アジアで社会通念が購買選択に与える影響とは?

Krishna Savani   

Krishna Savani   Institute on Asian Consumer Insight フェロー

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私たちは、日用品の購入などの毎日の小さな選択から、子どもの学校を選ぶといった大きな決断にいたるまで、日々、様々な選択をしている。一見、個人の好みで選択していると思っていることが、実際には、自分が望むものとは異なる製品を選択していることがしばしばある。それはなぜか?本研究では、以下の問いに答えることで、マーケッターに対する示唆を提供したい。

「社会・文化的な要因により、人々は自分の好みや意志に反した選択をすることがあるのか?」

多くのマーケティング戦略は商品そのものを訴求することに焦点を当てるが、我々の調査から、マーケティング戦略は、消費者の嗜好を変える社会的規範の力に照準を合わせていくべきであることがわかった。

INSEAD(インシアード)のモニカ・ワドワ氏、京都大学の内田由紀子氏、シンガポール国立大学のユ・ディン氏(現在はコロンビア大学に所属)、そしてラマイア工科大学のN.V.R.ナイドゥ氏からなる研究チームは、消費者の意思決定プロセスを3段階で追跡する調査を行なった。
まず、対象者にある製品に対する好意度を回答してもらう。次に、他の対象者の意見を紹介した上で、改めて、自分の好意度を回答してもらった。我々の狙いは、調査環境を変化させても、対象者の選択が首尾一貫しているのかどうかを検証することだった。つまり、社会通念(=世間での標準的な意見)がどのくらい消費者の選択に影響力を持つのかを明らかにしたかったのだ。

過去の調査結果から、アジア人は、アメリカ人と比べて、周りの人がどう考えているのかをより強く意識することがわかっていたため、今回の調査では、インド人とアメリカ人その2つの集団に、笑顔や眉をひそめるなどの表情を意図的に見せたり、世間での評価に沿った文章を書いてもらったりした上で、自分の好きな製品を選択してもらった。実験の結果、アメリカ人よりもアジア人の対象者の方が社会通念による影響を受けやすいことが分かった。

 

規範の操作

別の実験では、事前に簡単なアンケートを行い、個人の意見と全体の傾向との違いを伝えた上で、製品を選んでもらった。
その結果、アジア人は、自分の意見が全体の傾向と近いと伝えられた人は、あえて違うものを選んだ一方、全体の傾向と異なると伝えられた人は、全体の傾向に沿った選択をした。これとは対照的に、アメリカ人は、このような全体の評価によって影響されることはなかった。この結果は、アジア人とアメリカ人の意思決定の方法に明確な違いがあることを示している。

アジアの消費者は、常に自分の好みで選ぶわけではなく、社会が求めているもの、周りの人が買っているもの、周りの人が自分の選択について好意的に思ってくれるものを選ぶ傾向がある。
従って、アジア市場において効果的な戦略は、単に製品に焦点を当てるのみならず、より社会性を示唆するメッセージを含むことだ。例えば「シンガポール人の多くが選んでいる」や「同僚に羨ましがられるバッグ」、「賢い消費者の80%がすでにこのブランドを選んでいる」といった具合に。

政府が新しい社会政策を進める際にも、人々の社会通念に対する意識を利用することができる。単に政策の内容を伝えるだけでなく、政策がもたらす便益を、多くの人々が支持していることを強調することが必要である。尊敬されている国で、同様の政策が成功し、国民にも受け入れられ、政策の効果もきちんと立証されていることを示すのも有効な戦略だ。他の社会で成功しているという事実は、アジア人にとって非常に効果的である。

同様の社会的圧力は、ごみのポイ捨て、高齢者の虐待、外国人排斥といった好ましくない社会行動を減らすことにも利用できる。他人の目が光っていて、世間から厳しく批判されることを強調するのだ。実際に、ある社会活動家たちは、有名人を賢く使ってフカヒレの食用を非難し、彼らの主張を広めることに成功した。

社会通念の効果は企業活動にも適用できる。例えば、新しい医療制度やOSの導入は、従業員に大幅な変化を強いることになるが、経営側は、社員の総意に基づく判断であり、職場内の大多数が新計画を支持していて、有名なグローバル企業が既に同じシステムを使っているといった社会的評価を伝えることで、社員の理解を促すことができる。

だがこうした戦略が有効なのはアジア圏に限定される可能性があることを、マーケッターは留意すべきだ。調査が示したように、社会通念の影響を受ける傾向が少なかった米国をはじめ、他の国の消費者に対しては効果がない可能性がある。マーケッターも、経営者も、政府関係者も、異なる市場セグメントを理解し、それに合わせて戦略を変えることが重要である。
アジアで影響を与えるには、コンテンツを発信するだけでなく、製品や政策を取り巻く社会的な文脈作りにも注力する必要がある、ということを我々の調査は教えてくれた。

 

※本コラムは、アジアコンシューマーインサイト研究所(Institute on Asian Consumer Insight: ACI)の情報ポータルサイト「Insight+」に2017年2月27日付で掲載された記事 ”Social Norms Can Influence Choices Inconsistent with Preferences in Asia” を博報堂コンサルティングが和訳して転載しております。
同記事はまた、シンガポール最大の新聞、ザ・ストレーツ・タイムズ(The Straits Times)でも発表されました。



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