<第2回>インターナルブランディングで現場から起こす企業変革 ~バリューコマース 成長し続ける組織への挑戦~

栗原 隆人

栗原 隆人エグゼクティブマネジャー

  • 組織改革・人材育成

バリューコマース株式会社は、商号を変更し、アフィリエイトサービスを提供しはじめて20周年を迎える2019年に向けて、インターナルブランディングに取り組んでいる。同社の代表取締役社長である香川仁氏は、インターナルブランディングを推進する過程で何を考え、会社の変化をどう感じているのだろうか。
2018年に新しい企業理念『ともに拓く』を掲げてから約1年の月日を振り返りながら、現在の心境を語っていただいた。


●さらに飛躍するための組織改革

新しい企業理念『ともに拓く』を聞いたとき、アフィリエイト本部コンサルティング1部の部長を務める土橋崇之氏は、しっくりこなかったと言う。

ヤフー出身で、社員が自由闊達に意見を述べ、新しいプロジェクトを実行していくような環境に長く身を置いてきた香川氏から見ると、バリューコマースの社員は「優秀で何か指示があれば結果を出せる社員が多いのに、自ら行動できる人は少ない」と感じられたという。そこで2014年に社長に就任した際に、「追求する」「挑戦する」「スピード」「エンジョイ」という4つの行動指針を掲げた。

「当時からめざしていたのは自走型の組織です。会社の主役はあくまで社員です。4つの行動指針を打ち出し、より社員が動きやすいように人事制度を見直すなどしましたが、もっと自由闊達に意見が出し合える社風になればという思いが常にありました」(香川氏)。

アフィリエイトサービスを日本で最初に提供し、業界のパイオニアであるという自負はあるものの、ASP(アフィリエイトサービスプロバイダ)として売上高でトップの地位を他社に明け渡し、ここ数年のバリュ―コマースはもどかしさを抱えた【沈黙期】にあったといえる。

博報堂コンサルティングからインターナルブランディング推進に向けた提案を受けた香川氏は、20周年という節目を目前に控えた今こそ、パイオニアとしての誇りを再確認することで、企業として成長していくために最適なタイミングだと考えた。

「激動の時代にあって、会社が20年持ちこたえたということは非常に大きなことです。20周年という節目の時を迎えるにあたり、会社のロイヤリティや業務を見直し、お客様と共有しながら、次の10年、20年先につなげていきたいと考えました。ただ急に明日からインターナルブランディングをやりますと言っても浸透しにくい。こういった施策はシンボリックなことに紐づけて考えるほうが動きやすいと思います」(香川氏)。

 

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●戸惑う社員たち

新しい企業理念である『ともに拓く』を社員にお披露目し、バリュ―コマースが【宣言期】に入ったのは2018年1月末のことだ。

「社員の前に立って話していると、失笑ともとれる反応がありました。何を始めるのかと複雑な顔をしている社員が多かったです。新しいことを進めていく過程ではいろいろなことが起きます。それは当然のことだと受け止めればいいだけですし、社員から「あー、また香川さんが…」と言われるのは慣れていますから(笑)」 (香川氏)。

企業のトップや一部の意欲ある社員が改革的なことを始めたいと声を挙げても、「何をやっても結果は同じ」と冷めた表情を見せる社員は、どんな会社にも少なからずいる。むしろ、そのほうが大多数になってしまうこともある。実際バリューコマースでも、施策ごとに実施するアンケートには否定的・懐疑的な声が少なくない数で現れ始め、インターナルブランディングの推進を担う担当者が明らかに疲弊していく…という事態に陥った。
バリューコマースは、インターナルブランディングの推進を宣言したものの、 多くの会社が迎える【失笑期】に足を踏み入れた。

ここで歩みを止めず、さらに施策を進めていくことが重要になる。
次の一手は、香川氏を筆頭に各部門長の写真が大きく扱われた宣言ポスターの公開だ。『ともに拓く』を周知させるためのポスターだが、香川氏ですら作成中はどのようなデザインになるのか見せてもらえなかったという。

インターナルブランディングの推進において音頭取りの役割を担った広報担当の阿久津樹里氏は、「あえて見せなかった」と話す。インターナルブランディングは、社員が主体となって取り組まなければ、良い方向に進まない。トップダウンで行うものではないという思いの強かった阿久津氏は、「現場の裁量に任せてもらう」ことを重視した。その思いに香川氏はもちろん同意。実行していく過程においての判断はすべて社員に任せた。

