●業界のパイオニアの新しい試み

バリューコマース株式会社は、日本で最初にアフィリエイトマーケティング(成果報酬型広告)をスタートさせた会社だ。 2005年にヤフー株式会社のグループに加わった後は、Yahoo!ショッピングに出店するストア向けのクリック課金型広告配信サービスの提供を開始。2012年10月にはヤフー株式会社の連結子会社となった。
順調に事業を拡大していき、Webマーケティングにおける「集客」から「リテンション」まで、幅広いソリューションを提供している。 代表取締役社長を務めるのはヤフー出身の香川仁氏だ。B2Cのネット広告に興味を持ち、ヤフーに転職してからは広告本部で商品企画やサポートを行ってきた。2014年に4代目の社長に就任している。

1999年11月のサービス開始以来、アフィリエイトマーケティングで業界をけん引してきたバリュ―コマースが、博報堂コンサルティングとともにブランディングの推進、特にインターナルブランディングの推進に取り掛かったのは2017年10月のことだ。3カ月ほどで大きなブランドの方向性と実施内容をまとめ、2018年1月末に開催した社員総会(半年に一度実施する、社外のスピーカーなども招いて行う全社員集会)で、新しい企業理念である『ともに拓く』を社員に発表。併せて、『ともに拓く』のブランドロゴと、腕組みをした香川氏がおさまった宣言ポスターもお披露目した。

写真撮影に挑んだ香川氏ですら、当日までどんなポスターに仕上がっているのかを見せてもらえなかったという。香川氏に確認することなく、社員主導でポスター制作を進めたのは、香川氏も、この推進に関わった社員たちも、インターナルブランディングは社員が主体となって行うものだと全社員に理解してほしかったからだ。

会社の方針を理解していないどころか、何をやるつもりなのかと失笑気味の社員も見られたという。しかし失笑の中、香川氏の宣言ポスターに続いて、各部門長の宣言ポスターが完成。社内に次々と張り出されていった。

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●社外に“拓く”

インターナルブランディングは、その名の通り「internal」=社内のブランディングを推進する試みだ。企業ブランドとしての理念や考え方を、社員に浸透させ、企業ブランドの構築あるいは再構築を行うためのアプローチだから、その過程を社外に公表することが目的ではない。 しかしバリュ―コマースは、優秀広告主やアフィリエイトサイト運営者、代理店を表彰する「バリュ―コマースサミット」(2018年3月9日)で、『ともに拓く』を提示。「ともに拓く、新たな未来」と題した講演を行い、今後のバリュ―コマースがめざす方向性や、クライアントにどんな付加価値を提供していきたいと考えているのかをまとめて発表した。

この頃はちょうど、社内に貼り出された部門長の宣言ポスターを通して、部門長たちの『ともに拓く』に対するそれぞれの解釈が社員の目に触れ始めていた時期だった。社員たちの「ともに拓く」への理解や思いはまだ薄かったといえる。 しかしこの場で香川氏は、社としてこの企業理念を掲げることへの覚悟をあえて語った。サミットの会場には招待客だけでなく、社員もいる。社員にとって『ともに拓く』相手でもある立場の人々と一緒に話を聞いてもらい、このことについてぜひ話してほしいという思いもあったのだ。

この発表には、予想以上の反響があった。『ともに拓く』のは社員同士という狭い範囲のことではない。クライアントとともに歩み、新しい未来を切り開いていくための宣言であることを、クライアントの多くが好意的に受け止めたようだ。宣言後には、「バリュ―コマースは変わってきた」といった声まで届いている。
 
 

●社内が “拓く”

宣言ポスターで各部門長のメッセージを受け止め、「バリュ―コマースサミット」でクライアントの反響を感じた社員は、この動きをどう受け止めたのだろうか。

部長以下の社員だけが参加する部門ごとのワークショップでは、「ここでの会話は一切表に出さない」という約束で実施。付せんを使って社員の意見を吸い上げた。使用された付せんの総数は1,200枚にも及んだというから、部門ワークショップの濃厚さがうかがえる。付せんに書かれた言葉の中から、重要なキーワードを選び出し、各部門のキャッチコピーを作成。各部門が何をめざしていくのかを「宣言集」にまとめて社員に配布した。

現状維持ではなく、変わらないといけないと漠然と考えていた社員たち。ただその思いを共有するきっかけや、考察しながら解決策を考える場が圧倒的に少なかった。

しかし、一連の推進業務に関わった社員たちが、毎月月初に開催される全社員ミーティング「カンパニーワイドミーティング」など、社員が集まる場のすべてを使って『ともに拓く』を浸透させるよう努め、それぞれの思いを共有していく中で、仕事に対する誇りや、理想や夢を口にする社員が増えていく。今までは水を打ったようにしんとしていたカンパニーワイドミーティングも、笑い声やツッコミの声も聞こえるような明るく活発な場へと変わっていった。

 

●6つの転換期を重ねて

バリュ―コマースのインターナルブランディング推進がスタートして約1年。期間は決して長くないが、実施された取り組みにはインターナルブランディングの推進を成功させるためのヒントが無数に詰まっている。

自分たちが変わらなければいけないと感じながらも有効な手立てが見つかっていなかった【沈黙期】。
インターナルブランディングの推進を決断した【宣言期】、何が始まるのかと戸惑いの中にあった【失笑期】から、社外にも公表した【伝播期】。
そして部門ワークショップを重ねることで、これまで蓄積してきた思いを表に出した【発散期】。
自社に対する誇りを再確認したことで、バリュ―コマースは現在、社内の雰囲気が変わってきた【流通期】にあるといえる。
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※図1 バリューコマース原案・博報堂コンサルティング作図

これは一般的にブランドを社内に浸透させるときのステップとは少し異なるが、それだけにリアルな、実態に即した段階論だと感じている。
会社の“空気”を変えていくような取り組みは、教科書的にきれいなカスケードで進んでいくわけではない。

【沈黙期】から【流通期】に至るまでの間にどんな取り組みを実施し、社員は何を考え、どう動いたのか。そして今後のバリュ―コマースはどこに向かって進んでいくのか。順を追ってお伝えしたい。

>>第2回に続く
 

 

■「インターナルブランディングで現場から起こす企業変革」連載