目前に迫る5G実用化の大波

2018年は6月、ロシアW杯が開幕する。前回のブラジルW杯ではドイツが、前々回の南アフリカW杯ではスペインが優勝しており、近年は欧州勢の強さに目を見張る。フットボールの世界でスペインといえば、美しいパスワークで“魅せるフットボール”を繰り広げることで知られる。筆者も一度、レアル・マドリードの試合をスタジアムで観戦したことがあるが、華麗にボールを操りアグレッシブに互いに攻め合う姿勢にサポーターが熱狂するあの熱量には圧倒された。こうしたスポーツ・エンターテイメントは今後、次世代移動通信システム5GやAIといったテクノロジーの実用化によって革新が起きるだろうと言われている産業のひとつである。
現在、我々の最新スマートフォンには4Gが通信システムとして採用されているが、4Gの次世代となる5Gの実用化が2019年に迫る中、モバイル関連企業の最高経営責任者が出席する世界最大規模のカンファレンス&モバイル関連機器展示会「Mobile World Congress(以下、MWC)」がスペイン・ バルセロナにて2月末に開催された。
MWCはひと口に「モバイル」といっても、ハンドセットメーカーからネットワークベンダーに至るまで多岐に渡る企業が集い、最新システムが搭載されたスマートフォンやウェアラブルデバイス、ドローンといった今後の未来を創るテクノロジーの数々が展示される。今年も約2,300社の企業が出展し、世界200ヶ国以上から10万人を超える来場者が訪れた。日本からは楽天の三木谷社長が基調講演を行い、NTTドコモやソフトバンク、ソニー、NECが昨年同様出展したが、さらに今年は新たに自動車業界の雄であるトヨタが参戦した。トヨタがこの“モバイル”カンファレンスに加わったことは、モバイルという従来の概念の枠の拡がりを感じさせた。

群雄割拠の様相を成す通信関連企業たち

MWCにおいて5Gはここ数年続くトレンドであるが、昨年末に5G NRの標準仕様が策定されたことで、今年はネットワークベンダー、モバイルオペレーター、ハンドセットメーカーといったレイヤーの異なる企業各社から、5G商用ネットワークを早々に立ち上げるための製品やソリューションが展示された。例えば、世界三大ネットワークベンダーのひとつであるNOKIAは、世界が5Gに移行する中で、魅力的なサービスをB2B、B2C双方にアピールして取り込んでいく必要がある一方で、5G導入により手薄になる4G回線においてビジネスを成立させ続けることもミッションとして抱える。そんなNOKIAのブースでは、安価で小型の基地局を街中に5–10m間隔で設置し、中規模の基地局と複層的に使い分けながらスマートシティを推進するというパブリックセクターに向けた提案や、社内で自由に使用できるプライベートLTEの基地局を設置して、ストレスフリーなネットワーク環境を提供するという企業向けの提案、またMVNOに向けたビジネス提案等も含めて多方面に展開されていた。 5Gの実用化によってチャンスが拡がるものの、その分競合するプレイヤーも集まってくる中で、ネットワークベンダーの立場から収益源獲得に向けた正念場を迎えている様子が窺えた。

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 MWC2018テーマ「Creating a Better Future」

一方、Orange、Vodafoneといったオペレーターは、5GだけでなくIoTやAR等を活用したソリューション開発を手掛けることによって、他産業のビジネス支援/デジタルトランスフォーメーションの実現をサポートする、さながらSIerへと変貌を遂げながら新たな収益を開拓しようとする姿勢が見て取れた。また、ハンドセットメーカー側でいえば、IntelやSamsung、Ericssonに次ぐネットワークベンダーでもあるHuaweiが5G通信に必要なモデムチップを開発し、各社そのモデムチップが搭載されたタブレットの発売を控える。この5Gのモデムチップ競争において、Qualcommの「Snapdragon X50」は当初よりスマホ搭載を前提に開発されており、既にいくつかのメーカーが採用を表明する等、熾烈な戦いが始まっている。
今回は、ネットワークベンダー/モバイルオペレーター/ハンドセットメーカーそれぞれが、自社が戦えるフィールドを見極めながら次世代に向けてターゲットやドメインを拡張し、自らのビジネスモデルさえ変えることを厭わない姿が露わになった展示会だったといえる。他方、展示会と同時に行われていた各社のデジタル・テクノロジー部門のトップ達によるパネルディスカッションでは、5GやAI活用等の浸透によって競争優位にすべきことが変わり、様々な業界と業界の衝突が加速し、新たなマーケットやホットスポットが生まれる裏で、既存の構造や業界はより一層ディスラプト(破壊)されていくことが明確に語られていた。今日でいえば、Amazonの登場により小売業界を中心にあらゆる業界がディスラプトされていったことはデジタル・ディスラプションの典型例であろうが、現在のディスラプションの55%がセクター外から起こっていると言われる中で、「他者とのコネクティビティ・コラボレーション」の重要性について各所で説かれていた。

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  ブース出展する通信関連企業

こうした議論は、今後、想像しきれないビジネス環境の不確実性に向けて、自社のリソースだけで対応することの難しさを前提にしたものなのであろう。今回のMWCでは、未来に向けた製品・ソリューションサイドの着実な進歩と、それらの技術的進歩の先に見え隠れするヒューマンサイドの恐れのようなものが同居している様が感じ取れた。日本での5G実用化は2020年と言われているが、我々も既存の常識・やり方のまま、ただ眺めていては5Gがもたらす大きなうねりに巻き込まれてしまいかねない。経済環境が安定している時にこそ、新たな収益源を求めてアグレッシブに冒険することが必要なのだと思う。

 

※本コラムは、スルガ銀行グループ 一般財団法人企業経営研究所(http://www.srgi.or.jp/)発行の季刊誌『企業経営 2018年春季号』(No.142)に掲載された連載「最近のビジネス・コンシューマートレンド」の内容を転載しております。

 

■最近のビジネス・コンシューマートレンド ― 季刊誌『企業経営』掲載記事