<第2回>オムニチャネル時代の流通との関係性 ― メーカーがしかける流通ガバナンス

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流通へのブランディングとガバナンス

BtoBにおけるマーケティングとブランディングは、些か個人向けよりは複雑であるといわれている。関与者が増えるため、コンタクトすべき人が複数になる。プロセスが長いためコンタクトするタイミングとその際の内容(コンテンツ)を組み合わせる必要がある。なにより、これらの対象者やプロセスが異なる場所にいる(店舗と本社といった物理的に異なる場所にいる)といった困難さもつきまとう。

たとえばBtoB企業であり、ギアなどのコンポーネントを提供する企業である「シマノ」は、いまでは至極当たり前に思われる「高級街乗り自転車」市場において、取引先である完成車メーカーに対するブランディングを行っていた。

・生活者におけるハイエンド自転車の利用オケージョンの喚起
_→街乗りやポタリングを通した「自転車の楽しみ方」の拡散による市場創造

・販売店における販売・メンテナンスの支援
_→販売店における高額自転車仕入リスクと顧客対応負荷の低減

・完成品メーカーに対して、「高級街乗り自転車」の完成品イメージやスペックの提供
_→完成品メーカーに「つくるべき自転車像」を提示
_→なにより、完成品メーカーの下流において「安心して(つくって)売るしかけ」を提供

このように、バリューチェーンのすべての登場者(エンティティ)に対してシマノは働きかけを行っている。

BtoBの顧客である完成品メーカーに対するブランディングは、局所的には製品開発支援を通した自社商品の選好度の向上だが、バリューチェーン全体をコントロールしている。つまり「流通のガバナンス」を効かせることで、自社のブランドを際立たせつづける「しくみづくり」をしていると言える。

シマノのケースから見出されるメーカーにおいて参考にすべき示唆として、2点に要約される。

  1. 素材や部材といった調達の上流から生活者の購入・利用にいたる「バリューチェーン」全体を俯瞰し、コントロールすること
  2. 流通に対して、「自社を選ぶ理由」を明確に示す活動を「ブランディング」として行うこと

いずれにせよ、自社がセールス(売る)する、ではなく、顧客がバイイング(買う)するために、自社と流通との関係性をガバナンスしていくことが成功につながるということである。

しかし、このようにバリューチェーン全方位に施策を実施するにあたり、一体いくら費用がかかるのか?施策のための人員を張りつけても、リターンが見合うのだろうか?といった、費用対効果への不安がよぎる。

 

選択と集中のための判断材料を用意する

メーカーにとって、マーケティング予算はセールスやフィールドの人件費や人工もふくめ有限であり、成果を高めるために選択と集中をせざるを得ない。その時に、どこに集中すべきか、なにをもって判断するかという「材料」が必要になってくる。

特に多くの企業では、そもそも営業部署、宣伝部、広報部といった役割別に人と予算がはられており、それらを横断した活動を行いにくい環境にある。

現在のデジタルトランスフォーメーションの時代、我々も提唱するCMO(Chief Marketing Officer)やCDO(Chief Digital Officer)という役職や部署、機能をおいて横串をさすことで、施策の連動性を高め、成果を最大化する試みは進んでいる。
しかし、そういった組織があった場合においても、やはり活動を横並びにして評価するための手段がなければPDCAを回すことができない。

そこで用いるのが、mROI : marketing ROI という仕組みである。
すでに博報堂グループでも、数多くの運用を行っているが、多くのケースが「広告予算の配分」のために、個々の宣伝広告活動と売上や利益の相関性をモデル化し、計測・評価する仕組みである。今回の価格変更は売上に影響を与えたのか?前期の売上変化の要因はどのコミュニケーション活動なのか?といったことを計ることができる。

一方で、その売上・利益への変動要素として忘れてはならないのが、流通に対する投資、つまり、リベートや入れ値といった「条件」および店頭プロモーションなどである。これらの広義でのマーケティング費用全体において、最も売上に影響を与えたマーケティング活動と費用が何かを分析することで、ひいては流通に対する条件などが適切であったのか?今後増やすべきか減らすべきか?といった「流通との関係性」を客観的に見直す材料となりうる。

 

まず買い手の視点に立ちもどる

メーカーが流通との関係性を深め、生活者との接点を遠隔でコントロールするための施策は様々である。
いずれの施策であるにせよ、

①来店前購入意向
②来店後購入意向
③レジ前購入意向
___
__購入

といった、買い手の購買プロセスを想定し、どのプロセスの「コンバージョン」を獲得するのか、つまり、どの段階にボトルネックがあり、もっとも影響を与えうる施策は何かを考え、打ち込んでいくことが肝要となる。

その他の施策についてのご紹介はまたの機会としたい。

 

参考文献:

  • 余田拓郎・首藤明敏編著 「実践 BtoBマーケティング: 法人営業 成功の条件」 (東洋経済新聞社、2013年)

■「オムニチャネル時代の流通との関係性」連載コラム一覧


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