これからの市場環境に対応するためには、どのようなブランディングのアプローチが必要なのか。それは、従来とどう異なるのだろうか。われわれは、成熟社会を乗りきるブランドをてことした事業成長の方法論をBranding Growthと名付け、以下3つのステップを通じて、クライアント企業への提言を行っている。

(1) ビジョンプロトタイピング=生活者とともに創造する市場の未来図を描く

まず、ブランドのビジョンの描き方が変わる。ビジョンプロトタイピングとわれわれは呼んでいるが、生活者と一緒につくるビジョンは、従来の企業が価値提案するビジョンとは異なり、より具体的かつイメージが湧きやすいものでなければならない。
そのためには、市場の潮流と争点を把握することが重要だ。生活者の意識に基づき、流動的な市場がどう変遷し、今後どう変化しうるか、仮説を構築する。ヨーグルト市場を例にとると、抗ピロリ菌、抗インフルエンザ、デザートという風に、市場の潮流が変化する中で、今後起こりうる争点を明らかにする。

次に、蓄積した他社の市場創造事例を通じて、発想の枠を広げる。ビジネスモデル、顧客像、争点の設定等、他業界で成功したブランドから学べる要素は何か? 枠を広げて、自社ブランドが創造する市場の未来図を発想する。

さらに、それを可視化する。言葉だけではなくて、ビジョンが実現する世の中とかサービスとか商品のあり方をありありとしたビジュアルとして表現する。言葉や標語としての表現を超えて、その具体例や可視化された生活のあり方として表現することで、次のアクションにつながりやすい。

ブランディング・グロースの基本アプローチ
※図:ブランディング・グロースの基本アプローチ

 
 

(2) キーアクションデザイン=ビジョンを具現化・牽引する活動を設計する

ブランドのビジョンを象徴し、イメージを牽引する活動の設計~これをキーアクションデザインと呼んでいる。ブランドビジョンを具現化しているか、ブランドイメージを牽引するか、実際それが生活者の行動体験につながるか、という3つの視点から、具体的なアクションを導き出す。

例えば東京の営団地下鉄が東京メトロへと民営化する中で、「東京を走らせる力」というメッセージの下、公共交通機関の枠を超えて、都会的なサービス業への転換を図った。それを象徴的に物語るために、まずはファッショントレンドの発信地である表参道に「Echika」という新業態をつくって、新しいメトロを表現した。(※注1
これは本業におけるキーアクションの一例であるが、一方で、企業のさまざまな社会的取組みもブランドのキーアクションになりえる。

IBMでは、「Smarter Planet」という同社のビジョンに基づき、世界中で2000を超えるスマーター・シティー・プロジェクトを支援している。2008年から「Smarter Citiesフォーラム」を世界規模で開催、さまざまな立場の人たちを集め、そこで議論を深めることにより、地方公共団体に対して、様々なヒントや参考となる情報を提供している。また、「IBM Smarter Cities Challenge」というプログラムを展開。世界中から100都市を選定し、総額5000万ドル相当のテクノロジーやサービスを提供している。(※注2

 
 

(3) プラットフォームマネジメント=社員を動機づけ、生活者と継続的に対話する仕組みを運用する

さらに、生活者と共有可能なビジョンとそれを牽引する象徴的な活動が、組織の中に定着し、ブランドの新しい動きとして世の中に広まっていく体制作りが重要である。これをわれわれはプラットフォームマネジメントと呼んでいる。社員の気持ちと組織の仕組みの両面から、ブランディングが自走し続ける状況をつくり上げていく。そのためには、社員の気持ちを動かすエモーショナルなアプローチと、組織の仕組みを整えるファンクショナルなアプローチの両面により、ブランディングの実現性を高めていく。

現実には、個々の社員の気持ちを動かさないことには、組織の中に定着していかない。新たなブランドに対する社員の自分事化を促し、日々の業務を変える取組みをサポートする必要がある。具体的には、全社員で未来の会社案内を創ったり、新ブランドのらしさを表す旗艦店を発想したりといった様々な仕掛けが考えられる。

一方で、ブランディングの活動が継続的に自走していくための組織の仕組みを整えることも重要だ。具体的には、ブランディングを実施するための関連組織の役割、仕事や情報の流れを整理し、組織設計につなげていく。一方で、価格プレミアム、継続購買、あるいはマインドシェア等、ブランディング活動のKPIを明確にして、成果に結びつけていく。

さらに、ブランド形成の全ての過程で、必要なのはブランドにとってパートナーと想定される生活者との継続的対話である。今や、オンラインコミュニティ型のマーケティング調査の仕組みも進化している。一回の調査で、現状の生活者がブランドに対してどういった認識を持っているかを把握するだけでは限界がある。むしろ、パートナー生活者をネットワーク化して、継続的に自社のブランドに対して意見を聞いたり、そこから新しいイノベーションの芽を見出すようなアプローチに可能性がある。これはブランドコミュニティーというものが、ブランドのファンの集まりである一方で、実際の事業とか製品のイノベーションを考える1つの場になり得るということを示唆している。

当該市場に関心の高い生活者を集め、パートナーとして組織化、初期のステップから一貫して協働を図り、仮説の精緻化で協働する
※図:パートナー生活者との継続的対話

ここでもう一度確認したい。人口が縮小し、メディア環境が大きく激変する中で、従来ブランディングで重視してきたことからの発想の転換が求められている。すなわち、ブランドのターゲットを明確にして、約束をはっきりし、それを継続的に顧客接点でコミュニケーションしていくという発想から、生活者と共有可能なビジョン(未来図)を描き、それを、ただ情報として伝えるのではなくて、実際の行動として、その見本を見せながら動かして行くという発想への転換だ。

ブランドエクイティーという言葉が日本に登場して、約20年たった。その間、企業経営におけるブランドの重要性は変わらず、むしろ高まっているように思える。そして、その方法論やアプローチも、時代環境に合わせて進化させていかなければならないと言えるだろう。

注1: サービスブランディング 博報堂ブランドコンサルティング(現博報堂コンサルティング) ダイヤモンド社 2008
注2: 日経ビジネスオンライン スマーターシティ実現に向けたIBMのアプローチ 2012

■「ブランドはどこに向かうのか」連載コラム一覧(全4回)

※本連載は、「2016 広告コミュニケーション総合講座 ―理論とケーススタディー」(発行:日経広告研究所、発売:日本経済新聞出版社)に寄稿した内容を転載しております。