニークネスポイント(成功を導き出した独自性)」を抽出し、それを今後のアイディア創出の視点として直感的に分かりやすい一言に集約したものである。「アイディア着想カード」の活用方法については、Step 2.にて解説する。

 

 

サービス紹介:トレンドパック

関連カテゴリー(業界)トレンド分析において役立つツールが「トレンドパック」である。トレンドパックとは、衣食住+芸術・音楽・エンターテインメントといった幅広い分野における生活者の意識・潮流について様々な媒体から情報を収集し、博報堂コンサルティングが独自に分析、とりまとめたレポートパッケージである。

トレンドパックは新規事業開発において活用されることを想定して作成されているため、事例を理解する上で必要となる基本情報だけでなく、事業アイディアを創出するにあたり必要となる視点による分析も加えられている。その事例が生まれた世の中の流れである「社会背景」、事例が際立って見える理由である「ユニークネス」、事例を実現させた「仕組み」という3つの視点から事例を読み解くことにより、ただその事例を真似るのではなく、その事例の成功に隠されたポイントを抽出して自社領域への応用しやすいよう整理されている。


※「トレンドパック」についてより詳しく知りたい方は、資料をお送り致します。お問合せください。

 

 

2つ目の情報は、「生活者インサイト」である。

ここで言うインサイトとは、生活者の購買を後押ししている根本的な動機や要因を指す。デプスインタビューやグループインタビューを通じて、生活者の購買行動、商品やサービスを選定する際の重視点、また商品やサービスに関するお困りごとについてヒアリングする。

しかし生活者に直接訪ねただけで、ユニークなインサイトが出てくることは稀だ。実際には、価格が重要である、品質が重要であるといった、誰もが想像しやすい動機が出てくることの方が多い。

そのため、発見のある生活者インサイトを引き出すためには、「なぜそのように買うのか?なぜそれが重要なのか?なぜそこに困っているのか?」など。なぜ?を何度も繰り返し、深堀していくことが求められる。(図2)

収集・分析された「生活者インサイト」の活用方法についても、Step 2.にて解説する。

 

(図2)生活者インサイト導出イメージ

 

3つ目の情報は、「ビジネスモデル」である。

新規事業を成功に導くためには、事業を持続可能にする強固なバリューチェーンと収益モデルを構築することが望ましい。しかし、0からこういったモデルを起案し組み立てることはかなり難易度が高い。

そのため、他業界で成功しているビジネスモデル事例を収集し、いくつかのパターンにまとめることで、新規事業の収益モデルを検討する際に活用できるようにすることが有用である。真似をすることも含め、下敷きとするのである。

他業界では当たり前に行われているビジネスモデルが、自業界においては実施されていないというケースも多く、他業界や他事例からヒントを得ることのメリットは非常に大きい。

また生活者意識の変化やデジタル化の流れを受け、これまでには存在しなかったビジネスモデルも多く出現しており、ビジネスモデル起点で関連カテゴリーが再整理される/UIUXの変化により新たな生活者インサイトが生まれる、といったことは多く、新規事業開発をする際には常に情報をアップデートしておくことは必須といえる。

 

 

 

新規事業開発Step 2. アイディア発想(新奇性重視の検討)

ここまでは議論の素地を整えるため、新奇性と着実性のバランスを取りながら準備を進めてきた。しかしStep 2. のアイディア発想というフェーズでは、新奇性の方に大きく舵を切る時である。

本当にそんなビジネスが可能なのか?現実的ではないのではないか?などと言った理性の声に一旦蓋をし、新しい!面白そう!というワクワク感に任せて様々なアイディアの可能性を出すことが重要となる。Step2.で行うのは、いわゆる掛け算によるアイディア発想法である。

 

「アイディアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」

ジェームズ・ウェブ・ヤングの有名な言葉にもある通り、全く何もないところから新しいアイディアが思いつくということではなく、既に我々が知っている食材を新しい組み合わせで調理することこそが、斬新なアイディアに辿り着く近道なのである。

以下のフレームワーク(図3)をご覧頂きたい。

表頭にある言葉は全てStep 1.にて収集した業界トレンド分析から抽出された「アイディア着想カード」のものであり、表側には同じくStep 1.にて収集した生活者インサイト分析から得られた生活者の困りごとやニーズに関わる言葉が並んでいる。

このフレームワークを活用し、表側の生活者インサイトに対し、表頭のアイディア着想カードを使ってどのように応えることができるのかを考えることで、強制的に新しいビジネスアイディアを発想することが可能となるのである。

ここでのポイントは、インサイトとアイディア着想カードによって、多くの人に起案をしてもらうことと、その類似性や関連性を「お客さまや市場」インサイトにおける課題解決の類似性によってまとめ上げるファシリテーションである。

※フレームを用いたワークショップ、アウトプットイメージや、これらのプロセスを用いたプロジェクト事例をより詳しく知りたい方は、個別にご紹介いたします。お問合せください。

 

(図3)アイディア創出フレーム 表頭・表側の軸設定が重要

※本フレームワークはあくまでもアイディア発想を支援するためのツールであるため、全ての枠を埋めることが目的ではない。また、仮に検討を進める上で表頭や表側と一見関連がなさそうなアイディアが生まれた場合も、排除することなく書き出しておくことも大切である。のちに行う「グルーピング」によってアイディアが生きてくることもあるためである。

 

おわりに

ここまで、新規事業開発におけるアイディア創出の成功ノウハウとして、5つのポイントのうち2つまでを説明してきた。博報堂コンサルティングで用いるツール「トレンドパック」や「アイディア創出フレーム」の案内をしてきた。

事業アイディアを成功に導くのは、優秀なアイディア以上に、有効な「問の立て方」である。

そのためにも、領域(カテゴリー)を明確に決め、なにについて、なぜ事業開発をするのか、という起案のためのお題を出すことが重要である。

次回は、その立てたお題をいかに事業アイディアにし、さらに事業化するのかについて提示したいと思う。

 

執筆協力: 吉田寿美(フェロー)

 


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