「マーケティングの究極の目的とは、セリングを不要にすることである」(ドラッガー)といわれるように、BtoBマーケティングの活動は、営業強化という意味合いを持ちつつも、いかに営業の負荷を下げ、選考に選ばれる=声をかけてもらえるように仕組みを構築するか、にあります。そのために考えるべき顧客の購買実態と、売り手企業における仕組みとはどのようなものでしょうか?

BtoB企業における購買は「組織」で行われる

売り手企業からのご相談テーマとして多いものに、マーケティング活動の統合、つまり部署をまたがったマーケティング活動の一体化があります。しかし、製品部門と営業部門の活動がばらばらである、事業部別に独立した顧客DB(リスト)を保持/運用していてまるで小さな会社が寄り集まったような状態で営業活動を行っている、といった理由により、組織としてシナジーができていない、という状況は、特に企業規模が大きくなるほど顕著であるように見えます。

一方で、買い手企業の実態はどうでしょうか?

買い手企業は、多くの場合購買/選定プロセスとプロセスに関与する人・部門は多岐にわたります。これまでのBtoBビジネスで主であった、GNP(義理、人情、プレゼント)など、営業個人の人脈や営業力が通用しにくくなった最大の理由がここにあります。なぜ、自社にそのソリューションが必要なのか? 利用(消費)部門の選択基準と購買部門の選択基準が異なるなど、1人の営業マンにすべてを託すだけでは、組織購買に関与する部署/関与者にリーチできなくなっている、という状況が生まれているのです。

顧客はなぜその製品/サービスを選ぶのか?

特に技術をもつメーカーなどに多い考え方ですが、「いい製品があれば、あとは売るだけだ。創るのは製品部であり、売るのは営業部門の仕事である。よって売れないのは営業のせいだ」――。この考え方はいまだに根強いように思います。そのため、多くのBtoB企業はSFA(セールスフォースオートメーション)という、営業活動の進捗を管理するツールの導入に飛びつきました。

では、買い手企業は、なぜその製品を選択した、もしくは買い続けるのでしょうか? よい製品と、粘り強い営業活動のおかげでしょうか?

取引満足という視点

取引における選定もしくは継続取引理由を評価する指標として「取引満足度」があります。これは、必ずしも製品/サービスそのものによる満足だけでなく、起案や購買後の使用体験なども影響を与えることが分かっています。そして、この指標が次の取引に対しても大きな影響を与えることも知られています。

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ここで注目すべきは、一般的に一言でくくられる「営業の対応がいい」における「対応」です。例えば、こちらの立場を分かってくれる、とは何を指すのでしょうか? このことを理解するためには、もう一度、買い手企業の購買関与者および購買プロセスに立ち戻る必要があります。

買い手企業の組織としての「社内の壁」と個人としての「感性」

BtoB企業ならではの組織的な購買の特徴として、「とりあえず買う」という判断がしにくいことがあります。それは、たとえ少人数の店舗であってでもです。BtoCの買い手として、同じ状況を考えた際も、あまり詳しくないもの、高額なもの(例えば、保険や家など)を購入する場合、なぜ必要か? どうやって選定するか? それは必要なのか? メリットは何か? という複数の壁を乗り越える必要があります。BtoBにおける組織的購買とは、これらの悩みを、リテラシーと購買に対する動機の異なる複数の関与者を説得していくプロセスに他ならないのです。

概してBtoBはBtoCに比べて合理的判断に委ねられるケースが多いのは事実です。予算も大きいですし、さらに自分のお財布からの支出ではありませんから、自らの感情、好き嫌いでは判断はできません。しかし、最終的な意思決定するのは人間です。そこには合理的判断をしなければいけないと思いつつ、感情を揺さぶられるような提案や、もともと好感を持っている/名前や事例を聞いたことのある企業に一票を入れたくなるのも事実です。

購買プロセスにおけるブランドの使い方

狭義の意味での「ブランド」をもっている企業や製品とは、名前を知っていること(知名)、その製品やサービスの内容およびメリットを熟知していること(理解)を通して、その企業や製品・サービスが、どのような便益をもたらすのか?また、なぜ自社にとって必要不可欠と考えられるのか?という状態を得ていること、と考えられます。

ある程度合理的に選定される商材の場合、上記の理由のみで選定が決まることは多くはありませんが、少なくとも選定においてロングリストやショートリストから漏れて「そもそも選考に入らない」という危険や、どのような製品・サービスを検討すべきかわからない「起案」のステージにおいて、最初にベンチマーク対象として想起される=第1案として企業名や製品名があがり、とりあえず話を聞いてみる、という立場を手に入れられることになります。これらの状況は特に、新規の買い手企業を発掘する場合や、取引のある買い手企業の「他の部署」からの相談を仲介してもらう場合に威力を持ちます。

特に後者の状況で想起される場合が最も優位な立場で買い手企業の選考に関与できるようになります。一般にマスコミュニケーションの必要性を低めに見られるBtoB企業において、あらためてブランディングを行う必要性がここにあります。こういった立場(ポジション)を得る上で、詳細の理解までは得られてなくとも、「よいイメージ=好意」や「概要の理解」を感性を絡ませながら訴えかけるマーケティング活動が有効となります。

「パートナー」としての存在をどこまで高めることができるか

とは言え、大規模な投資、経営の舵取りに重要な役割を担う製品/サービスの場合、BtoCのような感性型マーケティング一辺倒だけでも機能しません。一方で、先端の技術を駆使したモノでもない限り、製品/サービスの圧倒的な差別化は難しくなってきていると思います。そのような環境下で重要なのはパートナーとしてのポジションの獲得です。

この世の中で多くのBtoB商材は「手段」であることがほとんどです。その商材自体を導入することが目的ではなく、その商材によってさまざまな経営課題を解決することが本来の目的であるはずです。しかし、多くのBtoBビジネスでは、「手段」であるはずの各種のシステムの導入が「目的化」してしまうことがあります。特に、情報システム部門がプロジェクトをリードする場合、そのようなケースが多く見られます。その場合、買い手企業が根っこの部分で何を解決したいと思っているのか、それを最終的に判断するのは誰なのか、をトコトン見極め、それに応じた自社商品を適合させていくパートナーシップのアプローチが有効であると考えます。そのためにもカスタマージャーニーの設計の中で、買い手企業のニーズをどこまで探り、それに対する打ち手や体験を的確に設計/実行できるかが鍵となります。

まとめ

  1. 実際に成長しているBtoB企業は、必ずしも、製品/サービスの説明や売りこみに注力しているわけではなく、むしろ、「自社の製品/サービスを選ぶ理由作り」や「買い手の購買プロセス支援」を行っている傾向にある
  2. 売り手企業は、顧客が自社を選択する理由の追求と、その「体験」を創出するための仕掛け作りをマーケティング活動として行うべきである
  3. 起案時の第1想起や、ロング・ショートリストからこぼれないためにも、ブランドの認知や概要理解をすすめる狭義のブランド・マーケティングを行う必要がある
  4. BtoBマーケティングにおいて可視化すべき要素とは、
    1)戦略の有効性の検証結果(例えば、設計したカスタマージャーニーの有効性検証)
    2)買い手企業のカスタマージャーニーにおける「体験」の検証結果、である