< 第1回 > 日本の企業は “内なるグローバル化” によって生き残る

  • ブランド構築
  • グローバル

本コラムは、明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト『Meiji.net (http://www.meiji.net/)』に掲載された記事「日本の企業は “内なるグローバル化” によって生き残る(2018年4月25日)」の内容を転載しております。

少子高齢化が続く日本では市場の縮小は避けられず、このままでは多くの企業が生き残れなくなるという議論があります。その対策として、グローバルな市場展開が重要といわれますが、それには海外進出だけでなく、内なるグローバル化という視点もあるのです。

インバウンド消費に呼応したブランディング

日本では、超高齢化と人口減少による国内市場の成熟化は加速する一方です。このような時代環境において、日本経済の持続性を維持していくには、企業の生き残りに寄与するようなブランディングの方法論を確立する必要があります。では、その方法論を教えてくれといわれそうですが、それを一概にいうことはできません。その会社、その組織文化、その会社が扱っている商品やサービスの消費文化に合せて、確立していく必要があります。一般則を様々な個別の企業にあてはめれば、それですべて成功するというわけではないのです。とはいえ、いま、この日本がおかれている状況を考えると、共有できる考え方があり、それはブランディングの方法論を確立するヒントになると思います。

例えば、グローバル化が進む今日では、海外進出がひとつの施策になるでしょう。もちろん、いきなり世界各国に売り込みをかけるのは多大な労力がかかります。そこで注目すべきなのが、内なるグローバル化です。2003年、政府は「観光立国」を掲げ、「ビジット・ジャパン・キャンペーン」などを策定しました。そこに、国内のデフレや円安などの為替要因も重なり、いまやインバウンドは年間2000万人に達しています。それとともに、インバウンド消費も増大し、一時の中国人による爆買いはなくなったものの、2017年上半期は、前年同期比+8.5%の2兆455億円[※1]と、堅調に伸びています。このインバウンド消費をチャンスと捉えるべきです。もう、インバウンドを意識したビジネスには取組んでいる、という企業も多いかもしれませんが、それを長期的に効果をもたらすブランド確立の機会と捉えているでしょうか。つまり、インバウンドの購買を、その場の単発的な消費で終わらせていてはチャンスは広がらないのです。重要なのは、次の継続的な需要に繋がるような施策です。そのためには、日本の消費文化に根ざした独自性を魅力要素とする商品やサービスを提供するとともに、それに触れた記憶が良いものとして残るような体験の場を創出することです。すると、この日本の独自性が価値、あるいは付加価値として、他国の商品との差別化を高め、彼らが自国に帰っても、日本での体験の記憶によって、その商品の継続的な利用や消費に繋がっていきます。つまり、重要なのは、インバウンドに日本のファン層を形成していくことです。これが、内なるグローバル化によるブランディングです。そもそも、観光需要は非常に一時的なものです。日本のデフレや為替要因が変化すれば、ブームはいつ終わっても不思議ではありません。日本ブームのいまこそ、外国人の日本ファン層を拡げることが、この後の日本企業のグローバルな競争力強化に繋がっていくのです。

自分たちを客観視し、独自性を自覚して強みに転換する

実は、世界から見ると、日本はとてもユニークネスなのです。私たち自身にとっては当たり前のことで、普段、意識もしていないようなことも、日本の消費文化に根ざした独自な魅力であることがたくさんあるのです。これを価値として自覚し、強みとして転換することが、次世代に生き残っていく企業の条件だと思います。例えば、無印良品という会社があります。過剰さを排したシンプルなデザインは、落ち着きを好む日本人の心情や、「もったいない」精神にも通じるコンセプトですが、近年では中国で、このコンセプトに独自性や価値が見出され、売上げが伸びています。もともと外国に売り込むために開発された商品ではなく、私たちの消費文化に根ざした商品企画だったものが、外国人の目から見ると、価値として認知され、ブランドとして確立したのです。新潟県の三条市には、スノーピークというアウトドアの総合メーカーがあります。ここの製品は、地場産業である鉄製品作りから発展し、いまでは、「顧客本位の高品質なもの作り」という日本では昔から生き続ける企業哲学が外国でも認められ、各国で売上げを上げています。日本のユニークネスを活かすという意味では、均質化される都市部の大企業よりも、独自性のある地方の中堅企業の方がチャンスは大きいかもしれません。さらに、従来は資金力のある大企業がマス広告の中心でしたが、近年のICTの発達は、少ない予算でも様々なメディアを効果的に使える状況を生んでいます。中小企業や中堅企業も、知恵の使い方で有効なマーケティングが行えるのです。重要なのは、まず、自分たちのユニークネスを自覚することです。そのためには、自分たちは外から見たとき、何者であるかを客観視して見ることです。

≫第2回に続く

【参考】
 ※1: 観光庁「訪日外国人消費動向調査」(http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html

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