あなたが美食家であろうと、なかろうと、「ミシュラン星3つ」という言葉に興味をそそられない人は少ないのではないでしょうか?そして、欧米以外で初めて発売されたのがミシュランガイド東京版2008。そこに掲載されたレストランの星の累計がパリの倍以上を獲得、世界最多となり、東京が世界一の美食の町と言われる大きなきっかけとなりました。

なぜ、ミシュランガイドは生まれたのか?

そもそもなぜ、ミシュランガイドは生まれたのか?ミシュランタイヤのウェブサイトに、その歴史が掲載されています。

ミシュランガイドは、パリ万博が開催された1900年、広まり始めたばかりのドライブ文化を、より安全で楽しいものにするためのガイドブックとして誕生しました。当時は、まだ数が少なかった自動車修理工場や、市街地図、休憩のためのガソリンスタンドやホテルの紹介など、ドライブを楽しむためのガイドとして、無料で配布されました。しかしながら、ある修理工場で、傾いた作業台の足代わりに数冊のミシュランガイドが地面に積み重ねているのを見かけたミシュラン兄弟は、「人々はお金を払って買ったものしか大切にしない」との考えから、ガイドの有料販売を始めました。そして、1926年に評判の高い料理を提供するホテルに星をつけるシステムをスタート、現在のような形に徐々に進化していきました。

ミシュランガイドと同じような事例としてよく挙げられるのがギネスブックです。ビール会社のギネスの代表取締役だったサー・ヒュー・ビーバーが、仲間とアイルランドへ狩りに行った時の獲物の中で、世界一速く飛べる鳥は何かという議論がきっかけで、こうした事柄を集めた本の発行を思いつきました。そして、1951年にロンドンで調査に基づいたギネスブックの初版が発売されました。自社のロゴがデザインされたコースターにもギネス記録が記載され、それを話題に酒場が盛り上がり、ビールの売り上げにも繋がるのではないかと考えたのです。

「ドライブ」という需要の創造

ただし、ギネスよりもミシュランの方が、本の発行の目的はよりはっきりしていたようです。今となっては、ドライブすることは一般的になり、ミシュランガイドの地位も確立されました。とくに日本では、ミシュランという言葉は、タイヤよりも、美食の基準としてのイメージの方が強く、両者の関連性を意識することはさほどないかもしれません。ただ、ミシュランガイドがフランスで発行された当時は、社会の中で自動車の使い道は、それほどはっきりしたものではありませんでした。そこで、地方の美味しいレストランを格付けして紹介することで、そこに車で行ってみたくなる機会を増やし、結果としてタイヤの需要も高まることを狙ったものでした。現在でもミシュランのガイドブックが発売された国では、ミシュランのタイヤの売り上げが3%伸びるとも言われています。実際、ミシュランガイドには、ミシュランのロゴとブランドのキャラクターであるミシュランマンが前面に記載されています。企業メセナや社会貢献ではなく、あくまで、同社の主力商品であるタイヤを売るための関連事業として位置づけられているのです。

それは、以下のような、ミシュランの格付け基準にも通底しています。

一つ星:「そのカテゴリーで特に美味しい料理」
二つ星:「遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理」
三つ星:「わざわざ訪れる価値がある卓越した料理」

忘れがちですが、これは他の美食の格付け基準とはかなり異なるものです。「遠回りしてでも訪れる」「わざわざ訪れる」という表現の中に、単なる美味しさだけではない「車で移動すること」の必然性とその価値が表現されています。

ミシュランの売上高に占めるレストランガイドや旅行ガイドなどの出版物が占める割合は約1%とされています。デジタルメディアの普及の中で、今後どう事業として展開するか、課題も多いと考えられます。しかしながら、グローバルに事業展開をしているミシュランタイヤにとって、このミシュランガイドのコンテンツとしての可能性とブランドへの影響度は図りしれないものがあるのです。

ブランディング・キーアクションの重要性

今や、マスメディアを通じて、企業から一方的に発信される情報に基づいて、購買行動を起こすという受容的な消費者像は、終焉を迎えたといってもいいでしょう。生活者がオリジナルのコンテンツを発信し、それが拡散して行く時代です。ロゴやスローガンに基づくコミュニケーション活動だけでは、この情報過多の環境を突破することは不可能です。生活者の頭の中に確固としたブランドのイメージを創るには、イメージを具現化し、牽引する「キーアクション」が必要なのです。

何が、ブランドを飛躍させる「キーアクション」となるのか?それはどのような効果があるのか?アクションにはどのような切り口があるのか?次号以降、ブランドの成長を牽引する様々なアクションに注目し、掘り下げてみたいと思います。

 

[参考文献]
・ミシュランタイヤウェブサイト
・ギネス世界記録公式サイト
・「新しい市場のつくりかた」三宅 秀道著(2012/12)