<第5回>インターナルブランディングで現場から起こす企業変革 ~バリューコマース 成長し続ける組織への挑戦~

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バリューコマース株式会社は、商号を変更し、アフィリエイトサービスを提供しはじめて20周年を迎える2019年に向けて、インターナルブランディングに取り組んでいる。
これまで4回にわたり、同社の取り組みの実態をお伝えしてきた。今号では全体を振り返り、インターナルブランディングや組織風土改革において何が重要なのかを考察していきたい。

●企業が(インターナル)ブランディングに取り組む意味

今回バリューコマースが取り組んだインターナルブランディング(Internal Branding)とは、「企業(ブランド)が掲げる理念や考え方(顧客に何を約束しているか)について、従業員の理解を深め、行動を促していくための活動」と定義されている。インターナルブランディングの活動を通じて、従業員にとっては企業ブランドの“自分ごと化”がすすみ、“オーナーシップが高まる”。そして、企業価値の向上を実現できるという考え方である。ブランドの浸透、という部分が目的として捉えられてしまうことも多いが、広くとらえればこちらが本来の目的であり、「自ら考え、自律した行動をとり、お互いに共創しながら進化し続ける組織」を実現するための、組織風土改革、組織活性化活動の一つであるという理解をすべきである。
インターナルブランディング、というよりは、インターナルアクティベーションといったほうが、本来の意味合いに近いのかもしれない。
 

 

●組織を変えていくために必要なファーストステップ「心理的安全性」の担保

少し前に話題になったので、多くの方が目にされていると思うが、Googleが自社サイト上で発表した、チームを成功へ導く5つの鍵。
この第一段階に置かれているのが、「心理的安全性」である。

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【引用元】re:Work https://rework.withgoogle.com/blog/five-keys-to-a-successful-google-team/

 

従業員が自律し、高いオーナーシップを持つためには、この5つのキーをすべて組織が持っていなくてはならないのだが、①と⑤が、特に日本企業の場合不足しがちであると思っていた。②~④は、いわゆる「マネジメント」と比較的相性が良い。チームのミッション付与や、職務規定、評価の仕組み、フィードバックなどの取り組みの中で、職制を通じて落とし込んでいきやすい。

一方で①、⑤はというと、そう簡単にいかない。
①の心理的安全性は、「安心して素に近い自分や考えを表に出せるか」ということに近い。空気を読む、忖度、というような文化と相性が悪いのだ。

組織には組織ごとに成り立ちや経緯、過去の事件などがあり、上手くいっていない組織ではそういった事情が積み重なって、不信感やあきらめというものに変化をしてしまっている。こうなってしまうと、①の心理的安全性を担保することは非常に難しくなり、いくらそのあとの②~④に取り組んでも、効果を発揮しない。そのうち、効果が出ないからと言って組織変革の取り組み自体をやめてしまい、そのことがまた不信感につながる、という悪循環を生むのである。

ちなみに⑤は、フロントに立っている社員以外や、大企業になればなるほど、「歯車感」が増し、達成が難しくなる。
これはコミュニケーションの “量”の問題だと考えているが、また機会があれば詳しくお話ししたい。
 

 

●悪循環を打破したバリューコマース

バリューコマースも、今回の取り組みを始める前は、この悪循環に陥りかけていたのではないかと思う。
20年近い歴史の中でトップが何度も変わっただけではなく、経営母体も代わっており、部署や年代、バックグラウンドによって使う言葉や思いが少しずつずれていた。社員の方からは自分たちの特徴として、ある意味で「冷めている」ということがあげられることもあった。

象徴的なエピソードが、第4回でご紹介した中原氏の話の中にある。ワークショップの後、「あの場でみんなで確認しあった“自分たちが貫くべき仕事の仕方”を、各々が勝手に体現し始めていたんです」。
特筆すべきは、ワークショップで、明確な目標を決めたわけではないことである。
その場ではただ、部署のメンバーで自社のブランドについて、組織の課題について、日々の思いについて語り合う時間を持ったに「すぎない。」が、そのことが行動を変えている。
実はこのワークショップを社員に向けて実施するにあたり、その裏側には担当する社員が心に決めて貫いた姿勢があった。このワークショップへの管理職以上の参加は不可とし、会議内での発言は完全リスクフリーであるという前提を公言・約束することで、絶対的な心理的安全性が担保されている場を、全参加者に対して等しく用意したのだ。だからこそはじめて本音を話すことができ、みんなが同じような問題意識を持っていることが確認できた。そしてそのことが、平常時の部署における「心理的安全性」の担保へつながったのである。「本音で意見をぶつけ合ったこの場があったことで、みんなの思いが同じであることが確認できました」(安藤氏)。

意見の対立や思想の違いは必ずある。問題はそのさきにあるゴールのイメージが同じであるかどうか。そこが確認できれば、組織は前に回り始める。
バリューコマースの取り組みを通じて、あらためてこの重要性に気付かされた。
 

 

●“失笑期”の存在と、それを乗り越える難しさ

一方で、今回のヒアリングを通じて初めて理解できたこともあった。
それが、“失笑期”の存在である。

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※図1 バリューコマース原案・博報堂コンサルティング作図

 
一部の、非常に強いリーダーがトップにいるという幸せな場合を除き、ほとんどのケースで、社内改革や方針決定の直後にこのような、「非常に大きな温度差が社内に生まれている状態」が起こりうる。
そしてそれを乗り越えられないというのが、取り組みを止めてしまう一番大きな要因なのではないだろうか。もしくは、この温度差に気付かないふりをして、上滑ったコミュニケーションだけが流れていくようなケースをいくつも見てきたように思う。
逆に、失笑という反応にびっくりして取り組みをやめてしまったり、大きくぶれてしまったりすることもあった。
この失笑期をいかに超えるのか。温度差を埋め、全社の熱を取り戻すにはどうすればいいのか、というのが、インターナルブランディングを成功に導くポイントになると思っている。
 