「部門長によって反応に温度差がありましたが、会社として決まった以上はやりきろうとみんなが腹をくくったのだと思います。むしろ決まってしまえば実現に向けて、楽しみながら考えることができる社員が多いのは当社の強みです。私個人でいえば、写真を撮られるのは好きではない。極力目立ちたくないというのが本音ですが、私も腹をくくりました。社員の前で話す前には毎回、なるべく明るく、親しみのある、思いがきちんと伝わる話し方をするように、言葉選びも含め阿久津さんに徹底的に矯正されました。これはかなり辛かったです」(香川氏)。

これは実際に社内アンケートで挙がっていた意見だが、香川氏が社長室のドアを閉めっぱなしにしていたことで、「自分たちを避けている」と感じていた社員がいた。しかし実際はドアを開けていると社員と目が合うので、仕事がやりにくいだろうという香川氏なりの配慮だったのだ。

こうした食い違いは日常的に起きる。社員に近寄りがたい存在だと思われている社長は世の中に五万といるだろう。社員が社長との距離を遠いと思っていれば、社長の言動を冷たく感じる。しかし社長との距離が近いと思っていれば、些細なことも好意的に受け止められる。実はこの「コミュニケーションにおける食い違い」について、香川氏はこの例を含め、自身の失敗談を全従業員の前で赤裸々に話したことがあった。その後の社内アンケートでは、「今までの香川さんの話の中でダントツにおもしろかった」「社長があそこまで失敗談を話してくれることにものすごく親近感を感じ、内容にもとても共感した」と、総じて高評価を得た。『ともに拓く』を伝播させていくためには、香川氏自身も“自分を拓く”必要があったのだ。

 

●社外からの反響が追い風に

社内に部門長の宣言ポスターが次々と貼り出されていた時期とも重なる2018年3月9日。広告主やアフィリエイトサイト運営者などを集めて毎年開催している「バリューコマースサミット」で、社外にも『ともに拓く』を伝えた。クライアントやビジネスパートナーにとって不可欠な存在になり(Best Relationship)、一緒に仕事をしてよかったと思われる会社になる(Best Performance)。そのためにまずは自分たちが変わっていくと宣言したのだ。

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「参加者のみなさんからは好意的に受け止めていただきました。その反響の高さに社員たちが、改めて自分たちの取り組みの意義を感じ、これまでアフィリエイトサービスに真面目に取り組んできたことへの誇りを取り戻した。結果として、インターナルブランディングの推進速度が増したという感じはあります」(香川氏)。

トップたちが腹をくくり、失笑されてもむしろ楽しみながら前に進む姿勢を明示したうえで、社内の雰囲気が少しずつ変わってきた。
「ここでの会話は、宣言集に載せること以外は絶対に外には出さない(だからぜひ正直に、赤裸々に意見を聞かせてほしい)」という約束のもと、部門ごとに開催したワークショップでは、仕事や会社のこと、働き方など日頃からふつふつと抱えていた思いを社員が発散させていく。このステップは、【失笑期】から【伝播期】を経て、【発散期】へと会社全体を前進させる力を備えていた。

部門ワークショップには香川氏をはじめとする経営層や部長以上の社員は参加していない。約束通り、話し合われたことをまとめた「“ともに拓く”部門ワークショップ宣言集」だけが社内で公開され、香川氏にも手渡された。それを、香川氏は社長室で3時間以上も読みふけっていたという。sengensyu1

「写真を見るとみんながいい顔をしていて、それが素直にいいなと思った。今まで言えなかったことを吐き出してすっきりしたのかもしれないけれど、有意義な時間を持ったのだということが想像できました」(香川氏)。

インターナルブランディング推進での効果は、売上など明確な数値に落とし込めるものではない。社員のモチベーションが高まり、結果として生産性が向上し、利益が上がったとしても、具体的に「ここに効果が出ています」と断言しにくい。

「それでも会社の利益につなげたいし、社員の幸せにも結びつけたい。その両方が成り立たないと、こうした施策は意味がないと思っています。現段階では社員の思いや行動が、まだ点の状態でバラバラしています。それが線としてつながって組織全体としてまとまりが出てくれば、会社の発展につなげていけるはずです」(香川氏)。

 


企業のトップとして、先頭に立って自分を拓いた香川氏。そんな香川氏の変化をどう受け止め、インターナルブランディングの推進に取り組んだのか。次回からは、当事者である社員の方々に話を聞きながら、現場から組織を変えていくために必要なことを模索していきたい。

 

>>第3回に続く

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