思想・価値観への共感を基点にした ”シェアリング”

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拡大するシェアリングエコノミー

Uber、airbnb、メルカリ、Anytimes…。この「シェアリングエコノミー」と呼ばれる新たな形態のサービスは、今後確実に、我々の生活により深く入り込んでいくとみられている。シェアリングエコノミーのグローバル市場規模は2013年時点で約150億ドルであったが、2025年には約3,350億ドルにまで拡大が予測されている。また国内においても同様に、2014年度に約233億円であったところから、2018年度までに462億円まで拡大するとされている。[*1]

シェアリングエコノミーがここまで普及した背景としては、インターネットやスマートフォンの浸透によって、サービス提供側・享受側それぞれのニーズのマッチングが容易になったこと、Facebook 等の実名登録が主流のSNSやAmazon等によるユーザー評価制度によって、WEB上での“信頼”というものが一定程度担保されるようになったこと等、様々な議論がなされている。

一方、もう少しマクロ的に生活者の視点からこの事象を解釈すると、2008年のリーマンショックを境に急激な景気後退に直面し、他方で、これまでにない程に環境問題が意識される時代の中で、20世紀から続く大量消費ではない、「生活を豊かにする新しい消費の在り方」というものを、日本をはじめ先進諸国の人々は模索していったように感じる。さらに、今日よく言及されている「モノからコト」への価値観の変化、つまり、高級車や高級バッグ等のモノを所有することが自己表現だった時代から、話題のイベントに参加した様子をSNSにアップする等のコト体験が、他人との差別化方法に取って代わった時、個人でモノを所有することに対する優先度・魅力度が低くなり、“みんなでモノをシェアする”という形へと、必然的な移行が起こったと考えられる。このように自己表現方法の変化に加えて、経済合理性の観点から、我々はモノをシェアするようになった。そして、さらに今後、そうした利便性や経済合理性によるシェアリングではないシェアリングというものが増えてくるかもしれない。

 

新たなシェアリングエコノミーが芽吹く渋谷

今年、東京都渋谷区はシェアリングエコノミー協会と提携協定を締結し、シェアリングサービスを活用することで、地域課題の解決や市民の生活向上を実現する“シェアリングシティ”なるものに向けて動き出している。そうした区政の動きと並行するかのように、いま渋谷ではシェアリングに関する新たな動きがある。今年4月にオープンした複合施設、渋谷キャストを拠点にする共同コミュニティ「Cift」であったり、リノベーション賃貸・投資を主ドメインに不動産業を営むリズム株式会社が手掛ける中古1棟マンション事業「REISM HIVE」であったり、思想・価値観への共感を基点にしたシェアリングがそのひとつだ。

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リズム株式会社

 

Ciftというコミュニティは、「“コーファミリー”という概念で共に暮らし、共に働いて、社会と繋がっていく、(中略)都会の中で村的に、血は繋がってないけれど、“価値観”で繋がっている村」[*2] の形態を取っており、価値観で繋がった者同士によるシェアリングを実験的に行っている。

また、リズムのケースは、自らの価値観である「RE:ISM=再生主義」を基点に、自社を新たな価値・価値観を再提示する会社“Value Remaker”であると再定義し、「REMAKE YOUR TOKYO WITH REISM-リズムと共に、自分らしい東京生活に仕立て直す-」をブランドコンセプトに掲げた。リズムはこのコンセプトを軸に、これまでリノベーションという形で、東京における自分らしい住環境の実現を提供してきたところから、リズム独自の再生思想・技術をライフスタイル全般に拡張し、東京生活を生き抜くための活力をリチャージするカフェ「REISM STAND」等を展開している。リズムなりの“REMAKE”を施した衣食住を日々の生活に取り入れてもらうことで、大都市東京に“住まわされる”のではなく、自分なりのこだわりをインストールした、自分らしい東京生活の実現をサポートするにまで至っている。[*3] そうした取組みの中で、マンション1棟を丸ごとリノベーションした「REISM HIVE」を通して、リズムが提案する空間やライフスタイルに共感する人々をコミュニティ化し、リアルな生活に根差した形でのシェアリングを実践しようとしている。

 

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思想・価値観に共感して集まる場「REISM HIVE」

 

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リズムが手掛けるカフェ「REISM STAND」

 

これらCiftやREISM HIVEには単に経済合理性や利便性を求めて集まるわけではなく、彼らが掲げる思想や価値観に共鳴した人々が集まり、その共鳴から起こる共同生活や協働の先にあるシェアリングというものが今芽吹き始めている。こうした動きは、シェアリングエコノミーがより一層浸透していく中において、新たな形態として拡がっていくのではないかと思うのである。シェアリングエコノミーをビジネスとして捉えるとするならば、シェアリングする意味性を見出すことさえも、今後生活者に受け入れられる要素のひとつになっていくのだろう。

 

 

 
【参考】
※1: 総務省「平成28年度版情報通信白書」 (http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc131210.html)
※2: share!share!share!  (https://share.jp/community/shibuyacast_cift/)
※3: リズム株式会社HP (http://www.re-ism.co.jp/philosophy/)
 

※本コラムは、スルガ銀行グループ 一般財団法人企業経営研究所(http://www.srgi.or.jp/)発行の季刊誌『企業経営 2017年秋季号』(No.140)に掲載された連載「最近のビジネス・コンシューマートレンド」の内容を転載しております。


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