<第2回>BtoB企業におけるブランディングの意義と可能性

  • ブランド構築
  • マーケティング

3.BtoB企業におけるブランディングの必要性と要諦

そもそもBtoB企業にブランディングは必要なのか?本稿の読者の中にはそうした疑問を持たれている方も少なくはないだろう。BtoB企業の製品・サービスは世の中一般の人の目に触れる機会は決して多くない。消費財やサービス財のように、生活者に対して積極的なマス広告や販促活動を通じて認知向上し、販売に繋げていくような手段も考えにくい。ブランディングの効果が期待できないと言うのが、従来の常識だった。

不特定多数の個人が、感覚的な判断で様々なチャネルから購買できるのがBtoC企業の製品やサービスにおける取引特性である。これはBtoB企業のことごとく逆を行くものである【図4】。しかしながら、実際にはBtoB企業の方がよほどコーポレートブランドを必要としている。それは何故か。ヒントはBtoB企業の購買プロセスにある。

 

【図4】BtoB/BtoC企業の取引特性

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【図5】にはBtoB企業における典型的な購買プロセスを示した。これを見ると確かに、一般消費財のように「そのブランドの名前を思い出して、衝動買い」などの事態は起こらないと解る。BtoB企業の場合、取引関係が合理的・組織的で購買プロセスが明確なことが大きな特徴なのである。購買プロセスの各段階で関与者が存在する。例えば社内で案件化を図るとき、現場担当者(発案者)は自社の抱える問題認識を明確化する。どの会社ならば自社の問題に応えてくれるのか。この段階で問い合わせや社内起案のテーブルに載ることが重要になる。ここで最小限のブランド認知や理解がなされていないと厳しい戦いになる。起案されて社内で稟議に掛けられる段階に至ると、幾つかの候補企業の中から絞り込まれることになる。導入する製品やサービスは当然ながら比較の対象になるだろう。それだけではない。候補企業はどのような戦略や長期展望を有しているのか、企業対企業の取引だからこそ、目指す方向性や経営の安定性・人材など多角的な視点から企業が評価されることになる。ここにもコーポレートブランドが効いてくる。新規取引の側面だけではない。既存取引でも特定顧客に浸透するためにはブランディングが有効に働くのだ。

 

【図5】BtoB企業における購買プロセスとブランディングの効果

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BtoB企業におけるブランディングの要諦をまとめると以下のようになる。

① 取引先企業における購買プロセスの段階を意識した情報提供を試みること
② 自社が中長期的に目指す姿や方向性(戦略やビジョン)を伝達すること

BtoB企業は往々にして長期に渡る企業間取引が前提となる。自社製品・サービスの特徴を伝達するだけでは、たちまち競合企業との間のスペック競争に陥ってしまう。これでは何度コンペティションを繰り返してもきりが無い。個別の製品・サービスの特徴を超えた競争軸を創ること。それがコーポレートブランドに他ならない。

次項ではこれからのBtoB企業におけるコーポレートブランドの可能性について述べ、本稿を締め括ることとする。

  

4.BtoB企業におけるコーポレートブランドの可能性

本稿では冒頭に「コーポレートブランドを再構築しようという動きが活発化」と述べた。筆者は企業のブランディングに携わって十余年が経つが、2000年代前半のブランド戦略構築のように、全社を挙げた取り組みとして、BtoB・BtoCを問わずブランディングの気運が高まっているように感じる。その要因として考えられることは幾つか挙げられるが、やはり2020年に控える東京オリンピック・パラリンピックを1つのメルクマールとした中期経営ビジョンの策定や縮小する国内市場を尻目に加速化するグローバル展開、何よりデジタル技術の進展による企業変革の波が待ったなしで訪れていることが大きな影響を及ぼしている。本稿の冒頭で筆者は「コーポレートブランドを『再構築』しようという動き」と述べた。かつて、自社の意思統一や顧客志向の導入、事業活動の目線合わせのために「構築」してきたコーポレートブランドは、ここに来てグローバル展開やデジタルマーケティング、企業による社会課題の解決など、複合的なテーマを昇華する方法論として多くの企業に目されている。筆者はこの動きを「コーポレートブランドの再構築」と呼びたい。

いまから数年前になるが東京オリンピック・パラリンピックの開催決定とほぼ時を同じくして、2020年を目標地点に据えた中長期経営計画・長期ビジョンの見直しを図る企業があまた現れた。このタイミングで自社のブランド構築を見直そうとする動きも当然見られた。国内市場が成熟化を辿る中で、海外に成長市場を見出す企業や生産・販売拠点をシフトする企業も増加した。現地企業とのコラボレーションやM&A加速のためには、異なる言語・ビジネス慣習でも説明可能なように自社のフィロソフィや目指す姿・世界観などを体系的に整理するとともに、その価値観に対してのエンゲージメントを高めてもらう必要があった。これは取りも直さず、コーポレートブランドを再構築し展開する作業に他ならない。BtoB企業の場合は特に多くの中間事業者の連携でビジネスが成立している。そして、それらの動きの前提にはITの進展すなわちデジタル化がある。企業を取り巻く様々なデータが測定可能かつ可視化されるようになった中で、顧客との取引においても従来とは異なる形でのニーズ発掘や情報共有、製品サービス提供が可能となった。コーポレートブランディングはこうしたデジタル技術進展の中で獲得したデータを活用しながら、従来とは違うダイナミズムを見せることになる。ブランディングにデジタルマーケティングの技術を練り込んだ方法論を確固たる形で築き上げた企業はまだ存在しない。しかし、その登場もそう遠くはないだろう。

「BtoB企業だからブランディングは関係ない」はもはや過去の話である。本稿をきっかけに一人でも多くの読者の方にコーポレートブランドの構築について関心を持って頂き、その思いが自社のブランドを光輝かせることに繋がるのであれば、コンサルタントとして望外の幸である。 

>>終

 

※本コラムは、一般社団法人日本海運集会所(http://www.jseinc.org/)発行の総合物流情報誌『KAIUN(海運)2017年7月号(No.1078)』に掲載された寄稿記事「BtoB企業におけるブランディングの意義と可能性」の内容を転載しております。


■「BtoB企業におけるブランディングの意義と可能性」連載(全2回)


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