企業のブランディングに携わって10年以上経つが、この10年間、多くの企業が経営の変革にもがいてきたと思う。

いつ終わるとも知れぬデフレを乗り切るためには、株主や出資者の支援を取り付けながら、社内の求心力をまとめ上げることが重視された。そのような中で、顧客視点に基づく「企業ブランドの構築」は、株主と従業員の間の利益分配の綱引きを乗り越えるものとして、企業経営における最有力の処方箋の一つと目された。
実際のところ我々も、お客様のニーズや志向を精緻に分析し、競合他社と差異化を果たすブランド創りのお手伝いを数多く行ってきた。

しかし、デジタル技術やグローバル化、消費者の生活スタイルなど、経営を取り巻く環境は企業がブランドを構築するよりも遙かに速いスピードで変化を遂げている。顧客をターゲット(標的)に据えて、自社の強み(資源)を集中投下するやり方だけでは、変化の激しい時代に有効とは言い難い。加えて、統合や分割を繰り返す企業のスピード感において、構成員どうしがゆっくりと「自分探し」を行えるような時間の猶予も許されていない。
果たして、企業ブランディングは死んだのか?
この時代に、企業という単位でブランドを構築する意味があるのだろうか?

2011年3月11日。
日本人の心の中に一生刻まれるこの日を契機として、多くの企業で経営や事業の見直しが図られたことは記憶に新しい。商品・サービスの単なる受益者と提供者の関係を越えて、社会に向けて、積極的な情報発信や多角的な事業活動に取り組むようになった企業は枚挙に暇がない。いまなお、多くの企業では自社のコーポレートサイトやソーシャルメディア上で継続的に情報発信を行っている。

2013年9月8日。
日本の朝は歓喜に包まれた。56年の時を超え、2020年に東京オリンピックが開催される。オリンピックが経済に与える影響は諸機関や有識者が様々な試算を出しているが、企業や生活者にも有形無形の影響が及ぶことになるだろう。2020年という期限を与えられて、これからの時間をどのように過ごすか、ビジョンを策定し戦略を立てるには絶好のタイミングと言える。

時代の変わり目を告げるシグナルが点滅している。
長らく、リストラクチャリングやガバナンスの手段となってきた企業のブランディングは、成長を力強く牽引するものへとシフトするだろう。等身大の姿を追認しているだけではブランドは創れない。自社単体ではなく、サプライヤーや関連企業、地域社会などエコシステムとしての事業活動全般を規定しなければならない。

競合他社との差異化を目指すブランディングの手法が無くなる訳でない。しかしながら、2020年という一つの節目が見えてきた今こそ、企業は新時代のブランディングのモデルを模索するタイミングにあるのではないだろうか。

(博報堂コンサルティングニュースレター 第21号掲載)