ちょっと変わった取り組みを見せる企業

動画共有サイトで、ヒット曲に合わせて踊る従業員。数十年ぶりに復活した「社内運動会」で汗を流す社員。書店には「社内用語」を紹介する本が並ぶ。これまで言われてきた、“従業員満足“とはちょっと違う文脈で、さまざまな企業が社員向けの活動を始めている。昨今のこの動きを読み解くためのキーワードが、「インターナルブランディング」だ。

インターナルブランディングとは何か

インターナルブランディング、という言葉が日本で一般的になったのは2000年代であろうと考える。

かつてブランディングと言えば、主に高級品をはじめとした商品ブランドのことを指し、競争環境の中で顧客の頭の中に好意的なイメージを築き上げていくことを示していたのが、90年代半ば以降、ブランドエクイティという言葉の普及と同時に、企業ブランディングという概念が広まった。企業ブランディングの概念には、従業員が重要なステークホルダーとして含まれてくる。企業として顧客にどのようなことを約束したとしても、それを実事業で実現していなくては、ブランドとして強化はされていかない。現場の販売員の接客だとか、従業員が開発する商品自体が約束を果たしていなければいけないわけで、言うなれば、「従業員がブランドをつくる」という思想である。

この思想に基づくならば、企業として何を顧客に約束しているか、ということを従業員一人ひとりが理解し、自分ごととして捉えて日々の仕事で実践していくことこそが、企業ブランドを軸に競争力を高めることにつながるということになる。そのため、企業の目指す姿を理念として明文化し、タグラインをつくり、CIを変え、ブランドブックやクレド(行動指針)を通じて、一人ひとりの理解を深めていくことが必要になった。この従業員へ向けた活動を、顧客向けの活動=エクスターナルブランディングに対して、インターナルブランディングと呼ぶ。

見直され始めたインターナルブランディング

インターナルブランディングという言葉は、リーマンショックと前後して、経営のメインテーマからは一旦姿を消したと思う。各企業は目の前の経営状況の改善に手一杯で、漢方薬的なインターナルブランディングに労力を割いている余裕も、結果を待つ時間もなくなっていったのだろう。インターナルブランディングは、よくあるバズワードの一つとして消費され、その役割を終えたかのように思われた。

ところが近年、特にこの1~2年のことであるが、再びインターナルブランディングという言葉を経営者からよく聞くようになった。ただし、少しその意味合いを変えて。

見直されはじめた背景―3つの潮流

インターナルブランディングが再度注目されている理由。それには3つの環境変化が影響を与えていると考えている。

(1) グローバル化
各社が戦う市場をグローバルに広げていく中で、大きな問題が一つ起こった。それは、日本式の「行間を読む」というコミュニケーションが通じなくなってきたことだ。
もともと日本では、ハイコンテクスト=共通の時代認識や価値観をベースに、言語ではないところでお互いを理解し想いを共有してきた。ところが企業のグローバル化が進むと、従業員のグローバル化というもう一つの変化が訪れてくる。これは、グローバルに事業を展開していないような企業においても、労働力のグローバル化という形で影響を与えた。この影響は大きかった。

言葉が違い、文化の違う従業員とのコミュニケーションは、これまでのように暗黙のうちには上手く進まない。さらに日本人の多くは(私も含めて)まだまだ英語が苦手だ。

(2) 世代間ギャップ、特にデジタルネイティブ世代の登場
二つ目の要因は、世代によるギャップだ。最近の技術革新の速度の影響もあり、とりわけ個々人のコミュニケーションの取り方が大きく変わったことだ。現在の日本企業は、かつてなく世代間のギャップが大きい時期を迎えていると言える。ちょうど今企業にいる50代は、ポスト団塊世代と呼ばれ、質・量ともに圧倒的な団塊の世代が引っ張る日本経済の成長を目の当たりにしながら、一方で彼らの薫陶を受け、背中を見て、彼らと切磋琢磨した世代である。40代はバブルと呼ばれる非常に特殊な時代を中心で過ごした世代であり、その下の30代は氷河期世代と呼ばれ、各企業が新卒採用を控えた結果、部署内に近い年齢の人間が少ないような状況下で、会社に頼るのではなく個人としてのキャリアアップを強く志向する。これだけでも十分なくらいのところに、デジタルネイティブと呼ばれる世代-メールからLINE、LINEからInstagram今、注目の手法&用語#1 やSnapchatというように、テキストすら使わないコミュニケーションの手段を生まれながらに使いこなす20代が同時に共存しているのだ [図1]。これはつまり、使用しているコミュニケーションのルール自体が違うようなもので、自然に混ざり合うことは難しい。

[図1] 働き手の世代論とその特徴

インターナルブランディング_図1

(3) コンプライアンス強化と進むマニュアル化

そして最後に、コンプライアンスだ。近年、企業にとっての重要テーマの一つとも言えるこのコンプライアンスだが、一方で特に日本企業においてはとかくルールをつくりマニュアルをつくり書類を増やすという方向、つまり管理強化の方向に動くことが多かったと考えている。仕事を意味合いから考える機会は減り、マニュアルに書いてあることを抜け漏れなく実行していくことを求められるような、タスクとしての仕事が増えた。

