金融機関においても、独自性のある商品やサービスの提供、お客様との接点における統合的な広告販促活動など、戦略的マーケティングの展開事例が増えてきた。この流れの中で、マーケティング活動を促進するための基盤となるブランド力強化を目標としたプロジェクトが増えている。本稿では、弊社で得た知見を基に金融機関が取り組むべきブランド力強化の方法について解説する。

1.なぜブランド力強化が必要なのか?

■ お客様が選ぶ理由を提示できていない

若い世代を中心に将来のお金に対する不安が高まっている。2012年に予定されている適格退職年金制度の廃止を見据え、今後、確定拠出型年金(401k)の本格的な浸透とともに、資産運用に対する認識が「専門家に任せる」ものから、「自分の頭で考え判断する」ものへと変化してきている。 一方、金融機関各社は、人口減少社会へ突入する日本市場において、これまでの新規顧客開拓による成長から、顧客囲い込みによる成長への転換を図ろうとしている。特に、新富裕層と呼ばれる小金持ち層の資産運用サービスを強化しており、新規参入も活発化している。しかし、各社のサービス内容はどれも似通っており、お客様に選ばれるだけの明確な理由を提示できているものは少ない。そもそも、口座を集約化して1つにまとめ上げることのリスクや手間と比べて、どれほどのメリットが得られるのかを、実感をもって伝えられていないのではないか。この状況は、総合口座だけの問題ではなく、他の商品サービス全般において共通で見られる問題である。

■ そもそも金融サービスは選びにくい

金融機関が提供する商品は、クルマや家電のような“モノ”ではなく、“無形のサービス”である。また、金利や手数料などの分かりやすい目印はあるものの、様々な条件や仕組みなどの盛り込まれた複雑性の高い商品でもある。 各社は、投資信託の品揃えを強化しているがお客様にとっては、必ずしも選択肢が多いことはメリットではなく、逆に選択肢が多すぎるために迷ってしまい、購入につながらないケースも多い。 重要なのは、お客様が自分に合った企業や商品を選ぶ際には、必ずしも合理的な基準だけで判断を下すのではないということを認識することである。実際には、お客様の様々な体験を通じて頭の中に蓄積した「ブランド」イメージや、店舗の雰囲気や、応対してくれた担当者の印象などの総合的な判断により選んでいる(図表1)。 [図表1] モノとサービスブランディングの違い

■「銀行=信頼」は当たり前

弊社では、ブランドの強さの度合いを、企業と顧客との関係の深さにより3段階で設定している(図表2)。

[図表2] ブランド力強化の3段階

第一段階は「認知」である。名前を聞けば大半の人が知っており、知らないブランドよりも目に留まり、選ばれやすくなる。 次の段階が「信頼」である。この段階では、単純に名前を知っているだけでなく、一定の基準を超える品質を提供していることが知覚されている。多くの金融サービス企業が、長年にわたり「信頼」イメージの強化と維持に注力してきたが、今後は、ただ信頼されるだけではなく、多数の候補企業や商品の中からわざわざ選んでもらうために、もう一段階高い「愛着」段階のブランド力が必要である。この段階に到達できれば、数ある企業や商品の中から、お客様が喜んで選んでくれるようになり、さらには、価値観やライフスタイルを表現する対象として、長期にわたり愛用していただくことが可能となる。

■「愛されるブランド」を目指す

ここまで述べてきたことをまとめると、以下のようになる。 競合企業が乱立し、商品・サービスの差別化が難しい金融サービスにおいて、重要なお客様の囲い込みを進めていくためには、商品サービス力の強化や「信頼」イメージの維持強化だけでは不十分である。資産運用意識の高いお客様に積極的に選ばれるためには、企業とお客様との関係を通じて蓄積したイメージや体験を通じて「愛着」を感じてもらえるブランドになることが、厳しい市場環境で勝ち残り、安定的な収益基盤の構築につながると言える。

2.「愛されるブランド」の5つの効果

ここからは、ブランド力が「愛着」段階に到達することによる5つの効果について解説する。

1)メインバンク選びを促進する

銀行は、決済口座を入り口として、収益源である住宅ローンや投資信託を総合的にお取引きいただくための総合口座化を推進している。資産の大半を預ける銀行として選ばれるためには、他行にない独自サービスやコストの低さなどの合理的な理由以上に、長い年月を通じて培われた店舗や担当者との信頼関係などにより形成されたブランドに対する「愛着」の強さが大きく影響する。お客様から愛されているブランドだからこそメインバンクとして全てを預けるだけの信認と動機が生まれると言える。

