「どうせヒマでしょ!」
―専業主婦はよく人からこう言われるそうですが、内心彼女たちはこのように思っているのです。

「そう見えるかもしれないけど、全くヒマなわけじゃないの。むしろ、時間を、自分次第で有意義に使っているとは言えるかな (あなたたちと違って)。」

働く女性礼賛の空気が流れる中、働かない女性は時代に逆行しているように扱われてしまうこの頃です。しかし、女性の目指すべき理想のライフスタイルは、「結婚しても仕事を辞めず、家事・子育てを夫と分担、キャリアアップを目指す」スーパーキャリア主婦なのでしょうか?

不況が長引く米国において、20 ~ 30 代の高学歴女性のあいだで“主婦回帰”の流れが起きている、という衝撃的な事実を記した『ハウスワイフ 2.0』という本が、話題と論議を呼んでいます。彼女達が専業主婦を選択する背景には、ベビーブーマーにあたる母親世代の働き方、生き方への強い反発があるというのです。

男性優位の企業社会でガラスの天井を破るために、家庭や健康を犠牲にして必死に働き、戦い続けることが、果たして幸せと言えるのか、娘世代はそれを反面教師として見た結果、専業主婦を選択しているのです。ただ、かつての家庭一辺倒の専業主婦ではなく、インターネットを駆使してビジネスや社会に関わる女性が多いことが特徴で、田舎生活を楽しみながらブログで発信したり、起業したりしているとのことです。

では日本の主婦意識はどうなっているのでしょうか。まずは有職主婦と、専業主婦の生活意識をデータで比較してみましょう。現在の幸福度については、それぞれ 90%(TOP 2Box、以下同)前後が幸せな方だと思うと感じており、大差が無いように見えます。しかし、生活満足度に関しては、満足している専業主婦 83%に対し、有職主婦は 76%となり、専業主婦の方が多少ポジティブに捉えている傾向です。さらに、意識としての豊かさは、専業主婦 75%に対し、有職主婦 65%と差が開き、専業主婦の豊かさ意識が 10 ポイントも有職主婦を上回るという結果となりました。専業主婦の方が、なぜ「豊かな生活」を送っていると感じているのか、主婦の生声を聞いてみましょう。

専業回帰する女たち

「働いているときは疲れて疲れて、ご飯を作るのも嫌でした。専業主婦になって、家事に余裕ができました。周りの働く主婦って、‘すごいな’とは思いますが、自分がそうなりたいとは思いません。家の事に集中できるし、夫が外で頑張って働くためにも、家事をしっかりやりたい。いかに手を抜いて料理するか、とか、家事に時間をかけない事が賢い主婦、といった記事も見ますが、自分は午後早めからゆっくり夕食の仕込みをする方が好き。」と彼女は言います。

また、金融総合職のキャリアを捨て、専業主婦になった近藤紀子さん(仮名)41 歳によると、「働いているときは、旅行、外食、洋服やバッグなどに相当お金を使っていました。仕事も忙しく疲弊する毎日でしたが、激しい環境の中で働く自分に誇りを持っていました。一転して今は、アイロンがピシッとかかったなど、生活の些細なことに喜びを感じるようになる心のゆとりが出来ました。家の事を、義務ではなく楽しみとしてやっている、という感じです。自分にはこちらの方が合っているのかなと思います。派手な生活という面は無くなりましたが、ある意味、今の方が贅沢な暮らしとも言えます。」とのことです。

一方、所謂スーパーキャリア子育て主婦の道を歩んできた、佐田昭子さん(仮名)43 歳はこう語ります。「表向きは、‘専業主婦って退屈で、とても私には出来ない’、とか言いますが、本音は、そりゃ働かない方が楽じゃない、と思ってます。夫も協力してくれるので、子育て期間中も、なるべく仕事に穴を空けない様に、頑張ってきました。でも年と共に体力も無くなるし、ポジションが上がれば責任も重くなり、イライラして疲れる。ただ辞めるきっかけが見つからないんです。周囲の期待に応えなければ、という気持ちに勝手に縛られて、動けないのが本音です。」

彼女たちの言葉から、豊かさ意識の差がどこからくるか、見えた気がします。それは、自分で物事や時間をコントロールできるか、仕事に物事や時間をコントロールされるのか、という違いなのではないでしょうか。

日本の主婦意識(有職主婦と専業主婦の生活意識比較)

「子供ができたら、夫にかけていた時間を削って、子供に配分します。」

「家の事が一番ですが、いろいろやりたいこともあり、犬の服を作ったり、ネイルを習って友達にしてあげたり。それも波があって、集中してやりたいときと、冷めてしまう時がある。でも誰にも迷惑をかけないので、趣味も自分のペースできます。」

これが専業主婦ならではの特権と言えます。

さらに、専業主婦とは言え、外と、社会と、容易に繋がれるという時代の後押しも有ります。前述の山田さんの憧れの生き方は、「母親みたいな生き方。子供をちゃんと育てて、おやつも作り、家の中が生活圏内の暮らし。それでも友達の数も多く、しょっちゅう連絡を取り合うので、外の世界から分断されているわけではないのです。」

これは、ハウスワイフ 2.0 も同様です。著者のエミリー・マッチャーは、「ハウスワイフ 2.0 は、自らの価値観に基づいて、家庭や何かを手作りすることに多くの時間を使う道を選びました。ネットやソーシャルメディアのおかげで、他の人々とつながり、孤立しないで様々なことに取り組める時代背景もあります」と説明しています。

「自分が尺度」という生活

専業主婦だけではありません。有職主婦ではあっても、家、家族、そして自分をプライオリティに置く、「マインド専業主婦」に回帰する女性達が着々と増えているように感じます。主婦の生き方は仕事か、家庭か、の二項対立ではなくなってきているのです。

むしろキャリアアップを目指して、組織の壁とぶつかりながら男社会の中で戦うことに疲れた、バブル以降世代が率先して、「マインド専業主婦」になっているのかもしれません。

仕事を辞めて、あるいは仕事は‘そこそこ’にして、家庭中心の生き方をする。それは会社に使われるのを辞めて、自分のペースで生活するという生き方とも言えます。報酬や社内ポジションといった相対的な要素が尺度になるのではなく、自分の幸せ尺度は自分で決めるという生き方なのです。

実は「マインド専業主婦」の方が、キャリア主婦より成熟した独立意識を持っていると言えるのかもしれません。

もっとも、結婚というセーフティネットがあってのことではありますが。

(日本マーケティング協会『Marketing Horizon』 2014 Vol.7 掲載)