これら3つの潮流が背景となって、職場からは社員同士のつながりが失われた。同じ社員であっても話が通じないことも多く、フラストレーションが溜まる上、やってはならないことがそこかしこにあり、何かをしようとするときの制約がある。結果として、従業員は限られた範囲の同僚と、必要最低限のコミュニケーションしかとらなくなり、縦割り、タコつぼ化が進むことになる。企業共通でもっていたような「らしさ」、その企業のDNAもまた、薄れていく。

失われた当事者意識と起こらないイノベーション

つまるところ、企業内の人間関係が希薄になったのだと言える。仲が良くない組織であれば、そこに当事者意識は生まれない。当事者意識がないから、そこにはプラスアルファの創意工夫をしようという意識など望むべくもない。

かくして従業員は、自身の創造性を社内で発揮しようとはしなくなってきている。今は仕事以外にも自身の創造性を発揮し、世の中に発信する場はいくらでも見つかる。なにも、がんじがらめのルールに縛られた企業の中で、コミュニケーションの難しい人たちと無理をして創造的な仕事をする必要はないのだ。仕事は仕事として、自身の生活とのバランスの範囲でそつなくこなしていくもの。そんな考え方も広がり始めているのではないだろうか。

かつては世界を驚かすようなイノベーションが日本の小さな企業の現場から生まれていた。その土壌はしかし、少しずつ失われていっていたのである。

新しいインターナルブランディング ―ヨコのコミュニケーションの活性化―

この大きな流れが、企業にとっては「技術の継承ができていない」「らしさがなくなった」だとか、「若手の積極性が欠け、言われたことしかやらない」とか、「現状の延長でしか仕事をせず、ヒット商品が生まれてこない」、さらには「優秀な従業員がすぐに退職する」といった問題となって表面化しだしたと考えている。

それに気付いた経営者たちが取り組みだしたのが、冒頭にあるような社内活動であり、今、インターナルブランディングと呼ばれている取り組みである。

これは言葉としては同じだが、旧来のインターナルブランディングとはその性格を異にする。一言でいえば、旧来行われていたのはタテのコミュニケーション、今行われているのはヨコのコミュニケーションなのである [図2]。従来のインターナルブランディングは、会社としての理念をつくり、その理念を理解・浸透させる取り組みであった。そのため、行われていたのは理念を伝えるブランドブックの制作であったり、理想とする行動を理解させるためのクレドの作成であり、それをどう現場で活かすかを考えるワークショップの実施であったのだ。

[図2] 旧来型と新しいインターナルブランディングの違い

インターナルブランディング_図2

このこと自体は今でも重要な取り組みではあるのだが、それだけでは不十分である。

今行われているインターナルブランディングは、ヨコのコミュニケーションを重視したものだ。これはつくられた理念を上から下に浸透させる、と言うことではなく、社員と企業の間で、または社員同士で、企業ブランドを共創していくという点に大きな特徴がある。

共創なので、そこでは企業と従業員が、もしくは従業員同士が、対等な立場で共に参加をしていく。企業は場とコンテンツを用意し、そこで存分に社員同士が交流し、刺激し合う。たとえば前述の運動会などはその良い事例と言える。

共創であるためのもう一つの大事なことは、それが実事業に直接連結していくことである。例えばこちらも最近増えている取り組みだが、社内アワードであったり、社内新規事業コンテストのような取り組みが該当する。自主的に手を挙げた社員に対して、会社として機会を与えていく。必要であれば、組織の壁を越えて想いがある人同士がつながっていく。このことが、自分が組織に影響を与えられるんだ、というメッセージになり、そのメッセージに呼応して、実はあちこちに存在していた「想いを持った社員」が声を上げ始め、大きなうねりを生み出し始めるのである。彼らは、難しくなってしまったコミュニケーションと変わらない組織に疲れ、半ばあきらめかけていた人たちだ。彼らに火をつけること、火のついた彼らが周囲に働き掛けることで、組織はイキイキとした輝きを取り戻し始める。

まずは本気で耳を傾けてみること

インターナルブランディングを上手く進めている企業の多くで、トップやマネジメント層が、積極的に若手の意見を聞き始めたことがきっかけになっている。まずは従業員や若手の声に耳を傾けてみること。そしてお互いに押しつけではなく、理解し同じ方向を向くために何をしたら良いか、意見交換することから始めてはいかがだろうか。今週末は是非、久々に部内の飲み会を企画してみてほしい。ただ、お説教と武勇伝はNGなので、くれぐれもお忘れなく。

※本コラムは、株式会社宣伝会議発行の「100万社のマーケティング」(2016年3月号)に寄稿した内容を転載しております。