アセアン市場における日本企業の課題 ― リージョナル・ブランディングによる競争力強化 ―

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日本企業にとっての最後の砦=アセアン市場

約20年間にわたり、世界経済の成長を担ってきた中国経済の成長が鈍化し、その座は、徐々にインド市場やアセアン市場といった新しい担い手に引き継がれようとしています。特にアセアン市場については、戦後以来、日本が経済支援を行ってきた国々であり、親日的な国民性としてもよく知られており、多くの日本企業が長年にわたり高い支持を得てきました。

2015年に始動したアセアン経済共同体(AEC)の設立は、アセアン経済の自立を促し、経済発展をより確かなものとしていくための試金石となる出来事ではありますが、一方で、日本企業にとっては、欧米及び韓国のグローバル企業、中国やアセアン現地の新興企業との激しい競争の中で、より一層の競争力強化が迫られてくると考えています。

 

日本企業の足かせとなるマーケティング力の弱さ

日本企業の競争力の源泉は、依然として深い技術力に裏打ちされた「高い品質」にあると考えます。博報堂が行っている2015年のGlobal HABIT調査の中で、各国生活者における「生産国イメージ」に関する質問がありますが、この中で、日本製の「高品質」イメージは、米国、欧州、韓国に比べて突出して高いスコアを得ています。

シンガポールでオフィスを立ち上げて以来、私が強く感じているのは、この日本企業の強みが、マーケティング活動の弱さのために、アジアの生活者にとっては、特徴が複雑でわかりにくく、(やや)時代遅れで魅力的でないものとして伝わってしまっているというもどかしさです。

その点、韓国企業は、優れたマーケティング活動により、アジア市場において急速に市場シェアを拡大しています。その勢いは、家電、自動車に留まらず、近年は化粧品や食品などにおいても急速に存在感を増しています。その違いを端的に言えば、「素早さ」「明快さ」「大胆さ」の違いであり、マーケットイン型のマネジメントにあると私は考えます。

 

地域統括拠点を通じた市場対応力強化の動き

グローバル企業の多くが、拡大するアセアン市場への対応力強化を目的としたリージョン統括拠点を設立しています。日本企業においても、業界や企業規模に関わらず、リージョン統括拠点を設立しています。

JETROシンガポールが2015年に行ったリージョン統括拠点に関する調査(注1)によると、その設立目的は、「域内の管理統制機能強化」「グループ企業とのシェアードサービス利用による効率化」に加え、「域内グループ企業との営業連携強化」「意識決定の迅速化、市場ニーズ対応の経営実践」があげられており、アセアン市場でのマーケットイン対応力強化への期待が現れています。

しかし、その実態は、多くのリージョン統括拠点が、ローカルと本社との間に挟まれ、本来果たすべき、アジア市場に合ったマーケティング活動への機敏な意思決定を行うことができず、苦しんでいます。実際、私もリージョン統括拠点のリーダーの方々と情報交換する機会も多いのですが、皆さんから、以下のような声が上がってきています。

「本社から、顧客調査や市場データをリクエストされるが、リアリティのあるローカルの実態については、リージョン統括で把握しきれていないため、一般的な情報しか提供できていない。」

「ローカル拠点から、マーケティング予算をサポートして欲しいと頼まれるが、事業予算の決定権は本社側にあり、リージョン統括が関与することができず、税制上も直接的なサポートができないことが多い。」

「本社からブランド規定や商品特徴の説明が下りてくるが、ローカル社員にとっては難しくてわかりにくいものが多くあり、アジア市場の実態とかけ離れたものと感じることも多いため、結果ととして、ローカルが独自で販売プロモーションの企画・実施を行っている。」

 

リージョン単位でのマーケティング力強化に向けて

アセアン市場は、元来、様々な経済水準、人種、宗教が入り乱れる複合的な市場であり、社会インフラ、生活者の意識、政治的な変動も大きいため、各国への個別の対応が必要となる難しい市場でした。政府の外資参入規制も厳しく、各国の優良企業との関係構築によって大きく市場シェアが異なっていました。

それが、AECの設立を契機に、(徐々にではありますが)一つの市場として一貫したマネジメント体制による対応が可能となっていくと思われます。特にマーケティングの側面から見れば、ローコストエアライン、ソーシャルメディアなどの普及により、人と情報の往来が加速しており、特に若い世代における市場の均質化の傾向が見られます。

実際に、バンコク、ジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、ホーチミンといった各国の都市を見る限り、人々が持っているスマートフォン、街を歩く人のファッション、ショッピングモールに入っているレストランなどのお店は、以前に比べて驚くほど似てきています。

それだけに、リージョン単位での「素早さ」「明快さ」「大胆さ」を兼ね備えたマーケティング体制の構築は、日本の強みである高い品質を活かして、欧米や韓国のグローバル企業と戦うために不可欠であると考えます。

注1: JETROシンガポール「第4回在シンガポール日系企業の地域統括機能に関するアンケート調査」(2015年12月)

 



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