アートシンキングはイノベーションに寄与しうるのか? ~デザインシンキングとアートシンキングの対比~

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昨年末に「アートシンキングはイノベーションに寄与しうるのか?」と題して、セミナーを実施しました。「アートシンキング」というバズワードとなりつつあるテーマだったことに加え、世界中のメディアで話題のアーティスト・市原えつこさんにもゲストでご登壇頂いたこともあり、多くの方にご参加いただきました。
今回のコラムでは、当日ご来場できなかった方のために、どんな話をさせていただいたのか、簡単に概要をまとめています。


●アートシンキングの盛り上がりと、セミナーテーマ

多くの企業において、イノベーション創出や新規事業開発が経営課題となっている中、ビジネスやイノベーションに寄与するものとして「アートシンキング」に注目が集まっています。大きな潮流で言えば、テクノロジーの勃興、経営理論やロジカルシンキングの定着に伴う反動としての側面があります。

そんな大きな潮流がある中で、最近の急激な盛り上がりのきっかけの一つとしては、STEAM教育があります。元々、Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取ったSTEM教育が、オバマ大統領時代からアメリカの国家戦略として掲げられていました。しかし、最近ではArt(芸術)が重要であるとして、STEMにArt(芸術)を加えたSTEAM教育が提唱され始めことをきっかけに、アートへの注目が高まりました。また、世界のビジネスエリートがMBAだけではなく、MFAとよばれる美術学修士(Master of Fine Arts)を取得する動きが高まっています。これら以外も含めて、様々な事実や事象が世界的にアートやアートシンキングへの注目を高めたのです。 そして、日本でも「アート」「美意識」「直感」等をキーワードにしたビジネス書がここ1・2年で数多く出版されています。

ただし、ここ数年、アートシンキングに関する多くのビジネス書が出てきているものの、デザインシンキングとは異なり、アートシンキングの思考プロセスや方法論は、主だった見解に未だ収斂されていません。また、デザイナーとアーティストの出自を辿ると、いわゆる芸術大学や美術大学出身の方が多く、アートシンキングの思考プロセスや方法論が収斂・定着していない状況と相まって、「デザインシンキングとアートシンキングは同じなのではないか」という疑問を持つ方も一定数いるような状況です。

そこで、今回のセミナーは、「アートシンキングとは何なのか?」「デザインシンキングとアートシンキングは同じなのか、異なるのか?」、さらに「アートシンキングはビジネスやイノベーションに寄与しうるのか?」という問いをテーマに据えて、実施させていただきました。

●デザインシンキングとアートシンキング

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セミナーの前半では、「アートシンキングとは何なのか?」「デザインシンキングとアートシンキングは同じなのか、異なるのか?」デザインシンキングとの対比の中で、アートシンキングの思考プロセスや方法論に対する、我々の見解をお話させていただきました。 デザインシンキングはプロダクトデザインが源流にあり、デザイナーがプロダクトやサービス等を設計する際の思考プロセスや方法論です。 一方、アートシンキングはアーティストがアート作品を創作する際の思考プロセスや方法論となります。

これらの定義に基づいて、双方の思考プロセスや方法論を俯瞰して見ると、人間を中心としていることやアジャイル型で進めていくなど、確かに重複する部分もあります。しかし、アウトプットやその目的、志向が異なるため、両者には差分があります。ポイントとなる差分、つまり、デザインシンキングと対比した際のアートシンキングの特徴は3つあります。もちろん、単純化した場合の見解になりますので、全てのアーティストの方に適用されるわけではないという点、ご留意ください。

①課題解決以上に、主観的なテーマ/課題発見

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現在、多くの企業に取り入れられているデザインシンキングは、仮説ドリブンで手を動かし、ユーザー検証を通してなるべく客観的に仮説を評価・修正しながら、課題解決の精度を高めていくことを重視しています。アーティストも、同様のプロセスを取り入れていることがあります。
しかし、それ以上に、アーティストはそもそもである自分が扱うテーマや課題自体の発見を重視しているのです。「自分は何をテーマにしたいのか」「どんな課題を解決したいのか」、自分の心の中を内省することに時間を費やしています。

②生活者の洞察以上に、社会の洞察

デザインシンキングとアートシンキングは、どちらも人間を設計の中心に据えています。ただし、デザインシンキングでは、特にビジネスの現場で活用される場合には、ユーザーや生活者の発言や行動を洞察して示唆を得るケースが多いです。一方で、アーティストは、ユーザーや生活者のリサーチも実施しますが、それ以上に、社会で起こっている現象やそれを取り巻く社会コンテキストの洞察を重視しているのです。

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③ユーザーとの対話以上に、専門家との対話

先ほども述べたように、デザインシンキングでは、仮説ドリブンで制作したプロトタイプをユーザーテストにかけながら、プロダクトやサービスの品質を高めています。アーティストも、ユーザーを巻き込むようなプロセスで生活者との対話を実施しながら創作を進めることもあります。
しかし、それ以上に、異なる専門性を持つ専門家や関係者との対話を重視し、その対話を通じて作品の質を高めているのです。

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●アートシンキングのビジネス活用への挑戦

ここまでがアートシンキングの思考プロセスや方法論の定義について、セミナー前半でお話した内容です。更にセミナーの後半では、アートシンキングのビジネスやイノベーションへの活用可能性について、我々の考える活用可能性や方法、実績をお話させていただきました。
このコラムでは詳しくは述べませんが、アートシンキングは新規事業の立ち上げ、イノベーション創発、成熟市場におけるカテゴリー自体も含めたリブランディングに寄与しうるというお話し、その話を踏まえながら、更なる活用可能性などをゲストの方々と一緒に議論を交わしました。

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もちろん、デザインシンキングも、アートシンキングも、取り入れればイノベーションが自動的に生まれるような魔法のツールではありません。アーティストも、人生をかけて創作に取り組みながらも、時に失敗することがあります。それでも、挑戦しないことには成果は生まれません。万が一、何か失敗をしたとしても、そこから次に進めるための学びを得ようとする態度が重要になります。

今回のコラムをきっかけに、企業のみなさんがアートシンキングに関心を持っていただき、失敗を恐れずにアートシンキングに挑戦することになれば幸いです。
なお、今回のコラムは要点を掻い摘んだ内容になっております。アートシンキングのより詳しい内容や具体的な内容、またビジネスへの活用等について、詳しく話をお聞きになりたい方は、ぜひお問い合わせからご連絡いただければと思います。


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