2)プレミアムを高める

ブランド力がある商品とブランド力のない商品の違いは、価格プレミアムという形で端的に収益にインパクトを与える。例えば、スターバックスのコーヒーは、ドトールコーヒーより4割高い価格設定であるが、よく売れている。この価格差はスターバックスのブランド力によるプレミアムがあるからこそ実現していると言える。金融機関においても、ブランド力の高い銀行は、金利や手数料が高めでも喜んでお取引きしていただくことができ、収益力の向上に直結する。

3)口コミを促進する

ブランドの支持者の中でも、特に愛着度の高いファン層は、他人に積極的に薦める傾向が強いことが様々な研究から検証されている。お客様と同じ生活レベルや価値観を持つ家族、友人、知人は、金融機関にとっても優良顧客となる確率が高い。また、新規で口座開設等を検討する知人側にとっても、加入しなければ体験できないサービス内容を信頼のおける知人の実体験を通じて詳しく聞くことができるため、知人側も深い納得の上でお取引きしていただくことができる。

4)良い人材が集まってくる

「愛されるブランド」の効果は、お客様の開拓だけでなく、社内の人材にも大きなメリットをもたらす。特に、企業内部の活動が見えない段階で応募する必要のある新規及び中途の入社希望者にとっては、ブランドの持つお客様イメージや価値観が、モチベーションの高い人材を引き付ける。 結果として、採用コストの軽減や、お客様に対するサービス接点を担う人材の強化などの効果が期待できる。

5)アクシデントに対する抵抗力がつく

万が一、不祥事が起きた際にも、「愛されるブランド」として強い支持者がいることが大きな助けとなる。愛着をもつお客様は、ブランドに対する様々な連想イメージをポジティブな関係で保持しているため、不祥事などのマイナスの情報に対しても、自発的にポジティブな解釈を行うことができる。悪い噂を素早く発見し、早めに断ち切ることで、ネガティブイメージの増幅を抑えてくれることもある。 このように、「愛されるブランド」は、安定的な顧客基盤の強化を推進するだけでなく、収益拡大やコスト削減、リスク低減に直接的・間接的な影響をもたらしてくれる。

3.ブランド力強化~4つのアクション

最後に、「愛されるブランド」となるための基本的な4つのアクションについて概略を紹介する。

1)自社のコアバリューを見つめ直す

スターバックスは、顧客に約束する価値(コアバリュー)を「サードプレイス」としてまとめている(図表3)。

[図表3] スターバックスコーヒーのブランド価値創造

つまり、スターバックスは美味しいコーヒーの提供という機能的な価値を超えて、最終的に得られる心理的な価値やライフスタイルなどを含む「くつろぎの空間とそこですごす時間」を提供していると定義しており、美味しいコーヒー、居心地の良い家具や音楽などは、コアバリューを実現するための手段として位置づけている。この違いが、これまでのコーヒーショップとは全く異なる存在として受け入れられ、多くのファンをひきつけている。 金融機関においても、部門横断型のプロジェクトなどを通じて他社にはない独自の要素を洗い出した上で、最終的に「お客様に提供している価値」は何かを徹底的に議論し、明確なメッセージとして社内外に宣言することが必要である。

2)明確なブランドターゲットを設定する

コアバリューを規定するためにも重要となるのが「ブランドターゲット」と呼ばれるブランドを象徴するイメージターゲットの設定である。通常、金融機関が顧客ターゲットを設定する際は、世帯年収や保有資産額などのマネタリーの軸と、結婚、出産、退職などのライフステージをかけ合わせた軸で設定することが多い。ブランド力強化のためには、ライフスタイルや価値観などの心理的な側面を含む顧客セグメンテーションの調査等を実施し、その中でのブランドターゲットの設定があって、はじめて明確なブランド像を描くことができる。

3)お客様接点での一貫したコミュニケーションを展開する

明確なコアバリューとブランドターゲットを設定できたとしても、店頭、Webサイト、広告プロモーションなどのお客様との接点で伝えているメッセージやイメージがバラバラであると、明確なブランドイメージが形成されず、コアバリューの意味も伝わらない。 コアバリューを中核に、あらゆるお客様接点で一貫性のあるコミュニケーションを展開するための体制づくりが必要である。

4)お客様接点人材を強化する

金融サービスにおいてブランド形成上特に重要なのが、お客様接点を担う人材の意識である。実際にお客様にコアバリューを提供しているのは窓口業務、営業、コールセンターなどのお客様接点の人材であり、コアバリューやブランドターゲットの規定された背景から、目指しているブランドの方向性などについて深く共感してもらうことが不可欠である。そのために、研修制度や支援体制を準備するとともに、講師スタッフの研修も定期的に行い、メンテナンスをしていくことが必要である。

(2008年6月1日 「金融ジャーナル」掲載)