 

●“新人”というキーパーソン

失笑期を乗り越えるための方法論があるわけではないと思うが、もしも有効な手立てを考えるとすると、一つのキーワードは“新人”であるとも思う。

バリューコマースのケースでも、1年目、2年目といった若い世代が、「ともに拓く」を自分なりに解釈しようと試行錯誤し、
またそういった人間をキーパーソンとしてあえて全社員をけん引するような役割に抜擢することで、ある種会社への諦観や不信感もまだない、純粋でもあり、
過去のしがらみと一番遠い視点というフィルターを通して、コミュニケーションを活性化させることに成功している。

またある企業では、設定した社内改革のKPIを、新人がほとんどを構成している組織が最初に達成した、というケースもある。
本来は経験値のある従業員が多くいるほうが有利なはずが、こと“改革”となると、まっさらな新人という人たちのほうが動きが早くなる。
それをひとつのフックとして、全社に気付きをもたらし、この企業では全社でKPIを達成した。
 

 

●インターナルブランディングは成果を生む

一年間にわたるインターナルブランディングの取り組みを経て、日本におけるアフィリエイトマーケティングのパイオニアでありながら、長くASP(アフィリエイトサービスプロバイダ)としての1位の座を他社に明け渡していたバリューコマースが、18年12月期において、上場しているASPの中で見事に売上1位に返り咲いた(バリューコマース調べ)。
業界の環境変化の影響はもちろんある。しかしこれは実は、香川氏が一年前に新しい企業理念「ともに拓く」を社内に向けて初めてお披露目したのと同時に「ともに拓く、を社員それぞれが体現することによって目指そう」と話したそのゴール、「No.1奪還宣言」が結実したものだ。
インターナルブランディングの取り組みを通じて、一人一人の行動が変わり、会社としての目標を、「ともに拓く」で約束したように、誠実で地味かもしれないが一つずつクリアしてきた結果だと思う。

インターナルブランディングをはじめとする社内の意識改革は、どのようなメリットがあるんだ?という疑問を聞くこともあるが、バリューコマースのケースを通じて、改めて成果に結びつくものなのであると強く確信をさせてもらえた。
 

 

●強力な旗振り役の必要性

最後になるが、インターナルブランディングを成功に導くために絶対的に必要なものがある。
それが、トップマネジメントを陰で支え、プロジェクト全体を黒子として、しかし強力に推し進める、ボトムアップ型のリーダー、旗振り役の存在だ。

この旗振り役に求められるものが非常に多い。
忖度せず、しかし気配りをしつつ、失笑期にも、アンケートの辛辣な意見にも折れず、継続して、だれよりも明るく、改革像の目指す姿を自ら体現するような働き方をする必要があり、
社内に広く顔が利き、トップにも物おじせずモノが申せ、自然と部署を超えて仲間を増やしていけるような人である必要がある。

バリューコマースでは、香川氏や本件推進に関わる役職者がこの旗振り役を発見し抜擢し、インターナルブランディングの推進役に据えた。
今振り返っても見事な人事で、この旗振り役なくしてプロジェクトの成功はなかったと思う。

不思議なもので、組織改革の仕事を進めていると、上手くいくケースではかならずこういった、強力なパーソナリティを持った旗振り役が現れる。
組織改革の仕事をコンサルタントとして外部からお手伝いしながら、そうした方に出会えるのは、一つの楽しみでもある。
もちろん、バリューコマースのケースでも、社内の熱量に当てられて寝込んだり、ご本人には多くの苦労があったとは思うし、実際に心が折れてしまうことも多くあったと思う。
にもかかわらず、一年半にわたって推進されてきたことに改めて敬服するとともに、お忙しい時間を縫ってインタビュー記事にご協力いただけたことに感謝申し上げたい。

さらに、この改革の旗振り役が、バリューコマース様と我々が一緒に作ったインターナルブランディングのプランを(愚直に)信じ、大きく軸をぶらすことなくやり遂げてくれたこと。今でもこのプランに沿って社内での推進活動を続けているとのことで、文字通り、「この一年半、あの資料(我々から提示したインターナルブランディング施策案とロードマップ)を擦り切れるほど読んでいますし、進め方に迷ったら今もすぐに読んで」、日々の仕事を進めてくださっているそうだ。

コンサルタントが作る“紙”には価値はなく、改革を進めるところへどれだけコミットできるかに意味がある、とはよく言われることでもあり、私も同じ信条である。バリューコマース様のケースでは、改革の現場にまでは我々が入り込めなかったのが気がかりだったのだが、このケースについて言えばこれは完全に杞憂であった。今回のように、クライアントと目線を合わせ、本当に共創して作り上げたプランであれば、そのプランは我々の手を離れた後も現場で改革を後押しし続け、プロジェクトを成功へ導く一助になりうるのだというのは、我々にとって非常にうれしかった。冥利に尽きる、というものである。

最後になるが、今まさに悩まれ、改革を進めている多くの旗振り役の皆様にとって、本稿が少しでもお役に立ったとすれば幸いだ。内容についてもっと知りたいという場合には、遠慮なくお問い合わせいただきたい。

>>完

【こちらの記事についてのお問い合わせ】担当:栗原


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